第23話 グスタフたちと魔族たち
アモンが馬車を動かし俺たちは王国へと向かう。馬車の中は……まあ、ちょっと複雑な感じだ。
向かいに座っているソロモンはどこから出したのか、紅茶を飲んでおり、俺の両サイドにはティアとエレナがいるのだが……アモンがいないとソロモンと何をはなしていいかわからない。
「それにしても……野蛮な魔族が和平とはいまだに信じられんわい」
「私からすればあなたたち高慢なエルフが人間と一緒というのも信じられませんね。我々魔族と同様に人間を見下していたと思っていたのですが……」
そのうえエレナとソロモンのやりとりが少し刺々しい。そういえばエルフと魔族は同じように魔法を使う種族の為、昔から天敵のような存在らしい。密室にいると余計意識してしまうのかもしれない。
そういえばソロモンは人間とは共存したいって言ってたけど、エルフは含まれてないんだろうか?
「師匠……この雰囲気なんとかできないでしょうか?」
「うーん、そういえばアンリエッタたちとエレナも最初は仲が微妙だったって言ってたな……こういう時は……」
王都へ行くついでに故郷によったときに領主を任せてしまっている妹へこっそりと渡そうとおもっていたものだが仕方ない。
ごそごそと袋から紙に包まれた箱を取り出して中をあける。
「みんなさ、仲良くなるために美味しいものでも食べよう。エレナはこれ知ってるよね?」
「おお、これはキラービーのはちみつクッキーではないか!!」
「これ、魔物の巣で少ししか取れないはちみつをつかっているから高い奴ですよね、たべていいんですか?」
「ほう、なにやらおもしろいものがありますね……じゅるり」
キラービーのはちみつがクッキーの表面で美しく反射しており、馬車内にはほのかに甘く、かすかに花の香りが漂ってくる。
そして、少女たちの表情もやわらかくなっているのも無理はない。これはゲーム内でパーティー同士の好感度を上げるのにもつかわれるアイテムなのだ。
だけど、ソロモンよ、魔王がよだれを垂らすのはどうかと思う。
「じゃあ、頂くね」
みなが食べずらいだろうとさっそく一つをつまみ、口に運ぶ。クッキーが口の中で砕けると、さくっとした心地よい音が響き、すぐに溶けていく。
最初に感じるのは優しい甘さだが、それに続いて花蜜のような芳醇な風味が広がる。
やばい……無茶苦茶うまい。
「くっ……これこそ、人間の英知ですね……魔界にはないものです。うう……手がとまりません」
女騎士みたいなことを言いながら幸せそうに食べるソロモンに俺たちの毒気が抜かれていく。苦笑しながら俺はエレナと目を合わせて頷く。
さすがは賢者様。俺の意図をわかってくれたようだ。
「このクッキーはね、エルフが魔法で採ったキラービーのはちみつを使って人間が作ったんだよ。そして、その魔法は彼女がつくったんだ。いわば人とエルフの共同作品かね」
「つまり、こやつはわしらエルフと人間が手を組んですばらしいものができるように、人間と魔族、そしてエルフが手を組めば、良いものができると言いたいんじゃ。まずはエルフと魔族というのは置いておいて、わしとお主で仲良くせんかの?」
「なるほど……」
ソロモンがうなづくと、影の中からポットとティーカップが出てくる。先ほどとは違い、コップは四つある。
「人と魔族で手を組もうとするというの新しい試みを考えているというのに私は何とも狭量でしたね。これは魔界で採れた花で作った紅茶です。きっとこのお菓子に合うかと思います」
そして、ソロモンがエレナの方に向かって頭をさげる。
「エレナさん詫びさせてください。あなたはエルフである前に一人の個人でしたね。これでは人間という種族を馬鹿にしていた父と同じでした。エルフでありながら人と共存しているあなたの生き方こそ私は学ぶべきでした」
「きにするでない。わしもお主が魔族ということで過剰に警戒しておったしな。それに、少し前まで戦争していたんじゃ。しこりもあって当然じゃ」
「では、仲直りしましたし、パーティーしましょ!! ついでに恋バナでもしますか?」
ティアの元気な声とともにお互いお菓子の感想をいいあっている。ちょっと男性はいずらい雰囲気になったので御者席へと向かう。
「変わったことはないか?」
「強いてあげれば、魔族が馬車にのってることくらいだぜぇ。走った方がはえーっての」
乱暴な物言いだが、馬の扱いは丁寧だ。ただの戦闘狂かとおもったがなんだかんだソロモンには反抗しないし忠誠心があるようだ。
「にしてもありがとうよ。お嬢は見た通り意思疎通に問題があるんだわ。魔王の娘として甘やかされたからなぁ。ああして、身分なく会話するのには苦手なんだよ。お嬢の影の中には会話するときのパターン集ってのがノートにたくさんあって中にはびっちりかいてあるんだぜ」
馬鹿にするような口調だが、戦っている時とは違いどこか優しそうな目で馬車の中でしゃべっているソロモンを見つめアモンは語る。
「おまけに俺たち魔族とエルフの相性はわるいからなぁ!! 魔眼のにーちゃんがエルフを仲間にしているからどうなるか心配だったが、なんとかなったようでよかったぜぇ」
「……本当にソロモンの事を大切に想っているんだね」
「あ? 当たり前だろ。俺はお嬢から魔力をもらって自由にさせてもらってるんだぜ。これくらい返すのが当然じゃねーか」
ちょっと恥ずかしそうに視線を逸らすアモン。人間とは基準は違うかもしれないが魔族には魔族なりのおもいやりのようなものがあるようだ。
俺たちとエレナが仲良くなったように、確かに魔族と人間は違うけど、仲良くできそうだね……
俺は馬車の中でクッキーを食べている三人を見て思ったときだった。
「そこの馬車止まれーー!!」
関所でもないというのにいきなり兵士が大声をあげてこちらにかけよってくる。アモンがフードを深くかぶりなおして、馬を制止する。
「一体どうしたんですか、俺たちは怪しいものじゃないですよ」
「何を言ってるんだ。胡散臭い仮面をかぶった男と、フードで顔を隠した男がいて怪しくないはずないだろうが!!」
やばい、正論すぎてぐうの音も出ない。言い訳をさせてもらえればここらへんは普段は兵士たちが警備している範囲外なのだ。
だからここに兵士がいるのは何か問題がおきているはずで……
「いったい何があったんですか?」
「ああ、カイン様からのお触れでな。ここらへんに魔族が現れたらしい。悪いがかおをみせてもらうぞ」
兵士はそういうと乱暴に俺の仮面を外そうとするのだった。
★★★
アモン君は保護者目線ですね……
まあ、仮面かぶっているやつはこの世界でもうさんくさいですよね。
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