第20話 魔王の提案
魔王……それは魔族たちの王であり、異世界の住人である魔族に魔力を供給する存在だ。
そして、その戦闘力は魔族の中でもトップクラスである。俺が魔王を殺したのも魔眼と完全なる不意打ちだったからに過ぎない。
目の前のすさまじいプレッシャーを放つ無表情な少女を見つめる。
「俺は……魔王ソロモンなんて知らないけど……」
「でしょうね、私たちはつい先日、魔界からやってきたばかりですから」
そういうことじゃないんだ。前世の知識にもなかったって言っているんだよ、俺は!!
このゲームの続編に関しての情報を思い出す。ブラック企業に勤めていて忙しくゲームのサイトをちらっとみただけの俺は断片的な知識しか知らない。
続編のテーマは魔族と人の共存だっけな……ただ、ネットで荒れたのは前作主人公の扱いだ。ルートによっては無残に殺されてしまうのである。
「そう、警戒しないでください。私は父とは違います。あなたたち人間を支配しようなどとは考えてませんよ」
「ならば……何のために来たのじゃ」
転移魔法を密かに無詠唱で行いながらエレナがこちらへとやってくる。いつでも逃げれるようにという判断だろう。
ティアも何か察したのか俺の横にやってくる。
「あなた方人間が素晴らしい。我ら魔族に比べはるかに劣る存在でありながら、私たちを倒すためのすべを覚え、音楽や彫刻、そして、物語などを作り出す知性がある。そして、それは魔族たちでは作り出せないものなのです」
ソロモンがささやかな胸元から取り出したのは随分と古い本だった。表紙こそ少しぼろぼろになってはいるものの大切にされているのがわかる。
「やたらと俺たちを褒めてくれるけど、君の目的はなんなんだ? まさか人と共存したいとか?」
「グスタフ何を下らんことを言っておるんじゃ……」
エレナがあきれた声をあげるが、目の前のソロモンは初めて笑った。
「ふふふ、高慢なるエルフとは違いさすがは魔眼の持ち主です。慧眼ですね。そう、私は父とは違います。あなたたち人間と共存できないか、提案にきたのです。その証拠に正当防衛として戦う事はあっても、それ以上のことはしなかったでしょう?」
「え? そこの魔族さんは普通に冒険者や私たちを殺そうとしてきましたよ。しかも、『無様だなぁ』とかむっちゃ煽ってました」
「そうじゃぞ。魔王よ。下らん甘言を弄するな。卑怯者が!!」
「へ……? うそでしょ」
それまでどや顔だったのに、ティアの指摘に間の抜けた声をあげるソロモン。そして、アモンを相手も思いっきりにらみつける。
「あーなーたーは……あれだけ人間と友好的にしろといったのにぃぃぃぃ!! 多少は暴れるのは許容しましたが、殺したらこっちの話聞かなくなるでしょ。このお馬鹿!!」
「待て待て、あっちから手を出してきたんだぜ。正当防衛だっての!! てか、お嬢!! 素が出てる。素が出てる!!」
「お嬢じゃない!! 魔王ソロモンとよびなさいっていってるでしょ!!」
「まずいのう……キャラがかぶっとる」
先ほどまでの無表情はどこにいったやら、怒りの表情を浮かべながらぽかぽかとアモンを殴り続けるソロモン。
なんか複雑そうな顔をしているエレナは放っておいてじーっとソロモンを見つめていると、こちらに気づいた彼女は顔を真っ赤にしながら咳払いする。
「話を戻します。私は魔王としてあなたがた人間と共存の道を選ぼうと思っているのです。ただ、一つ問題がありまして……わが父である魔王の力の半分を奪ったオセという魔族がいるのですが……そのものは魔王の力を使って、人と魔族両方を支配しようとしているのです」
「なるほど……そいつを倒すのに手を貸してほしいってことかな? だけど、俺たちよりもソロモンの方が強いんだ。自分でやればいいんじゃないか?」
ソロモンの方が強いというのは正直わからない。
彼女は確かに厄介だが、対峙した時のプレッシャーは魔王の方がやばかったし、動きをみているかぎり接近戦そこまでではないとおもう。
魔眼の力を完全開放すれば倒せるだろうが、彼女を試させてもらおう。
あいにくだけど、俺は出会ったばかりの相手を信用できるほど、もう甘くはないのだ。
「ただ倒すだけならばアモンでも十分なのですが、オセの得意魔法は変身でして、元々は人間の国に潜んで情報を収集していたのですが……おそらく欲にかられたのでしょう」
「なるほどのう……人間の王国に潜んでいるということか……確かに厄介じゃのう。魔王の力を持っているならば、こちらにいても消滅することはないじゃろうし……」
「そうなのです。本来ならば魔王は死体が消滅すると同時に後継者である私のもとにすべての力が来るのですが……奴は私の父の死体をもてあそび魔力を奪ったのでしょう。裏切った上に主の力を奪うなんて魔族の風上にもおけません」
