第22話 別れと新たな問題


「魔族は無事倒したのじゃ。これでこの地には平穏が再び戻るじゃろう」

「師匠はすごかったんですよ!! 魔族相手にも対等以上に斬り合っていたんです」

「そうじゃな、グスタフがおらんかったらわしらだけではかてなかったじゃろう」

「あははは……」



 冒険者ギルドに戻った俺たちはソロモンとアモンに変装させて馬車に待機してもらい、魔族を撃退したと報告を終えた。

 だけど、二人とも俺をほめすぎじゃない? アイシャちゃんが半信半疑で見てるじゃん。


「じゃあ、もう平和なのね。せっかくだし、グスタフさんにはまた面倒な依頼をおねがいしちゃおうかなー」



 安堵の吐息を漏らして、書類をあさるアイシャちゃんに緊張しながら声をかける。気がすすまない。だけど、ちゃんと言わなければいけないのだ。



「それでさ……俺はこの街を出ようと思う。やりたいことが見つかったんだ」

「そう、寂しくなるわ……でも、明るい顔になったわね。本当によかった」



 彼女は大きく目を見開いて、そのまま笑みを浮かべた。

 アイシャちゃんと出会ったのは追放されて、故郷をあとにし放浪していた時だった。ろくに食事もせずに行き倒れのようになっていた俺に優しく声をかけてくれたのが出会ったきっかけだ。

 そして、すすめられるまま冒険者となり、この街で過ごしていた。



「アイシャちゃんがいなかったら今の俺はいなかったと思う。本当にありがとう」

「気にしないで、確かに声をかけて手を引っ張ったのは私だけど、その足で立ち上がったのはあなたの力よ」



 アイシャちゃんの優しい言葉に思わず涙がこぼれそうになる。そんなことはないよ。ボロボロで自暴自棄だった俺に優しく声をかけてくれたのは彼女だけだったのだから……

 一定の距離をとっていたつもりだったけど、俺の中で彼女の存在が思った以上に大きいことに驚き……そして、うれしく思う。



「ふふ、私は優秀な受付嬢だから、強そうな人間が行き倒れたらもったいなっておもっただけよ」

「さすがアイシャちゃんはAランク級の受付嬢だね」

「はいはい、ありがと……結局一回もデートはできなかったわね」

「酒場で愚痴を聞いたりはしていたけどね、あれはデートじゃないか……」

「当たり前でしょ。私を誘うならギルドの安酒場じゃなくて高級レストランにしなさいな。だって、Aランク級の受付嬢なのよ」



 彼女の軽口に俺は目頭を熱くしながら軽口で返す。それにクスリと笑ったアイシャちゃんは今度は二人の方をむく。



「ティアちゃん、エレナ様。グスタフさんは本当に優しくてちょっとエッチな人ですが、つらいことがあっても隠すところがあります。この人がため込まないようにお願いしますね」

「はい、師匠がため込みそうなら私の可愛さで誘惑して本音を吐かせますよ!!」

「ああ、そうじゃな……わしはもう二度と間違えん。安心するがいい」



 元気よく答えるティアとなぜかハイライトの消えた目でうなづくエレナ。そして、目に涙をためているアイシャちゃんが最後にこちらに手招きしてくる。

 なんだろうと顔を寄せると、頬に唇の感触を感じた。



「「なっ!?」」

「アイシャちゃん!?」



 驚きのあまり固まっていると彼女はいたずらっぽい笑みをうかべて言った。



「あなたは私にとっての最高の……Sランクの冒険者並みに素晴らしい人だったわよ」

「ええい、毒婦め!! グスタフよ、さっさといくのじゃ!!」

「そうですね……では、アイシャさんお世話になりました」



 二人にひきずられたまま冒険者ギルドをでる俺をアイシャちゃんが涙を流しながら、手を振り続けてくれているのをみて俺は誓う。

 


 全てがおちついたらまた会いに行こう……


 そう決めて俺の故郷へ向かう馬車にのる。



「別れは済んだようですね。では行きましょうか」

「はっはっとばすぜぇ!! ティア!! 俺の隣に座れよ、特等席だぜぇ!!」



 そこにいるのはどこか偉そうに座っている顔が隠れたフードの少女と、やたら元気なフードの御者……ソロモンとアモンである。



「まさか、またあそこに戻るなんてね……」

「師匠、大丈夫ですよ。つらいことがあったら可愛い私が癒しますからね!!」

「わしもおるぞ!!」



 アモンの呼びかけを無視して、俺の横に座るティアが安心させるように手をつないでくれ、エレナはなぜか、俺の膝の上に乗る。



「え、何をやっているの?」

「お主がまたどこかに行かぬようにしようと思ってな……」

「違いますよ、この人。さっき、アイシャさんと師匠が良い感じだったから嫉妬しているんですよ」

「うるさい!! 私だってグスタフに甘えたいんだもん。悪い!?」

「悪くないですよ、私も嫉妬してますしね」

「ハーレムとは……人間は破廉恥ですね」



 何やら謎のプレッシャーを発している二人に緊張しているとソロモンがぼそりとつぶやくが、なんか誤解している気がする。

 でも、はたからみたら確かにすごい光景だね。



★★


 ここは城の地下室である。王族はおそかとある人物一人しかしらない魔力のこもった秘密の部屋だ。

 その影は体全体に闇をまとっており、顔はおろか体型すらもみることができない。



「ほう……ソロモンがやってきたか」



 水晶が強力な魔力を感知したのを見て目を見開くとにやりと笑う。



「この場所は……ちょうどいい。カインは反対するかもしれないがアンリエッタを使うとするか」


 その人影は魔法を使い人の形に自らを変えた。その姿はこの国でヨーゼフと呼ばれる人間だった。







★★★


そんな……ヨーゼフ(大臣)が敵だったなんて……


グスタフが立ち直るきっかけをつくったのはティアでしたが、

そんな彼をそれまで支えたのはアイシャちゃんとの出会いでした。

あまり出番はなかったですが、二人の別れもかけてよかったと思います。







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