第39話 女子会

 二手に分かれた俺たちは迂回しつつ王都へと向かう。さっそく、関所についたのだが……

 


「申し訳ありません。今はちょっと厳重警戒状態でして、身分証のない方は入れることができないんです」



 例によってアモンが引っかかっていた。なんとかならないかなと裏金でも渡そうと思っていたのだが……


                                        

「盗賊に襲われて荷物を奪われてしまったんですなんとかできないしょうか? この方々は私を護衛してくださっている冒険者様なのです」

「かっこいいお兄さん、私からもお願い♡ この人ががいないと私たちはろくにクエストが受けれなくなってしまうんです」

「え……あ……う……」



 神々しさを感じされるセリスに頼られて少し動揺した瞬間を見逃さず今度はティアが上目遣いにお願いすると衛兵は顔を真っ赤にして口をパクパクとさせている。



「お願いします。この方が害をなさないことは私が神の名のもとに保証いたします。ですから、山賊に襲われて困っている私たちをお救いいただけないでしょうか?」

「ねえ、お兄さん。お願い♡ あなただけが頼りなんです。服ももうぼろぼろでの……もう野宿は限界なんです」



 セリスがまるで宗教画の一部のような美しい所作で衛兵に軽い祈りを捧げ、ティアがわざと傷つけたレザーアーマーからのぞく白い肌をみせると衛兵が生唾を飲む。

 


「……ああ、二人とも大変だったんだな……いいぜ、通れよ。責任は俺がとる」



 あっさりと通行許可がおりてしまった。二人とも先ほどまでのつらそうな表情はどこにいったのか、どや顔でこちらを振り向いてくるが、まるで示し合わせたかのようなやり口にちょっとびびっていた。



「こわいこわいこわい。何あの二人。なんで裏金も出さないでオッケーもらってんの?」

「はっはっはー、ティアはさすがだけどよぉ。セリスもやるじゃねえか。あの女、兵士の反応を見て表情をかえやがったぜ」


 セリスが神官への信頼感と同情心を相手に感じさせて、興味をひかせると同時に、ティアが可愛い女の子に頼られるという承認欲求とスケベ心で魅了する。

 まさに陰と陽である。俺は引き合わせてはいけない二人を合わせてしまったのかと戦慄していると両方の腕が同時に取られる。



「ファントムお兄様、お疲れでしょう? 宿にいったらまずはマッサージなどもいかがでしょうか?」

「さあ、師匠いきましょう。宿屋を決めたらまずは冒険者ギルドで情報集めですよ」

「あの……変に目立つからこの状態はあまりよくないと思うんだけど!!」



 当たり前のように俺の腕を取るティアとセリスから抜け出そうとするもすさまじい力で握られており、脱出できない。



「じゃあ、俺も……いってぇ!! ああ、でもこのごみのような扱いたまらねえ」


 アモンに助けを求めるも、彼はティアの腕をとろうとしてはたかれてなぜか満面の笑みを浮かべていた。



「あのさ……二人とも慕っていてくれるのはうれしんだけど、美少女にこんなことされると目立っちゃうからやめてくれる?」

「申し訳ありません……久々に会えてうれしかったものですからついやりすぎてしまいましたね」

「すいません、私も師匠と一緒に街を歩けるのがうれしくてつい……」



 二人してしゅんとした表情で手を離しくれたがなんだろう、むっちゃ罪悪感を覚えてしまう。

 セリスは俺を兄として慕ってくれているだけかもしれないが、ティアにはほとんど告白のようなことをされているのだ。嫉妬するのも無理はないだろう。

 はやくオセを倒して自分の気持ちに答えを出さなきゃなと改めて誓うのだった。


 




「やっぱり魔族関連の依頼が増えてるね。エレナたちもうまくやってくれているといいけど……」

「エレナさんならばきっと大丈夫でしょう? エルフは珍しいですし、あの人はあの外見ですが、頭は回ります。あ、コップがからですよ、ファントムお兄様」



 セリスにそそいでもらったワインを口に含みながらこれからのことを考える。

 街で宿をとった俺たちは冒険者ギルドでクエストボードを覗いたり受付嬢や冒険者から情報を集めてこれからの話を相談していた。

 特に目立った情報がないことにほっと一息ついているとアモンにティアが冒険者ギルドについて色々と説明していた。



「へぇー、お前らはこうやってランクで依頼をわけてんのか、おもしれーな。俺たちはランクはどれくらいなんだ?」

「あなたがた魔族はBランクからSランクですね。多分ですけど、アモンさんはAランクだと思います」

「はっはっはーー、ならDランクのティアは俺がまもってやるぜぇ!! 戦いになったら存分に頼ってくれよ」

「いえ、私は師匠に守ってもらうので大丈夫ですよ。お気持ちだけいただきますね」



 アモンが作戦がんがんいこうぜなのにすべてを受け流しているのをみて、ティアってすごいなと思っているといきなり眠気が襲ってくる。

 あれ、ワイン一杯だけなのになんで……? セリスに状態異常回復の魔法を唱えてもらおうと思って……なぜか彼女が満面の笑みを浮かべていたのが気になった。そして、意識が暗転していくのだった。