魔王の力を奪うか……だけどいつだろうか? 魔王の死体……といか首は凱旋パレードの時に討伐証明としてカインが掲げていたが……
いや、なんかむっちゃいやな予感がするんだけど……
「つまり、あなたたちは私たちの力を借りるためにこっちにやってきたのであって、戦う意思はないということですね」
「ええ、そうです。むしろ、私はあなたがた人間と交流すらしたいと思っています」
納得してくれたと雰囲気が緩んだ瞬間にエレナの瞳が鋭くソロモンを射抜く。
「じゃが……わしらはお主の父である魔王をころしたんじゃぞ、本当に手を借りたいのか?」
「……あの人は強さにしか興味がなく父としては最低でした。気にはしていません。それより、強力な力を持つ父が倒したあなたがたに尊敬をしています。私たち魔族にはない力を持つあなた方の力を知りたい……どうか私たちに力を貸してはいただけないでしょうか」
「「「……」」」
無表情だったソロモンが頭を下げる。その様子からは本当に敵意は感じられず……どうしようかと俺たちは視線で相談する。
「お嬢の言うことは真実だぜ。なんなら俺の首をかけてもいい。エルフの女。俺が変なことをしたら爆破する魔法くらいかけれるだろ? 」
「アモン……あなたの忠義に感謝をします」
好きにしろとばかりに両手を上げて俺の前に立つアモンに、ソロモンが感嘆の吐息を漏らす。
「でしたら私がアモンを魅了しましょうか? 完全には魅了できなくても動きをおさえることくらいは……」
「いいねぇぇぇ!! はっは、こんなかっけえ女に魅了されるなんて最高だぜぇぇぇ、さあ、早く俺を魅了してくれ。喜んであんたの犬になろう!!」
「うわ、きっしょ!! それに私はカッコイイ女の子ではなく、可愛い女の子ですよ!!」
満面の笑みを浮かべてせまってくるアモンにティアがむしけらに対するような目で見つめる
「あれ……アモン? 私への忠誠心は……?」
呆然とした表情のソロモンをよそにエレナがアモンの首に魔法をかける。これで変なことをしたらこいつの首は爆発する
判断力に優れているエレナならば安心だろう。
「話はまとまりましたね。では、オセを探しに行きましょうか」
「見当はついているの?」
「ええ、オセは父の命令で何十年も前にイステリア王国に潜んでいるのです。それなりに立派な地位にいるらしいですよ」
「「なっ」」
俺とエレナが声を上げるのも無理はないだろう。だって、そこは俺の故郷であり、アンリエッタやカインがいる国なのだから……
そして、あそこには俺の代わりに領主になってくれた妹もいるのだ。
「やっぱりオセが魔力を奪ったのは魔王の首からか!!
「嫌な予感がする。急いでいくのじゃ!!」
「ああ」
そうして、俺たちはエレナの転移魔法で冒険者ギルドのある街へとひとっ飛びするのだった。
★★
魔族のプレッシャーで興奮気味になっている魔物と戦い負傷していたアベルたちの元に法衣に身にまとった女性が治療をしてくれる。
「ありがとうございます。聖女様」
「すごい……あれだけの傷を一瞬で……」
「気にしないでください。これも神のお導きですから」
優しく微笑むセリスにぽーっとするアベルの足をフラウが踏む。そんな様子をどこか懐かしそうにクスリと笑ったセリス。
「もう、大丈夫ですね。エレナさんたちがどちらに向かったかわかりますか?」
「はい。そっちの奥へと向かっています。やはり魔族はエレナ様がいても危険な相手なのでしょうか?」
「ええ、そうですね。でも、それだけではないのです。エレナさんと一緒に仮面をかぶった冒険者さんがいたでしょう? その方に用があるのです」
「ああ、グスタフさんですね。あの人が何か?」
魔王殺しの英雄であるセリスがグスタフの関係性が想像もつかずにアベルが怪訝な顔をしていると、彼女は恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めた。
「グスタフさまは……私にとっての恩人で、将来を誓ったお方なんです」
「「「え?」」」
予想外の言葉にアベルとその仲間たちは間の抜けた声をあげる。そんな彼らにあたまをさげて森の奥へとセリス「待っていてくださいね、ファントムお兄様……もう逃がしませんから」どこかハイライトが消えた目をしながら進んでいく。
「エレナ様といいセリス様といいあんなに慕われるなんてグスタフさんってすごい人だったんじゃ……」
「というかティアの恋敵、強すぎないかしら?」
アベルとフラウが思わずつぶやく。余談だが、グスタフたちは転移したためセリスと入れ違いになったのはここだけの話である。
★★★
カイン君の死亡フラグがどんどんつみあがっていく……
そしてセリスはグスタフとであえるのか……
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