第35話 ティアの気持ちとファントムの気持ち

 久々に来たペイル領でのごちそうは懐かしく胸が暖かくなるものだった。名産品であるリンゴをメインとしたデザートはもちろん、海鮮や肉なども質の良いものがそろえられており、俺の大好物のオムライスまである。

 だから、ゆっくりと食べたいのだが……



「ファントムよ、これがたべたいのじゃが、とってくれんかの」

「ファントムお兄様、まだお怪我が触るでしょう? こちらをどうぞ、はい、あーん」


 なぜかエレナが俺の膝の上に座り、セリスが隣でフォークでとった料理を食べさせようとしてくる。 


 君たち!! 魔王を倒すために一緒に旅をしていたときはこんなんじゃなかったよね?



 視線で助けを求めたティアは「さすがは師匠です。エレナさんだけでなく聖女様との仲が良いんですね」と寒気のする笑いを浮かべるだけだし、アンジュはステラに「お兄ちゃんが女たらしになったぁぁぁ」とゴミを見るような目で訴えている。



「女たらし……じゃなかった。ファントムさま、ちょっとこちらに来ていただいてよろしいでしょうか?」

「絶対わざとだよね……」



 ステラに呼ばれて、寂しそうな顔をするエレナとセリスに小声でごめんと言って立ち上がる。

 二人も二人で久々の再会だから積もる話もあるだろうしちょうどいいだろう。

 

 アモンがティアに話しかけてスルーされつつも嬉しそうにきもい笑みをうかべ、ソロモンが料理をぱくつきながらメイドに人間の文化について質問をしているのを横目にステラについていくと、俺の部屋についた。

 


「何も変わらないな……」



 出て行った一年前と変わらず綺麗に掃除されている部屋を見て懐かしさと共に嬉しさがこみあげてくる。

 それはここが俺の居場所だと、いつでも帰ってきていいのだと訴えかけてくれているようだからだ。



「変わらないのではないんです。変わらないように努力をしているんですよ。ですが、細かい部分はどうしても変化していきます。それをふまえてどうするかそれが大事なんです」

「ステラ……ありがとう」



 無表情な彼女がふっとほほ笑んだのは気のせいだっただろうか、そして、じっとこちらを見つめて口を開く。



「私はファントム様とアンリエッタ様たちの間に何があったか詳しくはわかりません。ですが、アンリエッタ様が良き隣人としてアンジェ様を支えてくださったことは良く知っています。だから、元のように戻れとは言いません。せめてお話をしてはいただけないでしょうか?」

「それは……」



 なんといっていいかわからずに言いよどむ。そりゃあ、エレナやセリスが追放していたことは勘違いだった。だけど、アンリエッタとカインは祝勝パーティーに出たという……

 それと同時に戦った時に剣をふるう辛そうな彼女の顔が思い浮かぶ。



「これは私のただの我儘です、ですが、話し合って後悔はしないと思いますよ」

「……考えてみるよ」



 この部屋とは違い俺と彼女の関係は大きく変化している。だけど、アイシャちゃんや、ティア、他のみんなと出会って人を再び信頼できるようになったいまならば少しくらい考えてみてもいいとそう思ったのだ。



「よかった。あと、これを渡しておきます。忘れてはだめですよ。お店の人が困っちゃうじゃないですか?」



 渡された革袋に入っていたのは俺がお店で注文したティア用のアクセサリーだった。なぜか、もう一つ同じものもある。



「あそこで渡せば騒がしくなりそうでしたからね、ちゃんと自分で渡すんですよ。せっかくです、私がティアさんを呼んできましょう」

「流石ステラ……気が利くね」

「ふふ、私は優秀なメイドですからね。ちなみに……私はアンジェ様と違いあなたが選んだ方ならば誰と結ばれてもいいと思います」

「え、それはどういう……」



 俺の質問には答えずに意味深にほほ笑みながらお辞儀をしてステラがでていってしまう。

 少したつと遠くでアモンの「ぐぎゃっ」という悲鳴が響き、ティアの足跡が聞こえてくる。

 多分ついてこようとして、ステラにやられたね。



「師匠……用があるって聞いたんですが……」



 声色が少し緊張しているのは気のせいだろうか? お酒でも飲んだのか少し上気した顔のティアが入ってきた。



「これを渡そうと思ってさ……なぜか二つあるんだけど……」

「それは……私も師匠に渡したいなって思ってつい作ってもらったんです。可愛い私からのプレゼントです。うれしいでしょう?」



 革袋から二つのアクセサリーを取り出して見せるとえへへといたずらっぽく笑うティア。彼女はこの石の意味を知っているのだろうか?



