第19話 再戦

「全然魔物がいませんね……」

「じゃが、確実に魔力の持ち主には近づいておる。おそらくアモンのやつが生きておったな。警戒は怠るなよ」



 森の中に入って数十分ほどたったが驚くほど魔物たちと遭遇することはなかった。これは今回の件が外れ……というわけではない。

 むしろ、強力な存在がいるからこそ魔物たちもそれから逃げているという風に考えられるのだ。



「この感覚……四天王の一人獣王のザブザとのたたかいを思い出すのう……」

「ああー懐かしいな。獣が苦手なセリスに泣きつかれておぶりながらやつがいる森を探索したっけ」


 

 教会で大切に育てられた彼女は獣や虫系の魔物が苦手でしょっちゅう頼られたものだ。

 兄と慕ってくれている彼女が「きゃ!?」っと可愛らしい声をあげるたびに抱き着いくると豊かな胸があたってしまうことが多く、ポーカーフェイスを保つのが大変だったんだよね。

 懐かしく思っているとエレナが何とも言えない表情を浮かべているのに気づく。



「……セリスがいないから言うがあいつのあれはお前さんに甘えるための演技じゃぞ。野営の時とかは普通にメイスで獣系や虫系の魔物を殴り殺しておったしな。まあ、背中に胸が当たってラッキーって顔をしていたお主は気付いておらんかったようじゃがな……」

「え……嘘だろ?」



 震えながら「獣がどうしてもだめなんですって泣きついてきたかつての妹分の顔を思い出してげんなりする。

 あれ、演技だったの? むっちゃかっこつけて俺を頼るがいいとか言ってただけど……



「獣王ザブザと英雄たちの戦いの話は知ってますよ!! 確か獣王の部下にかこまれて絶体絶命になるも剣聖カイン様の一喝で魔物たちを従えたっているエピソードは吟遊詩人たちも歌っている大人気のお話ですよね!!

「「……」」

「……あれ、なんです。その反応は?」



 目を輝かすティアに俺とエレナはあきれた表情で目をあわせる。

 カインのやつは相当話をもったらしい。目を輝かしているティアには悪いが現実はそんなにかっこいいものじゃない。



「いや、こやつがどこからか持ってきた餌で魔物たちを従えて、獣王に襲わせただけじゃ。カインにそんな力はないぞ」

「あれ……勇者パーティーの威光で魔物が改心したんじゃ……」

「魔物って言っても獣に近いからなぁ……そんな知能はないよ」



 桃太郎がきびだんごで動物たちをしたがえたように俺はゲーム知識で特攻アイテムを作って配下の獣たちを無効化しただけである。ゲームでもあいつらは餌を使うと攻撃しなくなるんだよね。

