第22話 繰返性のシュレディンガー『始動』

「....こねぇなアイツ。もう5時だぜ。」


「確かに遅いね。」


「もう、先にでも行っとくか?」


「いや、さっきメールが来たからもう直ぐ来るよ!!」


「そうか?まぁ、怖気付いたのかも知れないけどな。」


 時計の針が何周もしている頃、もう既に時刻は午後5時に差し掛かっている所だ。

 それにしても遅いな。カズは一体なにをしてるって言うんだ。

 そんな事を思っていた時、アイツは全速力で走りながらやってきた。はぁ、はぁ、と息を切らすカズから見て取れて、かなりの全速力で走ってきたのであろう。


「おっ、やっときたなおま、」


「あぁ、来たぜー。」


 それにしても息が上がりすぎているな。確かに、早く来いとは言ったもののそこまで早く来いとは言ってないのだがな。


「ん?」


「なんだ?どうした玲?」


「いや、あんた。その手に持っているやたら無駄に光っているその球は何なのよ!!」


 カズが持っていたのは『過』と書かれたただの球であった。歪なまでに綺麗に光輝くその球は、まるで大きな真珠の様でもあった。なんだ?ゲームセンターかなんかで遊んできた帰りなのか?これは。


「ふふふ、これはな......」


 そう言いながらカズは高見の方をチラッと見る。


「飲めば、世界一のハーレムモテモテ男になれる、魔法の球だ!!」


 その場は瞬く間に沈黙の空気が漂った。いや、絶対違うだろ!!流石に私でもわかるぞ。これはそんな都合の良さそうな球じゃない事を。流石に、あのアホで有名な高見も......


「うぉっーー!!きたぁーー!?そう言うのを俺は待っていたんだ!!」


 そうだ、忘れてた。こいつは天然記念物レベルのアホな事を。特にこう言うわかりやすい欲求を満たすものに対しての興味関心ときたらもう。


「ちょっと待ってください。なんですか?その球は。」


 ささみやちゃんはまともみたいだ。


「モテモテハーレムだなんて!?そんなの、羨ましすぎるじゃないですかーー!???」


 前言撤回。同レベルの知能の持ち主だったわ。それにしても、この球をどうするつもりなのよ。


「そりゃもちろん、男子に囲まれてフォーエヴァー」


 欲望ダダ漏れだな。


「だろ、だろ。だがなささみや。これは男専用の球なんだよ。残念な事に女子には効果が無いんだ。」


「ガックシ」


 感情が言葉に出るタイプかよ。


「そんじゃあ俺がそのモテモテとやらにしょうがなく、なってやろうとするかな。」


 お前が一番最初からずっとノリノリだっただろうが!!


「それで、これはどうやって使うんだ?」


「飲み込む」


「え?」


 高見がそれを聞いた瞬間真顔になった。いや、飲み込むって、こんなモノを丸呑みしたらたちまち、どんどん青ざめていってそのまま惨めな顔で窒息死するわよ。いや、でもこれを提案するってことは、これは意味のある行動とも取れるわ。もしかしたら、あの自信に満ち溢れていたカズの表情は、この球に託した思い出もあったのかもしれない。


「さぁ、高見!!一思いに呑み込んでくれ!」


「いや、無理無理無理無理。死ぬって。」


「いや、聞いた話によると案外すらっと入るらしい。」


 ......しょうがない。手伝ってやるか。


「おい、カズ!!高見抑えておけ。」


「オッケー、いつでも来い」


「うぇっ、ちょっ、おまっ!!」


 私は高見の口の中に球を無理やり押し込んだ。そして、この空間にはゴクッという音が響き渡り、高見の喉元を過ぎ去っていった。」


「どうだ?高見。」


 高見はしばらく顔を下に下げ、目を瞑っていた。揺さぶったりもしたが反応は特になかった。

 そして、暫く時間が経った頃。ようやく、こちらに顔を見せた。深刻そうな顔色ながらも笑顔なその表情から見るに、この一瞬で高見に何かがあった事を指しているのであろう。


「......全部思い出したよ。」

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