 ★★


「師匠、大丈夫ですか?」

「……うーん、もう食べれない……」



 いきなりテーブルにつっぶしたファントムを見てティアは驚きながら声をかける。だが、返ってくるのは関係のない寝言だけだ。

 彼は別に酒は弱くない。よほど疲れていたのだろうか?



「アモンさん、ファントムお兄様を宿まで連れて行っていただけますか?」

「あ? 別に寝かせときゃいいんじゃねえか。それよりもよー、このステーキってやつうめえなぁ。もう一つお代わりしても……」

「もしも、運んでいただけるならば、ティアさんとお二人でお話しする機会をつくりますよ」

「俺にまかせなぁ! 速攻ではこんでいってやるぜぇ」

「ちょっと、待ってください!!」



 ティアの制止も聞かずにハイテンションになったアモンがファントムを背中にのせるとすさまじい速さで出て行ってしまった。

 その背中を見つめながらティアは嫌な予感がしつつも疑問を口にする。



「セリスさん……そのワイン飲んでいただけますか?」

「うふふ、いいんですか? ファントムお兄様と間接キスをして? 神よ、我が友の毒を癒さん」



 セリスは先ほどまでの神々しさを感じさせる笑みではなく、悪魔のような妖艶な笑みを浮かべるとファントムのワインに解毒の魔法を唱え、こちらに見せつけるようにして、あえて彼が口につけた部分と同じところにくちをつけるとワインをすべて飲み干した。

 


「セリスさん……あなたは師匠のことを異性としてお好きなのでしょうか?」

「ええ、当たり前でしょう。私はあの人と結ばれるために聖女としてうまれたのですから。アンリエッタさんと婚約破棄した今、遠慮する理由はありませんもの」



 どこか狂気を宿した瞳をらんらんと輝かせながら彼女はうなづくとうっとりとした表情で先ほどまで彼が座っていた椅子を撫でる。

 それを見てティアの女の勘がこわいほど訴えてきた。


 ああ……この女はやばい……私のライバルになる存在だと……



「わざわざ二人っきりで話すタイミングを作ったのは師匠のことでいいたいことがあるんですよね?」

「ティアさん、私は恋愛下手で素直になれないエレナさんとは違いあなたがライバルだと思っています。それと同時にファントムお兄様を立ち直らせていたあなたに敬意も抱いています。だから、協定を組みませんか?」

「協定ですか……?」



 どういうことかわからず聞き返すとセリスは満足そうにうなづいて口を開く。



「とりあえずこの旅が終わるまではこっちからのスキンシップは控えましょう」

「あー、確かに師匠はこういうのはちょっと引いてましたもんね……」



 とはいえティアとて好きでやっていたわけではない。セリスがやたらとくっつくから、ついつい対抗してしまったのである。

 できればああいうことは二人の時だけにしたかったので助かるのが本音だ。



「それと一度だけでいいんです。明日の買い出しをファントムお兄様と二人で任せてはいただけませんか?」

「え?」



 素直に頭を下げるセリスに驚くティア。なんというかもっと断れないような取引でもしていくのかと警戒していたので拍子抜けしたのである。

 でも……この人は薬をつかったり強引に誘惑しそうな気が……



「もちろん、もう、ファントムお兄様に薬を使ったり、私の方から誘惑したりはしないと神に誓います。ですからお願いします」

「わかりました。一回だけですからね、そのかわりエッチなことは絶対だめですよ」



 思考を読んだかのような言葉に少し戦慄を覚えつつも、プリーストが神の名を出して約束するということの重要さを知っているティアはうなづく。



「よかったです……では、せっかく女子会とやらをしましょう。私ね、あこがれていたんですよ。好きな人のことを話すの……今までは誰にも言えませんでしたからね」

「同じ人の好きなところはなすはなんか不思議なかんじがしますけどね、いいでしょう。私がどれだけ師匠が好きか教えてあげましょう」


 こういう話ならば歓迎だとばかりにティアも笑顔を浮かべてセリスとワインを飲みながらファントムの魅力を語り合うのだった。

 だけど、ティアは気づかなかったのだ。セリスが計画通りとばかりに楽しげな笑みを浮かべていたことを……



★★★


 次回はセリスとデート会です。


 お楽しみに!






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