第40話 セリスと買い出し

「なんだろう、むっちゃ頭がすっきりしてる……」



 ティアたちと冒険者ギルドで今後の話をしていたがいきなりの眠気に襲われて気づいたら眠ってしまったのだが、驚くほど体が元気になっている。鏡をみると目の下のクマもうすくなっており、ちょっとこわくなるくらいだ。

 あのワインはアルコールが強い分回復効果でもあったのだろうか? あとで調べてみよう。



「しらない天井だけど、間違いはなさそうだ。よかったぁぁぁぁぁ」



 隣でいびきをかいて爆睡しているアモンを見てほっと一安心する。ティアにあんなことを言っていたくせに万が一女の子とエッチなことをしたら申し訳が立たないからね。

 そんなことを考えているとノックの音が響く。



「失礼します。ファントムお兄様……起きてらっしゃいますか?」

「ああ、今起きたところだよ」



 すごい良いタイミングだなぁとおもいながら扉をあけると。そこにはいつもの神官服ではなく、町娘のようなワンピースを身に着けたセリスがいた。

 今更ながらセリスは美少女だ。絹のようにサラサラな長い銀髪に恐ろしいほど整った顔。流石は神の奇跡とまで言われた少女である。

 そんな彼女がいつもの法衣ではなく、レースがあしらわれ胸元の強調された年相応の女の子らしい服でいるものだから思わずドキリとしてしまった。

 別におっぱいのせいではない。いや本当にね!!



「その……法衣だと目立つと思って私服を着てみたのですが変だったでしょうか?」

「いや、とっても似合ってるよ。今日の格好は聖女じゃなくて本来のセリスって感じで俺は好きだな」

「う……ここまでストレートに褒めてくるなんて……抑えなさい……セリス……」



 感想を言ったらなぜかそっぽむかれてぶつぶつと呟き始めた。そのうえ悶えはじめたんだけど、体調が悪いんだろうか? 



「昨日お話した通り二人で買い出しに行きましょう。買うもののリストは作っておいたのでご安心ください」

「え、そんな話したっけ?」

「はい、ファントムお兄様は笑顔でうなづいてくれましたし、ティアさんにも許可はもらってますよ。それとも私と街を歩くのはお嫌でしょうか……?」



 昨日は途中で酔いつぶれてしまったのでマジで記憶がないんだけど……セリスの悲しそうな顔を見てとてもじゃないが、断ることなんてできなかった。

 まあ、ティアもオッケーしているみたいだし、問題はないだろう。アモンはよくわからないけど……



「いや、大丈夫だよ。では、今日はエスコートさせてもらおうかな」

「はい、よろしくお願いします。ファントムお兄様!! 昔を思い出して楽しいですね」



 満面の笑みで腕を取るセリスに年相応に子供だなぁと思う俺だったが、押し付けられた胸にやっぱり子供ではないなと思いなおすのだった。

 


「ティアさん……約束通り私からは誘惑しません。でも、ファントムお兄様から襲われたらしかたないですよね♡」

「ん? 何か言った?」

「いえ、最初は道具屋へ行きましょう」



 一瞬にやりと妖艶に笑った気がしたがいつもの穏やかな笑みを浮かべている。そうして俺と彼女はともに歩き出すのだった。




 


