第29話 VSアンリエッタ


「おいおい!! こいつらぶっ殺しちゃだめなのかよぉぉぉ!!」

「いいはずないじゃないですか!! 人と魔族の共存が困難になります」

「それに……ここは師匠の故郷なんですよ!! もしも、誰かに怪我でもさせたら、二度と会話もしませんからね!!」

「はっはっは、お嬢もティアもわがままじゃねえか!! でも、こういうピンチってたのしいよなぁぁ!!」



 馬車に戻った俺たちはすぐに兵士たちに包囲されてしまっていた。慌ててアモンが馬車を走らせているが、軍用の馬車に比べて通常の馬のためその速度は遅く徐々に縮まっていく。

 


「エレナ……そろそろかな?」

「ああ、相手の矢をすべてはじいてやっているからのう。そろそろしびれを切らしてくるはずじゃ」

「さっすが!! 大賢者!!」

「ふふん、これくらい当然じゃ。じゃが、わしは優しいからな。頭を撫でる権利をやろう」



 胸をはりながらもアピールしているエレナの頭を優しくなでながら、兵士たちの魔法を喰らうべく俺は魔眼を解き放つ。



「魔力を喰らいてわが糧とする!!」

「大地よ、その姿をかえ、我が敵の障害とならん!!」


 

 作戦通りエレナにすべての矢をはじかれた兵士たちが魔法に切り替えてくるタイミングで俺が魔眼で吸収し、エレナは守りから攻撃に転じたのだ。



「なんだこれ、ぎゃあぁぁぁ!?」

「くそ、制御が……おちつけ!!」



 兵士たちの魔法はすべて無効化され、エレナの放った魔法によって地面が泥沼と化していき、兵士はもちろん馬もパニック状態になっていき大混乱となった。




「さすが師匠とエレナさんです!! これなら逃げきれますね」

「ふふ、怪我をさせずに無効化させるとは……私たちも見ならわなければいけませんね」



 すっかり落ち着いたのかソロモンが影から紅茶を出して飲み始める。だけど、俺とエレナだけは警戒をとくことはなかった。

 だって、俺たちの動きがばれていて魔族がいるというのに彼女が出てこないはずがないからだ。



「皆の者!! ひるまないの!! 魔法使いたちは公道の補強をしなさい。騎馬隊は側面から迂回しながら、決して攻撃を緩めないで。魔法をつかわせる隙をつくらないで!!」


 

 凛と響く声を共に騎馬隊がやってきて、その先頭に白銀の鎧を身にまとった一人の女騎士が目に入る。

 その声と顔には嫌というほど見覚えがあった。



「やはりきたのう、アンリエッタ……」

「アンリエッタって……師匠の……」



 二人の心配そうな視線を感じる。そして、胸がじくじくと痛むのを感じる。かつて守ると誓った彼女……一緒に領地を発展させていこうと未来を語り合った彼女、そして、エレナと違い俺を追放することを知っていた彼女……



「腕がなまっているかみてみるかの。炎の球よ、わが怨敵を焼き払わん」

「エレナさん? アンリエッタさんが死んじゃいますよ!?」



 数十いや、数百の小さい火の弾がアンリエッタの方へ向かうのを見てティアが思わず驚きの声をあげる。

 だけど、彼女の実力を知っている俺やエレナはもちろん、ソロモンやアモンも黙って見ている。



「なかなかの手練れがいるようね。でも無駄よ。『破!!』」



 アンリエッタを中心にまばゆい光と共に結界が張られて魔法が無効化される。かつて四天王の攻撃から民衆を守ったときに聖女よりも聖女っぽくない? とか言われてセリスが複雑そうな顔をしていたのが懐かしい。



「ほう……あれが『最硬』の騎士アンリエッタですか。確かに気品がありますね」

「うん? 最硬の騎士とはなんじゃ?」



 ソロモンの聞きなれない呼び名にエレナが返すと彼女はどや顔でこういった。



「魔王殺しのパーティーは魔族の中でも有名でしたからね。私も魔界でいろいろと噂は聞いていたのです。圧倒的な守備力を持つ『最硬のアンリエッタ』、優れた魔力とその扱いにたけたエルフ『最賢のエレナ』、容赦も慈悲もない『最悪のセリス』、魔法も剣もすべてにおいて優秀な『最優のカイン』そして、まるでこちらの行動を見抜いたがごとく知力と魔法を無効化する『最厄のファントム』ですね。全員揃って五大最強と呼ばれています」

