第2話 ヤンキー女と猫がいた!
全員の自己紹介が終わり、新しいクラスのやつらの顔と名前を覚え......いや、ほとんど覚えていないが、担任が話を進める。
ちなみに担任の名前は松木というらしい。若い女教師だ。エロくていいね!知らんけど。
ところで隣のやつ、
どうも名の知れたヤンキーらしく、コイツの自己紹介のときに周囲がビビっているのがわかった。まぁ、豪快なだけで悪いやつではなさそうだし、何より俺の、周囲に自分を変人だと思わせ、距離を置かせるための
今日は始業式とクラス分けだけなので、午前中で学校が終わりだ。担任の話も終わって解散したらしく、クラスはガヤガヤし始める。しかし、この女がいるからなのか、若干静か目だ。
まぁ、別に俺は誰とも深く関わる気はないし、このクラスに知り合いがいないことが判明したため、とっとと帰ろうと思う。
帰るといってもまっすぐ家に帰るわけではない。
今日は楽しみにしていた映画の公開日。観に行くのだ。一人で。
†††
映画はよかった。
屈強な韓国人が拳で犯罪者を倒し、事件を解決するという類のもので、脳筋すぎて頭をからっぽにして見ることができた。
問題は、その帰り道で築城舞愛を見かけたということだ。
他のヤンキーに絡まれているということはなく、ケンカをしているわけでもなく、ただ一人で歩いていた。友達いないのか?
まぁ、おれも人のことを言えた立場ではないが......
ふと、彼女の前方、歩道の端に段ボール箱が現れた。
築城舞愛は段ボールの前にしゃがみ込む。
ふと現れる、紙袋とか段ボール箱とかが“不審物”としてテロ警戒の対象なのは有名な話だ。もしや、この女はヤンキーではなくテロリストだったのか???
「にゃーん」
そんなことを考えていると、あり得ないほどあまったるい声が聞こえた。
声の主はなんと築城舞愛。
段ボールからは子猫が出てきた。今どき段ボールに捨て猫というのも珍しいと思ったが、そんなことがどうでもよくなるほどの衝撃の出来事が目の前で起きていた。
学校中で恐れられているヤンキー女が世界一、いや、宇宙一甘ったるい猫なで声を子猫に浴びせている。
「にゃーん。にゃーん。ふふふっ」
おれは驚愕のあまりその場で凍りついていた。
「飼わないのか?」
しかし春の陽気が凍りついたおれを溶かし、いつもなら決してしない“自分から声をかける”という行動を取らせた。
「お、お前は
築城舞愛は驚いた顔をして、すぐにヤンキーモードに戻り、結構な大声を上げた。うるさい。
「まぁ、落ち着け。それからおれは“いちのぉ”じゃなくて“いちの”だ」
「お、おう......悪い。市野」
彼女はなぜか素直に謝った。
「いや、そんなことより、ずいぶん可愛がってたが......飼わないのか?」
「み、見てたのか!?」
「まぁな。意外とカワイイとこあんじゃんって思ったよ」
「かっかっかかかかかかわいい!?」
築城舞愛は真っ赤になって紙が詰まったコピー機のような音を出した。
「大丈夫か?」
「う、うるせぇ!お、女の子に軽々しくかわいいとか言うんじゃねえよ!」
“女の子”?コイツが?冗談はその威圧感満載のプリンヘッドだけにしてくれよ。まぁ、だが、そういうことにしといてやろう。コイツの顔は......悪くないからな。
「で、その猫、飼わないのか?」
彼女は悲しそうな顔をする。
「ウチ、ペットダメなんだよ......」
「へぇ。ヤンキーなのにルールに敏感なんだな」
「て、テメェ......!」
悲しそうな顔から一転、めちゃめちゃ睨まれる。そういうのいいから。無駄な行為だ。意味がない。
「でもこの子をここに放っておくのはかわいそうだな......」
おれは猫を撫でながら言う。
「お、おう......」
また彼女は一転、猫に意識が向いた。コロコロ表情が変わるやつだ。
「おれが飼うよ」
猫はここに放置していたらとんでもないお人好しが来ない限りは死んでしまうだろう。それはかわいそうだ。おれはお人好しではないが、動物には甘い。
「ホントか!?」
彼女は驚きと嬉しさと寂しさと安堵が混じったような表情で言った。
「ああ。よろしくな。
「は?」
「コイツの名前だ。今つけた」
「お前......もう少しかわいい名前にしてやれよ......」
「あんまかわいいとか言うなよ。コイツ、女の子だぞ?」
この猫は三毛猫で、睾丸っぽいものがない。
「だったら太郎はねえだろ!」
築城舞愛はそう叫ぶと、おれの胸にツッコミを入れてきた。しかし彼女は力が強すぎて、ツッコミというより逆水平チョップを食らったような感覚だった。
「う、うおおぉおおぉお......」
おれは声にならない呻き声とともにその場にうずくまる。
「ま、舞愛ちゃん......アンタ、プロレスラーか......?」
「ま、舞愛ちゃんだと!?」
おれは彼女のツッコミを比喩してプロレスラーか?と言ったつもりだったが、築城舞愛はその比喩でなく、おれのクセ、“女の子は下の名前+ちゃんで呼ぶ”に反応した。
ものすごい形相でおれを睨んでいる。
「ナメた口聞くんじゃねぇ!」
今度はパンチが飛んできて、おれの意識は遥か彼方へ飛んでいった。
つづく
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