第16話 新たなる魔族


「魔族がこの近くにいるなんて……さすがにシャレにならないんだけど……」

「うむ……しかも、かなり強力な個体じゃ。魔王ほどではないしろ油断はできんぞ」



 受付にいるアイシャちゃんに細かい報告とこれからのことで相談しに行ったのだがじとーっとした目で睨まれてしまった。



「ねえ、いったい何があったのよ。女の子を口説く力もAランククラスなのかしら?」

「いや……どうしても離れてくれないんだよ……」



 それも無理はないだろう。かっこいい物言いこそしているもののエレナはまるで木に捕まるセミのように俺のおなかにしがみついているのだ。



「エレナ……さすがに恥ずかしいから、自分で歩いてくれない?」

「いやじゃ!! いやじゃ!! またお前さんがどこかにいったらわしは耐えられん。絶対に離さんぞ!!」

「この方……本当にかの有名な大賢者エレナ様なのよね? グスタフさん何をしたのよ!? まさか、エッチな媚薬とかを使って……」

「俺のイメージってどうなってんの? その……これには深い事情がね……」



 ティアの部屋で本心を聞いた俺たちはすっかり仲直りをしたのだが……ちょっと仲良くなりすぎた気がする。

 酒場にいる冒険者たちの視線も痛くなってきたのでティアに助けを求めるがと彼女は任せろとばかりにうなづいた。



「そのままミーンミーンって言ってみてください。私はエレナさんの味方ですよ」

「別にかまわんが……みーんみーん」

「うふふ、可愛い。ハイライトの消えた目も素敵ですね!!」



 ヤンデレロリエルフゼミが生まれちゃった……

 てか、ティアちゃんってば完全にたのしんでるじゃん!! エレナの最初に会った時の不遜な大賢者様っぽさはどこに行った?



「ねえ、エレナ。この一年間で賢者としてのプライドどっかに落としちゃったの?」

「そんなくだらないもんどお主がどこかに行った時に捨てたわ。わしは後悔しておるんじゃ……くださらんパレードなんかにでないでお主と一緒にいればよかったとな」

「……エレナ」



 そんな風に言われちゃったら雑に扱えないじゃん。

 彼女は本当に俺を必死にさがしてくれていたのだろう。あまり体力はないくせにがっつりと抱き着いてくる彼女の頭を撫でると、一瞬ハイライトが薄れ気持ちよさそうに笑った。



「大丈夫。俺はもう勝手にどこかにはいかないから安心してくれ」

「本当……? もう置いてっちゃいやだよ?」

「ああ、約束するよ」

「あの……ギルドの受付前で二人の世界を作らないでよ……私仕事中なんだけど……」

「「あっ」」

 


 周囲の視線に気づいて俺とエレナはさッと離れる。誰かがロリコンとか言いやがったがスルーする。

 そして、顔を真っ赤にした彼女は仕切り直すように咳払いをして話を進める。



「とりあえずは近隣の街の冒険者に増援を依頼すべきじゃな、最低でもAランクは必要じゃ。あとは国に……」



 そこまでしゃべってエレナが固まりこちらを見る。国の力を頼るということはカインやアンリエッタ、セリスの耳にも入るからだろう。

 エレナに聞いたが、俺の追放を聞いて即座に探索した後、エルフの里にある魔術工房に引きこもっていたので三人の動向は知らないらしい。



 正直……会いたくはないな……



 だけど、俺は迷わない。だって、傷ついた俺を受け入れてくれたこの街が好きなんだ。



「国に依頼もしてね。魔族が来るとなったら彼らも本腰を入れてくれると思うよ」

「そうじゃな……魔族は一都市の冒険者ギルドが抱えるには重すぎるからの。わしも署名しよう。そうすれば少しは動きも早くなるはずじゃ」

「わかったわ。エレナ様、あとはギルド長と話し合ってもらえるかしら」

「うむ……グスタフもつれていくぞ」



 すさまじい速さで話が進んでいくなかアイシャちゃんがティアにはなしかける。

 


