ヤンキー女になつかれた!
ゆでカニ
第1章 ヤンキー女と動き出す春
第1話 ヤンキー女と遭遇した!
明日から新年度。春の陽気な日差しは気分を高めると同時に、おかしなヤツも活性化させる。
......ところで。
おれは苦手なものが2つある。
1つは
2つ目は
後者は今おれの目の前にいる。ただし絡まれているのはおれではなく名も知らぬ女の子だ。
「姉ちゃん、俺たちと遊ぼうよ」
「......。」
「ホテル代は出すからサァ」
「......。」
二人組の不良が金髪の女の子に言い寄っている。
正直女の子の方も遊んでそうな見た目だが、あからさまに嫌がっている。
うーん。
ガラではないが、助けるか。不良2人くらいなら相手にできるだろう。
そう思い声をかけようとしたとき......
「ひぎゃっ!」
不良の片割れが悲鳴をあげた。
女の子の左拳が彼の腹にめり込んでいたのだ。
不良は膝から崩れ落ちる。
マジかよ。
「なんだコイツ!」
もう一人が掴みかかろうとすると女の子は左足を踏みつける。
「うわっ!」
男は思わず後ずさろうと右足を無意識に下げた。
女の子はガラ空きになった股間に思いっきり蹴りを入れた。
不良は悶絶。
立っていたのは女の子だけだった。
目つきが悪い。金髪だと思っていたロングヘアも、よく見れば頭頂部が地毛になっておりプリン状態。威圧感に溢れていた。野球ゲームだったら青特だろう。
「あ、アイツは!星が浜最強の女......!」
一般通過ニキがえらく説明的な口調で叫ぶ。つーか、この女も不良なのかよ!......っと。ヤバい。目があった。
「あ?」
その瞬間、ガンをつけられる。
「何見てんだよ」
そりゃあ見るだろ。自分が置かれた状況を客観的に見てみろよ。という言葉が喉まで出かかるが、耐える。ヤンキーに理屈は通用しない。
「いや、......フッ......!未来かな」
「な、なんだお前......」
「み、見えるぞ!未来が!今日の夜はカレー!パキスタン風じゃ!フハハハハハハ!!!!!」
不良娘はドン引きして呆然としているようだった。
やはり、ヤバいやつに絡まれたら頭がおかしいふりをするに限るな。
「それでは!アディオス!」
おれは彼女に対して敬礼すると、大股で逆方向に歩き出した。
追ってくることもなく、その場から立ち去ることに成功した。
この日は......
†††
翌日。
散りかけてほぼ葉桜になった桜の木に迎えられておれは校舎に入る。
2年生の階層である二階に行くと、掲示板にクラス分けが張り出されていた。
同じクラスになってヤッタとはしゃぐ人たち、逆にクラスが分かれて落胆する人たちの喧騒で既に廊下はカオスの様相を呈していた。
人々の隙間から、まるでエロガキが女湯を覗くくらい小さな小さな隙間から、自分のクラスを確認する。
うちの学校は10クラス。そのうち文系は7クラス、理系は3クラスである。で、ド文系のおれは1から7のどれかなのだが......
