第25話 ティアの誘いとアモンの覚醒


 情報収集のために街へとむかうと、門の前に人だかりができていた。どうやら普段より厳しいようだ。

 やはり何かあるな……



「わー、師匠!! 結構人がいます。はぐれないようにしないとですね」

「いや……そこまで多くなくない? うお?」



 衝撃と共に柔らかい感触が俺を襲う。ティアが俺の腕に抱き着いてきたのだ。咎めるようにみつめるが笑顔で返されてしまい思わずデレっとしていまうが……



「おいおい、そんなやつよりも、俺の方が頑丈だぜぇ。お前のことを守ってやるよ」



 アモンが力こぶを作りながらアピールしている。今の彼は翼がないこともあり、ちょっと目つきの悪い人間としか見えない。

 エレナやセリスのように魔力が探知できないものにはただの人にしか見えないだろう。



「エレナさんには悪いけど、久々の二人っきりですね。デート楽しみです」

「あれ、アモンもいるんだけど、もしかして視界に入ってないのかな?」



 どや顔でポーズを取っているがアモンをちらっとティアが見るがすぐに興味をなくしたように俺に話しかけてくる。

 あれ、結界とかはってる?



「ティア……流石の俺様も傷つくぜぇ……」

「そうだよ……確かにアモンはちょっとうざい所もあるけど、今は仲間なんだよ」


 わざわざ激痛にたえてまで翼をはぎ取ってついてきたアモンがあまりにも可哀そうになったので助け舟を出すと、ティアは不満そうに頬をふくらました。



「だって、久々に師匠と二人っきりだと思ったのに邪魔されたんですもん。でも、それ以上に……」



 ティアはアモンを睨みつける。珍しく年相応に拗ねているなと微笑ましく思った時だった。



「この人は師匠に危害を加えそうになったんですよ。最初っから戦う気がなかったソロモンちゃんはともかく、剣を向けておいて、なし崩しに仲間になるのは違うのではないでしょうか?」

「「え?」」



 俺とアモンが同時に間の抜けた声をあげる。

 そして、ティアの言葉にはっと驚く。確かに一回目の戦闘はアモンの独断だった。ソロモンも最初っから和平を求めていたみたいだしね。

 魔王との闘いの日々ではこういう風になし崩しに手を組む場合もあったし、ゲームのシナリオを知っていたから納得していたが冷静に考えればやばい話である。

 そういう違和感を無視していたから俺はカインやアンリエッタからの追放に気づけなかったのかもしれない。



「ああ、そうだな……悪かった……魔族の本能って言うかよぉ。つい強そうなやつとは戦いたくなっちまうんだよ」

「こっちもけが人が出なかったんだ。いいよ。でも、今後は気を付けてくれよ」

「ああ……人間と手を組むんだ。お前らのルールにあわせるぜぇ。それにティアにこれ以上嫌われたくないからなぁ」


 こちらが手を差し出すと、申し訳なさそうにアモンが手を握った。幸いにもこいつは話が通じるということは馬車の話で分かっているからね。

 そんな俺たちをティアが満足そうに笑みをうかべる。



「師匠のその優しさは私も好きです。だけど、それは甘さにもつながります。だから、私がちゃんとフォローしますから安心してくださいね」

「ああ、頼りにしているよ。ありがとう」

「えへへ、師匠の役にたててなによりです♡」



 頭をなでてやると本当に幸せそうな笑みをうかべるティア。そして、じーっと見つめてくるアモンに気づく。

 ああ、こいつは相手をされてないけどティアの事を気に入ってるんだよな。またこじれるか……



「なんかよぉー、不思議な感じなんだ。グスタフとティアがそうやっているとよぉ。脳が破壊されるような感覚に襲われるんだけどよぉ……それが気持ちよくなってくるんだよ」

「うわぁ……」



 辛そうだけど、恍惚とした表情でアモンが笑う。

 なんかNTR属性に目覚めちゃった……まあ、平和ならいいのか? そして、俺たちの番がやってきて兵士たちに話しかけられる。



「旅人さんか、悪いね。領主さんからの命令で身分がはっきりしたものしか入れちゃダメだっていわれてるんだよ」

「えー、何があったんですか? 怖いですね。グスタフ様♡」



 警戒心を解くためか、ティアがかよわい女性のように小さく悲鳴をあげると庇護欲がそそられたのか兵士のおっさんの表情が柔らかくなる。

 魅了完全に使いこなしてるんだけど……俺は恐ろしい少女を目覚めさせてしまったのかもしれない。


「ここだけの話だけどね、なんでも魔族が現れたかもしれないんだよ……魔王は隣の領主のアンリエッタ様が倒したから間違いだと思うけどね」



 冗談でもいうように笑いながら俺たちにささやく兵士だったが、俺たちの間に緊張が走る。

 なんで、ソロモンやアモンの存在がばれているんだ?



「まあ、というわけで身分証明書を見せてもらえるかな」



 俺とティアは素直に冒険者ギルドのライセンスを差し出すが……アモンを見つめると冷や汗をむっちゃかいている。

 そりゃあ、そんなものあるはずないよ。


「あれ、そっちのお兄さんは?」

「ああ、そんなもん……ないです……すいません」


 反射的に怒鳴りそうになったアモンだったが、ティアに睨まれて大人しくなる。あいつ敬語つかえたんだ……


「じゃあ、わるいけど、この人はいれられないよ」

「別に構いませんよ。新婚旅行のときにたまたまここで出会っただけの人ですから。行きましょう。グスタフ様……いえ、ダーリン♡」

「「え?」」



 驚きの声を上げるおれとアモンだったが、気にせず進むティアに引っ張られる。



「さすがに可哀そうでは……?」

「師匠に暴力をふるったのはさっきで許しましたけど、デートの邪魔をしたのは許してませんもん……それに、二人で師匠と買い物したかったんです」



 後半は声が小さくなっていったが、確かに耳に入った。そういえば二人ではクエストくらいしかしてなかったな。

 アモンには悪いけど……と彼を見るが……



「なんだこれ……放置されているのに胸がどきどきしてきたぜぇ!!」


 なんかNTRに加えて放置されるもたのしめるようになってしまったみたい。まあ、いいか。






★★★


アモンくんの性癖が……



次回はグスタフとティアのデート回です。

お楽しみに





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