 とはいえ、俺がやっていたゲームには出ていなかったアモンにそういう絡め手は通じない。だけど……



「さっき戦ったけど、俺が魔眼の力を開放して、ティアがサポートしつつ、エレナの魔法を使えば勝てるだろ。あくまであいつは四天王クラスだ。俺たちの敵じゃない」

「そうじゃな。この先に強い魔力の反応はアモン一体分と小さい反応しかない。わしらが力をあわせれば楽勝じゃ。まあ、魔王がいたら話は変わるがの」

「さすがは魔王殺しの英雄ですね!! 心強いです!!」



 仲良く話していると昔を思い出して少し楽しくなる。やっぱり仲間がいた方が楽しいな……信頼のできる仲間がいると……

 ああ、そうだよ。パーティーを組んでの冒険はこんなに楽しかったんだ。



「師匠どうしたんですか。いきなり笑って」

「いや、ティアちゃんには感謝しないとなって思ってさ」



 顔をのぞきこまれて恥ずかしくなったので頭を撫でてあげると幸せそうな顔をする。 ティアも言っていたけどあの追放があったから俺は今ここにいるのだ。

 前まではゲームの死亡フラグから逃れることに必死だったけど、今は純粋に第二の人生をたのしめている。このことだけは追放してきたあいつらに感謝すべきだろう。



「えへへ、師匠に頭を撫でられるの好きです。師匠も可愛い私にさわれてウィンウィンですね」

「何いちゃついとるんじゃ。そろそろじゃぞ……ずるい、私も撫でてほしいのに……」

「別にいちゃついてないって」



 ぷんすか怒っているエレナに詫びながら魔眼を使うとアモンの圧倒的なまでの魔力を感じる。あれ……だけど、量は少ないけどもう一体魔力を感じるような……


 でも、まあ俺たちの敵じゃない。


 そして、木々の間からうっすらとアモンともう一人の人影がみえる。彼はこちらをみてにやりと笑みを浮かべたような気がする。

 気づかれたか!!



「エレナは魔法の準備を!! ティアは周辺の警戒しつつ状況を見てあいつを魅了してくれ!!」



 魔眼に貯めていた力を全て開放して猛ダッシュでアモンに斬りかかるとやつもまた嬉しそうに笑いながら猛ダッシュでその爪を斬りかかって来る!!



「はっはっは!! またあったな。魔眼使い!! あのお嬢ちゃんもいるようだなぁ!!」



 剣と爪がぶつかり合って擦れきれるような音が森に響く。殺気を込めた一撃を受けとめたアモンは余裕があるとでもいうようにティアにウインクをしてやがる。



「なあ、魔眼使い!! 俺が勝ったらさぁ!! あのお嬢ちゃんをくれよ。可愛がってやるからさぁ!!」

「悪いな、ティアは俺の大事な仲間なんだ。それに……人をものみたいにくれとかいうなよ!!」



 再度斬りつけ、受け止められた時の力を利用しバク転すると同時に先ほどまでいた場所に何本もの氷の矢が降り注ぐ。

 ティアの魔法を魔眼で感知して回避したのだ。そして、直撃したアモンは……



「はっはっは、いい魔力だ。この力、まさしく愛をかんじるなぁ!!」

「ひえ、きっも……」



 ティアが引いたことをあげるのも無理はない。アモンは魔法の直撃をうけたというのになぜか嬉しそうに笑い、ティアに投げキッスまでしたのだ。

 こんな魔族は俺もはじめてである。



「魔族に愛が理解できるのかよ!!」

「できますよ。高貴なる私たちもあなたたちのように家族を作ったり子供を育てたりしますからね。まあ、相違点はあると思いますが……」

「な……」



 一瞬だった。俺がアモンに斬りかかろうとした瞬間に俺の影からアモンと共にいた少女が現れて俺の剣を魔力の籠った手のひらで受け止めたのである。



「アモン……私は彼らと話がしたいと言ったはずですが?」

「はっはっはー。だから拳で話し合っているんじゃねえか!! それに愛する者からの魔法を喰らうとぞくぞくしてたまらねえんだよ!!」

「グスタフ。さっさとどくのじゃ!! お前さんも巻き込まれてしまうぞ!!」



 奥の方から強力な魔力を感じ俺は剣を捨ててその場から引くが……目の前の魔族たちが避けようともしないのに嫌な予感を覚える。



「光の聖霊よ、我に魔を滅する力を与えん!! 聖光刃!!」

「ほう……なかなかの魔力ですね。ですが……わが影は全てを喰らう終焉の魔物なり!!」



 少女が手をふるうと影が壁となりエレナの放った光線を喰らいつくす。四天王すらはるかに上回る力に俺は思わず驚きの声をあげる。



「自己紹介が遅れましたね。私の名前はソロモン……あなたがたが殺した魔王ゲーティアの娘であり、新たな魔王をやらせてもらっています」



 先代魔王すらも傷つけた魔法を無効化したというに少女はにこりともわらわずにドレスの裾をあげて頭をさげるのだった。









★★★



 聖女セリス様は裏表のない素敵な人です。

 

 





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