「おーあったあった」
無意味な独り言とともに自分の名前を見つけた。3組。
誰か知り合いがいるかなと思いつつ表を見続ける。
しかし表を全部見る前にはしゃぐグループに押しのけられてしまった。
「とほほ」
再び吐いた無意味な独り言は喧騒にかき消された。
気を取り直して教室に向かおう。知り合いがいようがいまいが関係ないさ。
「うーっす」
ドアをガラガラと開いて教室に入る。大半の学生が廊下に出てはしゃいでいるのだろう。教室の中はガラガラだった。
「まるで3セクだな」
その独り言に反応するものは一人もいなかった。当然だ。
黒板に貼り付けられている座席表を凝視すると、おれの席は窓際の一番うしろだった。
「ええやん」
どかっと座り教室全体を見渡す。
後ろに人がいないので一方的におれが見ることができるのだ。
次第に教室に人が増えてくるが、なんだか様子が変だ。ざわついている。
転校生でも来るのか?と盗み聞きをするために耳を立てる。
「ツキシロさんウチのクラスらしいよ......」
「マジで!?キレイだけど怖ぇんだよなぁ〜......」
「学校一のヤンキーだもんな......」
なんだか有名なヤンキーとクラスが同じらしい。
いや、ダルいな。別に怖くはないが、おれは静かに暮らしたいんだ。絡まれたらダルすぎる。
徐々にクラスは満室に近くなっていき、ざわめきは喧騒に変わる。しかしおれの隣の席にはいまだ誰もいない。
「はーい席についてー」
担任であろう女性が入ってきても隣席は埋まらなかった。
隣のやつは初日から休みか?そう思ったが嫌な予感がする。
さっきそのへんのやつらが話していた学校一のヤンキーとかいうやつは見当たらない。それに空いてるのは隣の席だけだ。
「マジかよ......」
頭を抱える。
「もう。ツキシロさん、遅刻だよ」
「ういー」
そして担任の小言とともに女の子が入ってくる。教室の空気は凍りつく。
女の子を見ると長い金髪で頭頂部が黒くなっていた。見覚えがある。
昨日のやつじゃねえか!
彼女はずんずんと歩を進め、おれの隣席に近づいてくる。
うわ。終わったわ。
とにかく昨日会ったことを彼女が覚えていないことを祈り、おれは古い扇風機のように、ゆっくりと顔を窓に向け、目を合わさないようにする。
隣からドカッと音が聞こえた。乱暴に座るなよ。
「お?」
ヤンキーは鳴き声を発して俺を見る。
つい彼女のほうを見てしまったが、おれは1ミリずつ目を逸らす。
「お前昨日のやつじゃん!」
極めて主観的な事実を声高に叫ぶヤンキー女。
おれから見てもお前は“昨日のやつ”なんだが。これだからヤンキーは。
「誰が?」
「お前だ!お前!」
彼女はおれを指差す。当然おれは後ろ、
「テメェ......喧嘩売ってんのか!?」
彼女の目つきが変わり、俺を睨みつける。
マズい!挑発が過ぎた!殴られる!痛いのはいやだ!
「5億円だが......買えんのか?」
しかし、本能には抗えない。
煽ってこそ人間だ。
おれは右ストレートを喰らう覚悟を決めた。
が......
「ぷっ......くくく......!」
ウケていた。
「お前、やっぱおもしれぇな」
「次、
担任に名前を呼ばれた。
「え?」
おれは間抜けな声を発して固まる。
「自己紹介するっ」
担任はびしっと俺を指さした。当然真後ろ、虚空を振り返る。
「アナタよアナタ!」
担任はびしびしと何度も俺を指さす。
「クククク......」
隣のヤンキーはツボっているようで震えていた。
ふざけるのはこのくらいにしておこう。
「えー。どうも
ゴソゴソとカバンを漁り、マスクを取り出す。マスクといっても一般的に想像されるタイプの物ではなく、スパイ◯ーマンのマスクである。おれは躊躇なくそれをかぶる。
「マスクを付けるとスパ◯ダーマンに似てるってよく言われます」
クラス内は大沈黙。
「クククククククク.......」
隣のヤツだけ笑っていた。
「じゃ、じゃあ次はツキシロさんね」
オウと言って勢いよく立ち上がるヤンキー女。
「
へー。意外とかわいい名前じゃん。
「よろしくな!」
それだけ言って座った。ご、豪快だ......
「市野もよろしくな!......ブッ......!ダッハッハッハ!!!」
もちろん俺はス◯イダーマンのマスクをつけたままだった。
そしておそらくこのヤンキー......築城舞愛の豪快な笑いにクラスはビビって凍りついていた......
つづく
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