「こんなに安くしくださるなんて……ありがとうございます。あなたに神の祝福がありますように」

「こっちこそ、腰痛を癒してくれて助かったよ。おかげであと十年は働けそうだ」



 道具屋にて貴重なポーションやテントなどを包んでもらいながら店主であるおじいちゃんに感謝されはにかんでいるセリスを見てすごいなと思う。

 彼女は店主の腰に気づいて無償で治療したのだ。その結果こうして色々とサービスされているのである。


 そもそも腰痛などの継続的な痛みは戦いの傷とは違い絶妙な制御が必要なため治しにくいはずだが即座に治療するのはさすがセリスというところだろう。

 聖女などと呼ばれても浮かれずに鍛錬した結果なのだから……



「お兄さん、気が利く良い子をパートナーにしたね。逃しちゃだめだよ。うちの孫も最近結婚してねぇ……」

「いや、俺たちは……」

「もう、お似合いだなんて、恥ずかしいじゃないですか……ねえ、ファントム」



 いきなりの呼び捨てにどきりとしてしまう。まあ、孫のことを嬉しそうにはなしているおじいちゃんのために話をあわせているということだろうけど……




 そうしておじいちゃんのお話を聞いてたっぷりとサービスしてもらった俺たち華やかな大通りにたどり着いた。

 なにやら偏った客層の行列がみえる。どうやらカフェのようだ。王都に近いからかそれなりにおしゃれな店もあるようだ。



「ファントムお兄様……その、一つだけお願いがあるんですが、いいでしょうか?」

「え? 別にかまわないけど……」

「ああいうオシャレなところにあこがれがあって……あのカフェにファントムお兄様と入りたいんです」

「まあ、法衣で並んでたら浮くもんね……」



 普段は聖女として教会で働いているのだ。こういう華やかなところとは縁遠かったんだろう。魔王退治の時も余裕はなかったしそんな余裕はなかったしね。



「ああいいよ。だけど、結構まつなぁ。ティアたちとの待ち合わせに間に合うかな……」

「あ、それなら大丈夫です。朝一整理券をとっているので、すぐに入れますよ」



 俺が断ったらどうするつもりだったのだろうと思いつつ、まあ、断らないと思うくらい信頼してくれているのだなと嬉しくなる。



「じゃあ、行こうか……なんか昔に街を案内した時を思い出すね。俺の妹の服を着て、街を探索してさ」

「ファントムお兄様……覚えていてくださったんですね!!」

「当たり前でしょ。夜の冒険は楽しかったよね」

「はい!! 私の一生で一番大切な思い出です!!」

「大げさだなぁ……でも、そういってもらえるとなんか照れるな」



 いつもはおしとやかな笑顔の彼女が大きく声を上げるを見てテンションがあがる。可愛い妹分のお願いを聞くだけこんなに喜んでもらえるなんて嬉しいね。



★★


「やっぱり油断はできませんね……あの人……」

「ティアよぉ……。なんでそんなに殺気を放ってるんだよ。周りの人がびびってるぜぇ……」



 個人的な買い出しのために街を歩いていたティアがたまたま遠目に道具屋を出てきた二人を見たところ、なんとなく女の勘で嫌な予感がしたので二人をつけていたのである。

 ちなみにアモンは偶然をよそおって待ち伏せをしてきたので無視している。



「あのカフェはなんなんだぁ?」

「完全個室のカップルカフェですよ。冒険者ギルドで聞いたことがありますがあそこにデートを誘うと必ずカップルになれるという噂のカフェです」



 まあ、実際はあんなところに誘った時点で告白しているようなものである。ゆえにここに行くのを了承するということは付き合うのをオッケーしたことになるのだろう。


 まあ、師匠はしらないんでしょうけど……



 もう一つの問題は個室というところにある。

 盛り上がったカップルがつい……などということもあるらしい。それにだ……



「師匠は結構押しに弱いですからね……雰囲気に流されてしまうかもしれません。どうせ、私が文句を言ってもあの人は『私は誘惑してませんよ、ファントムお兄様が襲ってきただけです。まあ責任はもってもらいますけどね。ごめんなさい。負け犬さん』とか言ってきそうですし……」



 ぐぎぎぎと情にほだされてチャンスを与えたことを後悔しているとアモンがにやりとわらった。



「だったら俺様と乱入してやろうぜぇ。四人ならそういう雰囲気にはならねえだろ」

「……お気持ちは嬉しいです。でも、あなたが私に好意を抱いているのは知っています。その気持ちを受けられないのに一方的に利用するようなことはしたくないんです」



 ティアが丁重に断りをいれるがアモンはにやりと笑う。



「なーに言ってんだ。俺がいいって言ってんだから存分に利用しろっての。やらないで後悔するのは嫌だし、ティアにNTRはまだはやすぎんだろ」

「アモン……」



 男らしい言葉に感動していたティア。目の前の男がきもい魔族から、口調は悪いが面倒見の良い魔族に評価が更新されたが……



「それに、目の前でよぉぉ。ティアがファントムにメスの顔をしているのをみると興奮するんだよ。だから、本当にきにしなくていいぜぇ」

「うわ、きっしょ」



 はーはーと息を荒げるアモンに一気に評価が下がる。


 わるいですけど……まけませんからね、セリスさん。だって、私はだれよりもか可愛い冒険者で……誰よりも師匠のことが好きなんですから。


 そうして、ティアもカフェへとむかうのだった。




★★★


 次回は密室カフェデートです。


 ファントム君の貞操は守られるのか?


 お楽しみに!


 しかし、今のジャンルが異世界ファンタジーなんですがラブコメの方が近い気がしてきた…… 

 



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