第38話 いざ王都へ

 地味な装飾だが造りがしっかりした馬車に軍用の優秀な馬がつながれているのが二台分みえる。

 


「うう……頭が痛いんじゃが……」

「どんだけ飲んだのさ……」



 二日酔いにでもなったのか、ふらふらとしながら杖に体を預けているエレナを見て思う。

 アンジュの部屋の壁に耳を当ててるときも酔っていたが相当飲んだらしい。珍しいね。



「うふふ、久しぶりにパーティーメンバーであつまったからエレナさんもうれしかったみたいですね。あとで状態異常回復をかけておきます」

「ああ、頼むよ。セリスは……大丈夫そうでよかった。お酒弱いもんね」

「ええ……アルコールはどうも慣れないんですよね」



 恥ずかしそうにはにかむセリスを見て、一緒に冒険していた時に酒場で一杯飲んだだけでふらふらになってしまい、抱き着かれたことを思い出す。

 あのあとはやたらと甘えて大変だったなぁ……



「ファントムお兄ちゃん、それ嘘だよ。この偽妹はエレナ様を煽りまくって飲み比べして酔わせてたよ」

「え?」



 信じられない言葉にぎょっとながらセリスを見ると彼女は笑みを浮かべたまま答える。



「それは誤解ですよ。エレナさんから再会を祝して乾杯しようと言われたので断れずとっさにワインを水に戻しながら、食事を楽しんだだけです。まあ、『わしの方が先にファントムと合流したんじゃ。あいつのパートナーにはわしがふさわしいのう』とか言っていたのでお仕置きはさせていただきましたが……」

「ああ、そう……」



 逆キリストかな? 聖女の力ってわりかしなんでもありだなぁと思いながら、こちらにやってきたティアと目が合う。



「師匠……おはようございます」

「ああ、おはよう、ティア」



 なんとなく呼び捨てにして呼ぶと昨日色々のことが思い出されて気恥ずかしくなってしまう。

 それは彼女も同様なようで顔を赤らめながら笑みを浮かべていた。



「ちょっと失礼します。ファントムお兄様」



 なぜか俺とティアをじとーーした目で見ていたセリスが俺の首元のにおいをかぐ。一体どうしたというのだろう?

 そんなに匂うのかな。



「うふふふ、アンジュさんがほとんどでティアさんのにおいはわずかですね。そういうことはしていないようで安心しました。おはようございます、ティアさん」

「……師匠、私この人怖いんですけど、一緒に冒険しなきゃいけないんですか?」



 ほほ笑んでいるはずなのに謎のプレッシャーを放つセリスにティアがビビって俺の後ろに隠れる。

 


「いや、セリスは怖くないよ。ちょっと誤解はされやすいけど良い子だから」


 彼女は聖女として教会で大切に育てられたから人との距離がおかしいのだ。俺が苦笑しながらティアをなだめているとソロモンとアモンもやってくる。



「昨日の食事はなんとも美味でした。あと書庫には様々な英雄譚があり、つい眠らずに読み明かしてしまいました。人の英知は素晴らしいですね」

「魔族は確かに二、三日はねむらなくても大丈夫だけどよぉ。頭の回転は鈍るんだ。これからオセを倒しにいくんだぜぇ、お嬢……」



 満面の笑みを浮かべながら大量の本を抱えているソロモンにアモンが突っ込みを入れている。



「旅は長いからね。何冊は持っていていいよ。魔族も英雄譚が好きなんて意外だったよ。ソロモンちゃんを見て魔族の印象が変わったな」

「ええ、我々は作り出すことはできませんが楽しむことはできるんです。だからこそ、私はあなたがた人間の可能性に心惹かれたのですよ」

「いいね。じゃあ、帰ってきたら今度感想のいいあいをしようね。だから、ちゃんと戻ってくるんだよ」

「ぜひ!その時は私の冒険譚も語ってあげましょう」



 アンジェの言葉にソロモンが目を輝かせる。アンジェも英雄譚とか好きだったからね。二人は案外良い友人になれるかもしれない。



「それではわしとソロモン、ステラが大通りから城を目指す。ファントム、ティア、アモンにセリスは裏道から城を目指して奇襲をかけてくれ。頼んだぞ」


 全員がうなづくとエレナとソロモンが先に馬車へとの乗っていく。



「あの人は……来ないか……手紙よんでくれてないのかな」

「ん? 他にも助っ人がいるのか?」

「なんでもないよ、それよりステラが来たみたい」



 難しい顔をしていたアンジェの視線を追うと準備と仕事の引継ぎのために遅れてやってきたステラが美しい所作でお辞儀する。



「ファントム様、ご安心を。エレナ様とソロモン様は私がお守りします」




 いつものメイド服ではなく動きやすいぴっちりとした服装に着替えたステラが安心しろとばかりに微笑む。

 服装のせいか強調されている胸元につい視線をおくると、腕にやわらかいものが押し付けられた。



「セリス?」

「どうしましたか、ファントムお兄様?」



 振りほどこうにも微動だにしないんだけど……ティアに助けを求めると、なぜか彼女が反対側の腕に胸を押し付けてきた。



「ティア?」

「エレナさんは大丈夫だと思うんですが、この人はほうっておくと危険な気がするんですよね」



 危険なのは俺の貞操な気がしてきたよ? うれしい状態ではあるがこれから魔族を倒しにいくんだけど?



「お兄ちゃんがたらしになっちゃった……」 

「ふふ、ファントム様はずいぶんとおもてになったようですね。すべてが終わったらまた屋敷に帰ってきてください。今度は公式におもてなしをしたいので」



 妹の軽蔑に視線から逃げるように馬車にのると先に御者台にのっていたアモンが声をあげる。



「なんだぁ? いきなりみせつけてくれるじゃねえか。たまらねーぜ!!」

「お前は本当にメンタルすごいな!! いかれてない?」


 なんとかティアとセリスには手を離してもらって俺たちは旅に出るのだった。この国を救うために……





★★★


 次回はティアとセリスの女子会です


 セリスと旅するファントムの貞操は大丈夫か? ティアの脳は破壊されないのか! お楽しみに!


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