第24話 魔族包囲網



 俺はとっさに仮面をおさえて、事情を説明する。兵士も乱暴だと思うが彼の手が震えていることに気づく。

 強力な力をもつ魔族かもしれないと思って動揺しているのかもしれない。



「待ってください。俺の顔は戦闘で大けがをおってしまって人に見せれるようなものじゃないんです。身分の証明ならこちらがありますよ」

「ん? ああ、冒険者だったのか……すまないな」



 ギルドカードを見せると兵士は申し訳なさそうに仮面から手を外してくれた。あとはアモンの方をなんとかすれば……



「てめえ、ぶっ殺されてえのか!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」



 むっちゃいやな予感がして振り向くと案の定アモンが兵士の顔を腕でわしずかみにして持ち上げていた。



 うわぁ……やっぱりこうなるよね……



 おおかた無理やりフードをはずそうとしたのだろう。彼はソロモンの命令で俺たちと同行しているだけで人間自体を愛しているわけではないからね。(ティアはのぞく)



「すいません、彼は酔っぱらっていて気が短くなっているんです。もういい、さっさと逃げるよ!!」



 アモンは舌打ちをしながら兵士を乱暴に投げ捨てるとそのまま御者台へと乗りこんだ。



「おい、お前ら……」

「ごめん、俺たちにも事情があるんだ」



 こちらに向かってくる兵士の腕をいなして、ケガをしないように転ばして、アモンの後に続く。



「早く出発して!!」

「わかってるっつの!! あいつ雑魚のくせに俺に危害を加えようとしたんだゆるせねえ!!」



 あらぶっているアモンをなだめながら俺は大きくため息をついてこちらをおいかけようとする兵士の馬車の車輪に石を投げて、破壊する。

 


「ごめんよ……でも、俺たちは捕まるわけにはいかないんだ」



 遠目に何かの魔道具を兵士がこちらにむけていたので攻撃にそなえていたが特になにもなかった。

 ただ、魔力は感じるのであとでエレナに馬車を確認してもらおう。






「あなたは何を考えているのですか!! 我々は人間と和平を結びオセを倒さねばならないのですよ!! なんで騒動をおこすのですか!!」

「だってよう……あいつら雑魚のくせに生意気に俺に命令したんだぜ。我慢できるかよ」

「何をいっているんですか!! 我慢すれば師匠なら絶対に丸く収めてくれたのに……犬の方がマテをできる分お利口さんですよ!!」

「うぐぅ……」



 兵士から逃亡するために急発進した事情を説明すると、ティアとソロモンが二人してアモンにぶちぎれてしまった。

 というかソロモンに従うのはわかるけど、ティアにも頭が上がらないんだな……ちなみにエレナはため息をついて御者台にいってしまった。



「グスタフさん、ティアさん、うちの愚か者がご迷惑をかけてしまいました。もしも、これ以上足を引っ張るようならば、私が責任をもって魔界に返します」

「ちょっと待ってくれよ、お嬢。確かに俺はやらかしたが、あいつらから先に喧嘩を売ってきたんだぜ。それに俺は真実の愛を知ったんだ。このまま帰れるかよ」



 怒っているソロモンに言い訳しながらティアにウインクをするアモン。結構余裕そうである。

 でもさ、ティアちゃん。俺を盾にしないで。熱い視線のアモンと見つめあいたくないんだけど。



「まあまあ、今回はイレギュラーだったから仕方ないよ。それにすぐに逃げたから魔族だとはばれてないと思う。気は進まないけど、俺が仮面を外せば正体もばれないと思うよ」

「え、師匠の素顔が見れるんですか!!」



 先ほどまでのお怒りモードはどこにいったやら、目を輝かせるティア。そういえば見せたことなかったな……



「良いのですか? 理由があってそのかっこいい仮面をつけていたのでは?」

「まあ会いたくない人がいたからなんだけどね。彼女は領主で忙しいだろうし大丈夫でしょ」

「……んん!! なにやら、訳ありな様子……いいですね。そういうの大好物です」



 ソロモンまで目を輝かしはじめたんだけど……だけど、わかるよ。仮面に語られない過去。なんかテンションあがるよね。他人事だったらだけど……



「とりあえず街についたら、偵察してこようと思う。普段はあそこに警備兵はいないはずだからさ。何かある気がするんだ」

「あ、じゃあ、私も行きます!! 一人よりもカップルの方が旅行者っぽいですよ」

「確かに魔族である私やアモン。エルフのエレナでは目立ってしまいますからね……お任せしてもいいでしょうか?」



 チャンスとばかりに俺に笑顔を向けてくるティア。くっそ、まっすぐな好意が普通に嬉しくなっている俺がいる……

 そうして、話がまとまりそうな時だった。



「えへへ、デートですね。師匠♡」

「ちょっと待ったぁぁぁ、俺もいくぜぇぇ!! 二人でデートなんざさせるかよ!!」


 

 声を張り上げたのアモンだった。



「確かに外見は人間っぽいけど、その翼はどうするんだよ……」

「え? 空気読んでください……ってなにをやっているんですか?」

「うおおお!」



 氷のように冷たい目でティアが睨むもアモンは気にせずに立ち上がるとそのまま自分の翼を引きちぎったのだ。



「え、あれ。大丈夫なの?」

「ご心配なく。魔族ですからね、二、三日たてば生えてきます。ただ、無茶苦茶痛いんですよね……」

「トカゲのしっぽみたいですね……」



 ピッコロみたいな感じかな?



「ほら、これならいいだろ!! 俺もまぜてもらうぜぇ!」



 あまりの痛みにかちょっと半泣きになっているアモンの提案をさすがの俺とティアも断ることはできなかった。



★★★



「アンリエッタ様!! 公道を警備していた者が不審者に襲われ、そのさいに魔道具に魔族の反応があったそうです」

「そう……カインの言った通りまだ魔族がいるのね……」



 部下からの報告を受けたアンリエッタは不快そうに眉をひそめる。王都からこの国に魔族が侵入したという連絡があり、警備を強めたら早速反応があった。

 だが、場所が悪い。悪すぎる。



「この方向……うちの領地と、ペイル領の境ね……絶対守らないと……」

「はい、ペイル領はファントム様の故郷ですからね……」



 部下の言葉にアンリエッタは強く頷く。正直魔族相手にファントムや他の魔王討伐パーティーがいないのはきつい……

 だけど、自分だってこの一年なにもしてこなかったわけではないのだ。領主の業務を行うとともに厳しい鍛錬を重ねて新しい力を手に入れていた。



「ペイル領の領主アンジェに連絡しておいて、周囲の街の警備を強化して連携して倒しましょうって」

「はっ!!」



 部下が出ていくのを見送るとアンリエッタは机の上にかざられている古ぼけているが美しい石のついた指輪を見つめる。



「ファントム……私はあの時あなたと領地で迷ってしまった……だから、この領地とあなたが大切にしていたペイル領は必ず守るわ。どこかで見守っていて……」


 アンリエッタは目に悲しみをためながら願うのだった。





★★★


グスタフとデートフラグが立つティアとグスタフと決戦フラグが立つアンリエッタ。

 どこで差がついたのか?






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