第14話 グスタフとエレナ

 とりあえず明日に備えて休もうと話した俺たちだったが、ティアに手紙でこっそりと呼び出されていた。

 彼女が泊まる安宿の扉をノックすると「はーい」という可愛らしい声と共に扉が開き可愛らしい顔がのぞく。

 


「わざわざ来てくださってありがとうございます。遠慮なく入ってください」

「ああ、内密な話があるって書いてあったけど一体どうしたの? ……ん」



 ベッドと小さな机がある簡素な部屋に入ると甘い香りが俺の鼻孔をくすぐる。安宿なのになんでこんなによい匂いがするんだろ……

 それに、鎧を脱いで薄い生地の寝間着に着替えているティアちゃんは普段も目立つ豊かな胸と柔らかそうなお尻がより強調されているためつい目に入ってしまった。

 冷静に考えたらこんな夜中に女性の部屋に入るって結構あれなのでは……?



「どうしました、師匠? 遠慮なくベッドに座ってください」

「いや、なんでもないよ。きにしないで」



 内心がバレたら気まずくなるので少し緊張しながらお言葉に甘えると、水の入ったコップを渡してくれたので落ち着くために口に含む。



「まるで、『こんな夜中に女の子の部屋に入るなんて誘われているみたいだぜ、可愛いから襲ってやるか、げっへっへ』とか考える顔してますよ」

「そこまでは思ってないよ? てか、げっへっへって笑う人とか本当にいるの?」

「まあ、師匠が責任を取ってくれるなら私は襲われても構いませんが……」

「え?」



 あぶない……こぼすところだった……。思わず彼女の顔を見るとに可愛らしくだけどどこか妖艶な笑みを浮かべている。 

 やけに大人びて……魅力的にうつるのはもしかして……



「俺に魅了を使ったらだめでしょ」

「もう、師匠にそんなことするはずないじゃないですか……まさか、私が可愛すぎるから見とれてくれているんですか?」



 嬉しそうに胸をおしつけてくるものだから、色々とやばい。

 アンリエッタとは婚約はしていたけれど、そういうことは一回もしていなかったからこういう状況には慣れていないのだ。



「それで話って何なのかな?」

「もう、誤魔化しましたね……」



 じとーっとした目で見つめた後にティアは真剣な顔をする。



「その……師匠とエレナさんの過去に何かあったか聞いてもいいでしょうか?」

「あー……そりゃあ気になるよね」



 ティアちゃんには俺の正体は言っただけでなにがあったかは具体的に説明していない。だけど、エレナとの話しは聞いていて俺と彼女の間に何かあったかはうすうす勘付いているはずだ。



「もちろん気になってます。だけど、それ以上に師匠がつらそうに見えたから……だから事情を聞けば少しでも力になれるかなと思って……」

「ティアちゃん……」



 彼女の優しさが心に染みていくのがわかる。ああ、そうだよ。彼女との付き合いは短いけれど、この子が俺を本当に慕ってくれていることはもういやというほど実感している。

 今だって俺と組んでいるのは恩もあるけれど心配してくれているのかもしれない。それに彼女は俺の言葉を信じて魔族とも戦ってまでくれたのだ。


 もう一度人を信じてもいいよね……つらい過去を思い出したけれど、不思議と心は軽かった。





「そんなことがあったんですか……」

「ああ、エレナのは誤解だったけどね……だけど……他の人はわからない。本当に追放に賛成していた奴もいるだろう」



 これでもパーティーの仲はよかったはずなのだ。確かに魔王城の近くにいってからカインの奴の様子は変だったけど、それでも仲良くやっていた。

 そう思っていたのに、大臣から聞かされた彼らの言葉がいまだに頭から離れない。エレナの時のようにカインのやつが良いタイミングで切り抜いた可能性もある。だけど……俺はもう、それを確認しようという熱意もないのだ。

  それに、逃亡先で聞いた話ではみんな王城で名誉ある地位をもらったという噂も聞いていたしね。



「なるほど……そして、エレナ様の事もまだ完全に信用できないと……」

「ああ、彼女の言葉に疑いはなかったと思いたい。だけど、俺は……どうしても一度裏切られたことが頭をよぎってしまうんだ」

「なら……エレナ様の本音を聞けば信用できますね」



 難しい顔をして俺の話を聞いていたティアが発した言葉に頷くと彼女は嬉しそうに笑う。

 でも、エレナは結構本音を隠すタイプだ。彼女の本心を聞くのは難しいと思う。



「それはそうだけど……だけど、なんでそんなに俺とエレナの仲を気にするんだ?」

「そんなの当たり前じゃないですか。私たちはこれからパーティーを組んで強力な魔族と戦うんですよ。お互い遠慮していたら連携に支障がでます」

「たしかに……」

「でも、それ以上に師匠がつらそうな顔をしているのを見たくないんです」



 自分のことのように悲しそうな顔をしてくれた彼女の頭を撫でると嬉しそうにほほ笑む。

 その表情はさきほどまでの大人びた様子はなく、いつもの小悪魔じみた表情でもなく、年相応の可愛らしい笑顔だった。ギャップにおもわず胸がドキッとしてしまった。



「ティア……ありがとう」

「お礼を言うのは私の方です。だって、二回も助けてもらったんですから」

「二回……?」



 一回目はわかる。追放された時のはなしだろう。だけど二回目は……?



「師匠……私を信じてくれるなら今からやることを許してくださいね。あなたに必要なのは本音を聞くことだと思いますから」

「え? それって……」



 そこまで聞いて俺は体が動かなかくなっていくのを感じる。まさかマヒ毒……? さっきの水に入っていたのか?



「ちょっと失礼しますね」



 そういうと混乱する俺をよそに彼女はローブで縛り上げて猿轡をはめてきた。



「んーんー!!」

「師匠、私を信じてださい」



 そう言ってほほ笑むとそのまま俺をクローゼットにぶち込んだ。中に充満している服に残るティアの甘い匂いが俺を刺激する。

 てか、これって下着じゃ……

 目の前に転がっている布に思わず動揺しているとその扉が閉められた。視界がくらくなり、わずかな隙間から外の明かりが見えるくらいだ。



「ーーー(何考えてるんだよーーー!!)



 必死に声をあげるも猿轡のせいで言葉にならず絶望していると、ノック音が聞こえてくる。



「あ、入って大丈夫ですよーー」

「夜分遅くに失礼するぞ。ティアよ、一体何の用じゃ?」

「せっかくなんで女子会をしようと思いまして……話し合いは師匠についてです!!」



 扉が開く音とともにエレナの声をが聞こえて、クローゼットの隙間からは笑顔を浮かべているティアが見えたのだった。












★★★


 ティアとエレナの女子会はどうなるのか!!

 


 次回お楽しみに!!



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