第23話 繰返性のシュレディンガー『追憶』
私は医者だ。正確には医師免許を持っていない、いわば闇医者ともヤブ医者とも言える様な役柄であった。しかし、私は人並みに......いや、なんなら地元では名医とまで言われた男だった。手術の腕も完璧で、医療に関する知識なども完全であった。だが、弘法筆の誤りとはよく言ったものだ。
何故なら、実際に私がそうであったからだ。
【1979年3月2日】
ある女性患者が入院していた。症状は子宮がんであり、レベルはギリギリのラインであった。問題は無かったのだが、一応念のために腫瘍を手術でとってしまおう、という話になり、手術が決まった。
私はその女性患者の病室にへと足を運んだ。
「それでは、明日に手術を決行します。今日は安静にしてくださいね。」
私は慣れている事なのでその一言だけを言い残そうとしていたのだが、私は女性患者に呼び戻された。
「先生、あの。」
「はい、どうしましたか?」
「明日の手術がとても不安です。私.....手術なんてしたことないものですから」
その女性患者は不安げな表情で俯く。未知なる不安からきているのか、涙目になっている。
しかし、私は曲がりなりにも医者もどきだ。彼女の不安を取り除くような言葉を投げかけた、
「大事ですよ。この手術さえすれば、恐らく、ステージが進む事はないでしょう。後は薬の投与でいけるはずです。」
「本当ですか?」
「ええ、本当です。なぜなら私は医者なのですから。患者さんの病気を治すのが仕事なので。」
「託します。明日の手術、是非!お願いします。」
「ええ、任せてください」
今になって思う。あまりにも天狗になっていたのであろう。もはや病院開設から早10年が経過していたので、もはや自分は正規の免許を持った医者なんじゃ無いかと思う程であった。だが、実際は違う。偽造の免許証、偽造の身分証、偽りの名前。私はこの時は赤石と名乗っていた。
そして、
【1979年3月3日】
今日が彼女の手術の日であった。これが、今に至るまでの全ての原因であるような、日だったのかもしれない。
「おはようございます。昨日は寝れましたか?」
「はい、寝れました。まぁ、すこしだけなんですけどね。」
「やはり不安ですか?」
「いえ、私には先生がいるので安心です。」
曇りなき目で私の目を見る彼女。私は絶対に彼女を治して見せると誓ったのだ。
【11時38分】
手術室に立っている私は最初こそは順調に進んでいた。しかし、終盤に差し掛かった頃、急激に彼女の容体が悪くなった。
「くそっ、何故だ!!血が止まらない!!」
「先生!!何故です!?」
「くそッ、止まれ、止まれ、止まれ、止まれ!!」
私はそこから色々と試行錯誤した。しかし、彼女の出血が治ることは無く、まもなく亡くなってしまった。私は後悔の念に立たされていた。恐らく数分間はその場で立ち尽くしていたであろう。周りの信用があったお陰で病院は潰れる事は無かった。しかし、私は後悔の念が消える事など無かった。夢にも出てくる程に、私は気を追っていたのだ。
そして、1982年3月3日。私は病院で原因不明の症状を起こし、死亡した。私は死ぬ前の少しの猶予でこう思った。これは彼女の呪いであろう。それと同時に、これは私の罪滅ぼしの様なものだとも思った。そして、今に至る。
これが宿怨の記憶。
そして、これが俺の罪の記憶だ。
「という事だ。カズ。俺はお前との約束を思い出す事が出来たよ。ありがとう。」
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