「せっかくです、つけてもらえますか?」

「え? ああいいけど……」



 こちらに背を向けて髪をかき上げるティア。艶めかしいうなじと共に髪の毛から甘い匂いが香ってきて少し変な気持ちになるのをおさえて彼女の首にネックレスをつける。


「あ……♡」


 金属が素肌にあたったせいか妙に艶めかしい声をあげるティアに思わずごくりと生唾を飲んでしまう。

 落ち着け、俺。久々の故郷に帰ったのに女の子に発情するなんてしたら、アンジェに軽蔑されてしまう。

 そして、振り向いた彼女が胸をはってネックレスを主張する。



「ありがとうございます、似合ってますか?」

「ああ、まさにティアのために作られたくらい似合っているよ」

「そうですか。私はかわいいですからね。ちなみに谷間を見ているのは気付いてますよ」

「これは仕方ないでしょ!!」



 だって、谷間の少し上にネックレスがあるんだよ。見るしか選択しないじゃん。



「師匠はエッチですねぇ。まあ、私が可愛すぎるからしかたないんですが。では、次は私がつけてあげますね」

「ちょっと、ティアさん……胸が当たってるんですけど」

「ちがいますよ、当ててるんです」


 後ろにまわったティアが耳元ささやくものだから、より意識してしまう。それにしてもやけに積極的である。

 なんか嫌な予感がするな……



「ねえ、ステラに何か言われた?」

「え……その……師匠も獣だから二人になったら襲われるかもしれませんよと言われたので、心の準備をしているんです」



 先ほどまでの小悪魔っぽさはどこにいったやらどんどん声が小さくなってくるティア。

 その顔は我がペイル領のリンゴのように真っ赤だ。



「師匠にならいいかなって思って……でも、私だって初めてだから緊張をごまかすためにお酒を飲んだんですよ!!」



 赤面しているティアのいうことからするとつまり彼女は俺とそういうことをしてもいいとおもっているというわけで……

 彼女は覚悟を決めて慣れていないというのに本当の誘惑をしようとしたってことか……

 その気持ちは嬉しい。本当に嬉しいよ。でもさ……



「ティアのことは大切にしたいし、半端な気持ちでそういうことはしたくないんだ。だから、俺の気持ちの整理が終わるまで待ってくれるかな?」

「約束ですよ……他の人とも、例えばセリスさんとかともしちゃだめですよ」



 彼女の頭をなでると上目遣いにそんなことをいってくるものだから、ドキドキがとまらない。

 くっそ、正直言えばエッチなこともしたいし、興味がないわけではない。


 だけど、色々と吹っ切れる前にそういうことをするのは不誠実だと思うのだ。童貞のこだわりだと笑ってくれてもいい。


「ああ、約束するよ。なんか煮え切らなくてごめんね」

「大丈夫ですよ。師匠がヘタレだってのはもう知ってますし、私に魅了されないってことは他の誰にも魅了されないってことですから。でも、代わりに一つお願いをしてもいいですか?」

「ああ、なんだ?」

「師匠のことを教えてください。子供の頃はどんなだったとか、この領地にどんな思い出があるとか、そういうのを聞きたいんです」



 そうして、俺はティアに色々なことをはなす。妹のアンジェと肝試しをしようといって誰もない家にいったのがばれてステラに怒られたこと。甘いものの食べ過ぎで、一時期パンしかたべさせてもらえなかったことなど色々とくだらない話をだ。


 ティアは楽しそうに聞いてくれて、俺は幸せな時間をすごすのだった。




★★★


珍しくまっとうにラブコメした……

ティアが一歩リードしましたね。


ティアの好意を明確に理解したファントムはどうするのか?





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