「へぇー、エレナさんたちそんなふうによばれていたんですね」

「なんというか……恥ずかしい称号じゃのう」



 魔界でも俺たちはそんなに有名だったのか。それに最厄とかちょっとかっこいいじゃん。

 そう思ったのだが……



「いえ、あだ名は私が勝手に考えました。かっこいいでしょう?」

「「「……」」」

「すまねえ……お嬢はそういう年頃なんだよ。魔族は魔法を使うのに詠唱がいらないのにわざわざ自分で考えている時点で察してくれや……」



 得意げなソロモンに俺たちが言葉をうしなっているとアモンが突っ込む。というか待ってほしい。先ほどのあだ名をかっこいいとおもったり、魔眼を使う時に無駄に詠唱している俺も厨二ってことだろうか……

 緩んだ空気を仕切り直すようにエレナが咳払いする。



「まあ、よい。アンリエッタは守備力はあるが攻撃はできん。このままわしが魔法で牽制するから逃げ切る……」

「うお、あっぶねぇぇぇ」



 圧倒的な熱量が馬車の横を通り過ぎる。俺の魔眼でも反応できない力……これは……



「魔を払う神から授かった力……『破邪』だ……」



 そう、これが彼女のスキル破邪である。光の力で魔族の力はもちろん、精霊の力が根源である魔法ですらも無効化し、攻撃に転じればその輝きは魔族を焼き払う一陣の光となる。

 攻撃できなかった彼女がなぜ攻撃できるようになったかはわからない。カインに言われたのか……それともこの一年で何かあったのかもしれない。

 わかっていることは彼女は前に進んだのだ。俺の追放を賛成してまでほしいものを得るために……



「だったら、俺だって立ち止まってはいられないよね」

「グスタフ……?」

「師匠……?」


 

 なぜか、心配して様子で俺を見ている二人に微笑みながら告げる。



「みんなは先に行っててくれ。俺がアンリエッタを足止めするよ」

「師匠……そんな……」

「そうじゃ、わざわざお主がつらい思いをする必要はないんじゃぞ!!」

「ちがうよ、これは俺にしかできないことなんだ。接近戦が得意じゃないエレナやティアじゃあ、アンリエッタを足止めできないし、魔族のソロモンやアモンは破邪と相性が悪いうえに殺し合いになるだろう。だから、俺がいくんだよ」



 二人が息をのむのに申し訳なく思いながら俺は声をはりあげる。



「みんなは馬車を捨てて、 何とかペイル領の領主の館に行って!! 『ステラお姉ちゃん助けて』っていえば通じるはずだから!!」

「ええい、馬鹿者が!! ならばせめて一対一で戦わせてやろう」



 返事を待たずに馬車の扉を開けてそのまま屋根に飛び上がると飛び、魔眼の力で強化した足をもってして、アンリエッタにとびかかる。

 周囲から悲鳴が聞こえるのはエレナが何か魔法を使って護衛を倒してくれたのだろう。本当に頼りになる。



「なっ!?」



 第二波を討とうとした彼女と馬の上でからみあいそのまま二人で地面に振り落とさせる。

 激痛が走る中、立ち上がると、白銀の鎧を土で汚した彼女がこちらを見てこういった。

 



「あなたが魔族の手先の仮面の男ね……悪いけど、あなたに構っている暇はないのよ」



 敵意に満ちたその瞳に安堵する。もしも、彼女がエレナのように俺の正体に気づいていたら少しひよってしまいそうだったからだ。





★★★


敵に回すと厄介だなぁ……

珍しくシリアスです。


*注 ファントムの仮面には認識祖語の魔法がつけてあります。

   二話にかかれています。


次回ファントムVSアンリエッタちゃんです。







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