第3話 さんざんな目にあった!

 「おい!大丈夫か!?」


 怒鳴り声で目覚める。

 目を覚ますと、ヤンキー女がいた。


 「ここはどこ......おれは誰......」


 「お、落ち着け!ここは星がほしがはま。お前は市野光稀いちの みつきだ」


 「舞愛まいあちゃんに名前を覚えて貰えてるだけで嬉しいよ♡」


 「なっ......!」


 彼女は露骨に顔を赤らめたあと、右腕を振りかぶった。また気絶するのはごめんだ。両腕を顔の前に出し、ガードする。


 「ぃってぇ〜!!!!!」


 気絶はしなかったが前腕が死ぬほど痛い。折れた?折れただろ!


 「お前......」


 築城舞愛つきしろ まいあは目を丸くしていた。人をぶん殴ったら、まず謝れって。


 「私のパンチを見切ったヤツなんてはじめて見たぞ!」


 なんだか興奮しているが、見切ったもなにもあんな隙だらけの攻撃を防げない方がおかしいだろ。いや、威力がありすぎて防げたかどうかは微妙な所だが......


 「特殊な訓練を受けているんでね」


 「特殊な訓練!?どこで受けられるんだ!?」


 冗談で言ったつもりだったが、彼女は目を輝かせてグイグイくる。


 「それはもう......アリャバニスタンの特殊部隊で......」


 「アリャバニスタンってどこだ!?」


 おれも知らない。ニュースでしか名前を聞かない、内戦をやってる国だ。


 「ごめん。嘘」


 「あぁ!?」


 興味津々顔から一転、おれは睨みつけられる。一体何度睨まれればいいんだ。ということで変顔をする。


 「っぷ......!」


 あ、笑った。

 コイツは思いの外ゲラなのか?


 「おい」


 突然、異質な声が聞こえた。

 声の方向を見ると、不良がいた。二人組。見覚えのある顔だ。


 「お前らは昨日の......」


 舞愛ちゃんがおれの気持ちを代弁した。この二人は昨日彼女に絡んでボコされた奴らだ。


 「おい!昨日はよくもやってくれたな!」


 「卑怯者が!不意討ちしやがって」


 二人は彼女に謎の因縁を突きつける。


 「おい!」


 片割れがおれにも声をかける。


 「なんすか」


 「お前、その女の舎弟か?」


 ノーコンピッチャーなのかコイツは。的外れにもほどがある。


 「コイツは関係ねぇ」


 舞愛ちゃんが言う。

 

 「また昨日みたいにセコい手を使うんだろ。どうせその男は介入してくるぞ」


 もう一人も素人のダーツ並みに的外れだ。


 「だがそうはいかねぇ」


 ノーコンの方のヤンキーがそう言うと、影から仲間が5人出てきた。


 「お前、聞いてみれば星が浜最強の女らしいじゃねえか」


 彼はゲスい笑みを浮かべる。


 「フッ。テメェらがよっっっっっっっっっわいだけだ」


 対して舞愛ちゃんは余裕の表情。


 「チッ。だが7対2で勝てるかな?」


 ダーツの方のヤンキーがニヤリと笑うと、影から出てきたやつらも含めて全員でこちらに向かってきた。ちょっと待て、ダーツは“7対2”って言ったか?それっておれも数に含まれてるってこと?勘弁してくれよ......


 「市野、下がってろ」


 舞愛ちゃんはおれを一瞥し、ヤンキー集団に向かっていった。

 うわっ。マジ喧嘩じゃん。これだからヤンキーに関わると碌なことがないのだ。


 「猫太郎ねこたろう。危ないし逃げるぞ」


 おれは猫太郎を抱きかかえその場を離れようとした。

 しかし......


 「逃さねぇよ?」


 ノーコンとダーツがおれの前に立ちはだかる。7人で舞愛ちゃんと戦うのかと思ったが、コイツらは自分から彼女に喧嘩を売っておいて、戦うのは仲間に任せたようだった。


 「いや、おれは関係無いんで。猫太郎もなんとか言ってやれ」


 「にゃー」


 「猫に話しかけるバカかよ......」


 ダーツがボソッと言う。動物好きに謝れよ。頭に来た。


 「女の子一人に喧嘩を売っといて、当人2人はパット見で弱そうな、勝てそうなやつを食いにくる、どうしようもなくバカで、腰抜けで、ダサいバカには言われバカたくないバカね」


 「にゃー」


 猫太郎もそうだそうだと言っています。今からでもラドン太郎に改名するか?


 「うるせぇ!!!!!」


 バカ2人は2人がかりで殴りかかってきた。

 ショボい。見切った。

 しかし、猫太郎を胸で抱いているため、両手が塞がっていて、ガードはできない。それに、こんなパンチ、食らったところで大したことないさ。

 おれは猫太郎を庇いながら、攻撃を真正面から受ける。


 「ぐっ......」


 聖書の最も有名な言葉の1つに、“右の頬を打たれたら左の頬を出せ”というものがあるが、おれの行為は一般的に用いられている、“暴力に対する無抵抗”でなく、“自分だけは暴力を使わない”という偽善的・・・なものである。


 「オラァ!」


 「効かねえよ!」


 「死ね!」


 「そんなもやしパンチじゃ蚊も殺せねぇぞ!」


 殴られるたびに相手を挑発する。しかし、一発一発はショボくても、何発も顔に食らっては流石にダメージがある。足元はふらつき、頭はクラクラして、視界がチカチカする。


 「ハァ、ハァ......な、なんだコイツ......」


 「なんで倒れねぇんだ......」


 それはおれが意地っぱりだからだ。


 「クソが!!!」


 ノーコンの方がやけになり、目を瞑って渾身のパンチを繰り出してくる。パンチはおれの顔ではなく猫太郎に向かっていた。

 マズい......!

 おれは咄嗟に猫太郎を庇い、ノーコンに背中を向ける。


 「ぐっ......!」


 腰に拳が当たる。古傷だ。激痛が走る。おれは思わずその場にうずくまる。冷や汗が止まらない。ちょっとヤバいかも。


 「クッ!動物より自分を大事にしたほうがいいぜ」


 後ろからしょうもないセリフを浴びせられる。


 「猫を守って何が悪いんじゃ!」


 俺はもう一発を覚悟したが、飛んでこない。パンチどころか言葉も。

 おかしいなと思って振り返ると、ノーコンもダーツも倒れていた。そばには怒りの舞愛ちゃんが。身体から湯気を出して怒っている。その後ろには5人の不良たちがバタバタと倒れていた。


 「市野、大丈夫か?」


 舞愛ちゃんはおれの背中を撫でる。ヤンキーとは思えないほど優しい手つきだった。


 「よ、余裕よ!格が違うんじゃ!」


 おれは強がって無理矢理立つ。意地には自信がある。


 「帰れるか?」


 舞愛ちゃんが心配そうに聞いてくる。


 「たりめーよ!......うッ......!」


 強がっても限界はある。

 おれの意識は遠のき、本日2度目の気絶をしたのだった。



 つづく

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