第21話 カインの焦り

「大変です、カイン様。冒険者ギルドから連絡があり、魔族の目撃情報があったそうです!!」

「なんだと……」



 城の一室で部下からの報告に僕は思わず驚愕の声をあげる。ついにきてしまったのだ。

 二作目の世界の時間が……


 ついにおこってしまった破滅フラグの始まりにほほを冷や汗が流れるのが感じる



「エレナやセリスはまだ、見つからないのか!!」

 。


 発表された資料には前作主人公であるカインは魔王殺しということもあり、魔族たちに憎まれている。そのせいか、魔族の誰かに殺されてしまうルートがあると書いてあったのだ。

 それを防ぐには強力な仲間を近くに置く必要があるのだが……



「はい、それが……エルフの里も教会も二人の行方は知らないそうでして……」

「ならば影はどうした!! やつらは情報収集と暗殺が得意分野だろう」

「探させているのですが……主だったものたちはパレードの際に命を落としており……」

「ファントムに返り討ちにあったやつらか……」



 肝心のパーティーメンバーはアンリエッタ以外は行方知らずである。ならばせめて続編のメインキャラを仲間にしようと考えたのだが……



「うぐぐぐ……」



 うめき声をあげながら、僕は机の上の手紙をくしゃりとつぶす。それは冒険者ギルドあてに「ティアという冒険者を探している」という問い合わせへの回答だった。

 その返答は好ましいものではなかった。インターネットもない世界で名前しかわからない間を探すのは不可能に近いのだ。

 


「こんな時にファントム様がいらっしゃればきっとお力になってくれたでしょうに……」

「何を言っている。あいつは魔眼を持つ化け物だぞ!!」

「で、ですが、独自の情報網を持ち頭もまわるあの人ならばきっと何かいい案を授けてくれるかもしれませんよ、今から探索の対象にあの方も入れた方が……」

「くだらない言い訳は聞きたくない!! さっさとみつけろ!!」



 ファントムの名前を聞いた僕はかっとなって、兵士を怒鳴りつける。僕はファントムのことが大っ嫌いだった。なぜならば……

 


「僕はゲームの主人公に転生して、チートでハーレムな人生を送るんじゃなかったのかよ……なのに、先に転生していたあいつのせいで全部が無茶苦茶になったんだ……あんなやつのせいで……」



 前世の僕はラノベやゲームが大好きだった。あんな親ガチャや学歴ガチャできまるクソみたいな世界は大っ嫌いで……いつか異世界に転生出来たらと願っており、夢かなって主人公になったというのに、全然思い通りにならなかったのである。

 全ては先に転生したファントムが余計なことをしたせいだからだ。あいつがシナリオを無茶苦茶にしたからであって僕はシナリオを正しいものにしようとしただけなのだ。



「だって、主人公は何の努力もしなくても、ヒロインに好かれて幸せになるんじゃないかよ……あいつさえ……ファントムさえいなければ……僕がアンリエッタたんと結ばれたはずなのに……くそが!!」



 先に転生したからって自分の良いように世界を変えたあいつに敵意を感じるのは当然だろう。

 どうせ、あいつは大した努力もせずにチートを使ったのだ。だから、あの卑怯者には頼らないし無様に死んでほしい。

 

 


「カイン様、大丈夫ですかな?」

「ヨーゼフ!! よく僕の前に顔をだせたな!! お前の言うようにしていれば全部うまくいくって言ったじゃないか!! なのに、アンリエッタは靡かないし、エレナやセリスはどこかにいってしまったんだぞ!! このままじゃ魔族に僕は殺されてしまう……」

「確かにその件は申し訳なく思います……ですが、私は約束は守ります。必ずやあなたを王にしてみせると」



 怒鳴り声をあげる僕にも一歩も引かずにまるで子供の癇癪をあやすかのようになだめてくるのがイラっとする。



「魔族を殺す力が欲しいならば、良いものがあります。聖剣『レヴァーテイン』というものをご存じでしょうか?」

「聖剣だと……?」



 もちろんゲームをクリアした僕にも聞き覚えはない。だが、続編で実装される武器なのだと、勝手に解釈する。



「その剣があれば新たな魔王だろうが、なんだろうが倒すことができるでしょう。そして、真の英雄となればあなたが執着しているアンリエッタだって見直すと思いますよ」

「本当か!! だったら、その剣を手に入れるぞ。聖剣は英雄である僕が手にしてこそだからな!!」



 これまでの不安が一気に吹き飛んで僕は得意げな笑みをうかべる。そう……これだよ。これ。主人公にはチートアイテムが必要なんだ。

 そして、思う。このピンチを乗り越えて僕は力を得てアンリエッタたんを手にするのだと。



「ええ、その力があればあなたに恨みを持っているであろう新しい魔王もたおすことができるでしょう。あとはあとはそうですね……魔族狩りをはじめましょう。魔族と思わしき怪しい人ものは即座に処刑するのです」

「ああそうだな。魔族とはいえ不意打ちならば兵士達でも倒せるだろう。お前の提案した包囲網を作動することを許可する!!」



 浮かれていた僕は気付かなかったのだ。ヨーゼフの目ががまるでおもちゃを与えられた子供を見るようなものだったことに……






★★★


やったぜ、カイン君に強化フラグだ!!

個人的にレヴァーテインは聖剣というより魔剣なイメージがありますね。









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