「でも、グスタフさんとエレナさんが仲良さそうにしているのにティアちゃんは気にしないのね」

「ええ、だって私は可愛いですし、師匠が巨乳好きって知ってますから。エレナさんは安全だなって!!」

「なんじゃと!! 胸を小さくする魔法を使ってやろうか!!」

「エレナ、落ち着いて!! それって禁呪じゃん。しかも、前にもアンリエッタとセリスに使おうとして怒られたでしょ!!」



 そんな風に話しながら俺は仮面を撫でながら思う。エレナとは仲直りできた。だけど、アンリエッタやセリス、カインと会ったらどうすればいいのかと……



★★


 森の奥地に二つの人影があった。一人はグスタフと激闘を繰り広げたアモンが上半身のみの状態で何やら楽しそうに笑っている。そしてもう一人は、無表情だが美しいドレスを身にまとった権力者特有の傲慢な雰囲気のする少女だ。

 いや、ただの少女ではない、その額には大きな角があり人ではないことを証明しており、彼女がまとう圧倒的なまでの魔力に近くにいる魔物たちは退避していた。



「アモン……随分とぼろぼろになりましたね……分別は生ごみの日でいいでしょうか?」

「はっはっは、扱いがひどいねぇ……」



 神の炎で焼かれかろうじで原型をとどめている首から下も大火傷になっているアモンだったが、まるで痛みでも感じていないかのように笑う。

 そんな彼に少女が無表情に魔力を注ぐと徐々に傷が癒えていき再生していく。



「人間たちと戦ったようすですが命を奪ったりはしていないでしょうね?」

「ああ。もちろんだ。それどころか、一切危害はくわえてないぜえ。俺は平和主義者だからなぁ」

「ふぅん……ならばいいのですが……あなたのことです。多少は暴れましたね。人間はか弱いのです。やりすぎてはいけませんよ」



 呼吸をするように嘘をつくアモンを信頼してなそうに見つめる少女。 



「そういや、面白い奴がいたぜ。魔眼を持った男だ。人間のくせに俺たちの力を完全に使いこなしてやがった。生半可な努力じゃなかっただろうな。なぜか、オシャレな仮面までつけてやがったぜ」

「ほう……混血に……仮面……ですか。興味深い!! その方はぜひとも私のもとに招待したいですね。趣味もよいですし、例の目的のために役立つかもしれません」



 アモンの言葉に少女は大きく目を見開くと興味深そうににやりと笑った。そして、それにつれられてアモンも笑みを浮かべる。



「はは、お嬢はおもしろいなー。あんなことを本気でするのかよ」

「ええ、私は父と違うのです。父のように奪うだけではだめなのです」

「ふふ、いいねぇ。それに俺も賛成するぜ!! そっちの方が面白そうだし、俺も一つ目的ができたんだ」

「おや……あなたは私に仕方なくついてきたものだと思っていたのですが……何かあったのですか?」



 相も変わらず信用していない目で見つめる少女にアモンは得意げに笑った。



「恋だよ、恋!! 圧倒的な力をもつ俺に勇気をもって戦いを挑む姿に惚れたのさ!!」

「は? 恋!?」



 予想外の言葉にあえて作っていた無表情が崩れて少女は間の抜けた声をあげる。それを見てにやりと笑うアモン。



「ああ、お嬢にはこういう話はまだ早かったかなぁ」

「理由は構いません、あなたが協力的になったことは喜ばしいです。が……何度も言いませんよ。私のことはお嬢ではなく、魔王ソロモンと呼びなさい」



 どっとはなたれ魔力に木々が揺れて葉が舞い散り、そのすさまじさにアモンは本能的に畏怖を覚える。



「ふははははは、新たな魔王であり、歴代最強にて最悪とよばれた私がこの世界を変えて見せます。父とも違う私だけの覇道を示してみせましょう!!」



 高笑いをする魔王ソロモンを前にアモンは思う。魔力でスカートが捲れてパンツが丸見えだけどいいのかなと? そして、スライムがプリントされたパンツは魔王的にどうなのかなと……




★★★


 新たな魔族が登場してどうなるのか……?

 


 


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