第13話 エレナとの話し合い


 無言のまま冒険者ギルドに帰還した俺たちは、冒険者たちの救助と魔族と遭遇したことを簡単に報告した。ギャメルたちは重傷だったようで隣町にいる優秀なプリーストにみてもらうべく馬車で運ばれていった。重騎士の青年があんまりにも血がひどかったものだから、ハンカチで応急処置をしておいたが助かると良いなと思う。

 確かにむかつくやつらではあったが知った顔が死ぬのはいやなものだ。


 そして、俺たちは冒険者ギルドのVIPルームで対峙していた。ちなみに俺の正体はティアちゃんに簡単にだが説明し終えている。



「さすがは師匠と賢者様ですね。こんな個室よっぽどじゃなければ借りられませんよ。あははははー」

「……」

「……」



 ティアちゃんが場を和ますように軽口を叩いてくれるが俺は何も反応することができなかった。ただ、殺気を込めた瞳でいつでも動けるようにしているだけだ。師匠……じゃなかった。エレナが悲しそうな目でこちらを見つめているが絆されてはいけない。

 だって、目の前の彼女は俺を追放し……今も命をねらっているのかもしれないのだ。



「それで……エレナさんはなんで俺を探していたのかな?」

「エレナさんか……、もう師匠とは呼んでくれないのかの?」



 悲しそうな顔をするエレナに胸がいたくなるが、心を鬼にする。俺と彼女の関係はかつてとは違うのだ。

 じーっとみつめていたエレナだが、大きくため息をつくと口を開いた。



「ファントムがわしらに黙って出て行ったから探そうと……」

「何を言っているんだ!! お前らが俺を追放したんだろうが!!」



 エレナのどこか攻めるような言葉に俺は思わず怒鳴り返してしまう。だって、一方的に切り捨てたのは彼女たちだというのになんで俺が攻められなきゃいけないんだ?



「俺は音声魔法でも聞いたんだよ。お前らが俺の追放に賛成しているのを!! 身に覚えがないとは言わせないぞ!!」



 あれは確かに彼女たちの肉声だった。そして、音声魔法は言ったことを修正するような力はない。ただ再生することしかできないのだ。

 そして、エレナも身に覚えがあるのか表情を歪ませる。



「あれは……あれは……違うのー!! カインのやつにはめられたのーー!!」

「え……この人も可愛い……」



 エレナの口調が舌っ足らずなものに変わったのを聞いたティアちゃんがぼそりとつぶやく。

 そう……エレナは子供っぽい自分を気にしており自分を大人っぽくみせるために普段は偉そうなしゃべり方をしており素ではこっちの口調なのだ。



「私は確かに言ったよ。だけど、あれは……ファントムの力が強力すぎるから、人間の世界では浮くって思ったの。だから、私がずっと監視してあげようって思って……そのための魔法だってちゃんと作ったんだから!! なのに……なのに……」

「ちょっと待って……」



 本来は彼女がこのしゃべり方をするのは心を開いた人間……エルフの家族と俺だけだった。ティアちゃんが目の前にいるって言うのにこの口調を変えないって言うのはよっぽど動揺しているのではないだろうか……?

 でも……



「でも、エレナさんは宮廷魔術師になっているんだろ? 俺を探しに来た目的は殺すつもりじゃ……」

「そんなはずないでしょ!! 大体魔法しか使えない私が一人で行っても魔眼をもつファントムに勝てるわけないよ!! 私はただファントムに会いたかったのーー!! 会ってつらい思いをさせたのを謝りたかったの!!」



 目から大粒の涙を流しながら胸に飛び込んでくるエレナ。確かに……俺を殺すには彼女では足りない。

 それにカインの奴が絡んでいるんだったら、家族を人質を取るなりなんかしらの手段を選ぶはずだ。

 


「でも、エレナさんはエルフと人間の懸け橋になるために力をカインたちに力を貸してたんだろ? それはいいのか?」

「良くないに決まってるでしょ!! でも、エルフの使命よりもファントムの方が大事だもん!!」



 必死に表情で訴える師匠だが、それでも俺はあと一歩が信じられない。もしかしてこれも演技だったらというのがどうしても、頭をよぎるのだ。

 そして、そんな賢いエレナはそんな俺の表情から迷いを読み取ったのか、俺の体から離れると悲しい顔をしてローブのポケットをごそごそと漁る。

 その思いつめた表情に嫌な予感がする。



「でも……許してくれないのも無理はないよね? 賢者とか言われているのに大臣やカインのアホ共の陰謀も見抜けなかったなんて……これじゃあ、愚者だもん……責任取るね」

「ちょっと待ったぁぁぁぁ!!」



 いきなりポケットから取り出したナイフで自分の首を貫こうとしたので剣でとっさにはじく。

 今の軌道……ささったらマジで死ぬところだったよ?



「何考えてんの?」

「こうすれば私の事ずっとおぼえてくれるかなって……それにファントムがそばにいない世界なんて生きている意味ないもん」

「わかった!! わかったから!! エレナのことを信じるから」

「本当!? 嬉しい……だけど、ちゃんと責任は取りたい……カインのやつら呪殺する? それとも城に隕石とか落そうか?」

「いや、大丈夫だよ……そこまで恨んでないし……」

「なんというかとっても可愛らしい方ですね……」



 嬉しそうな顔で抱き着いてくるエレナだったが、その瞳がひどく濁っているように見えたのは気のせい……だといいな。



「それで、師匠。これからどうするんですか?」

「ああ、そうだね……俺はこの街には結構愛着があるんだ。だから、魔族と戦ってでも守りたいと思う。明日にはギルドから何らかの動きがあると思うしそれを待とう」

「それなら私……じゃなかった。わしの魔法が役に立つじゃろう」



 今更顔を赤らめながら口調を元に戻すエレナ。それを見てティアが微笑ましいものを見るように笑った。



「ふふ、エレナさんも可愛いですね」

「違うもん!! 私は可愛い系じゃなくてクール系だもん!!」



 まあ何はともあれティアとは仲良くやってくれそうである。

 だけど……俺の中のもやもやはいまだ晴れていなかった。エレナはあんなにも俺のことを考えてくれていたとは頭ではわかっているのに、どうしても、追放された時のことが頭に浮かんでしまうのだ……

 そして、そんな俺の悩みに、人の感情に聡いティアちゃんがきづかないはずはなかったのだった。



★★



「んーんー!!」

「師匠……すいません、これは必要なことなんですよ……二人が本当に仲直りするために……」


 ティアちゃんに話があると呼ばれて飲み物を飲んだところまでは記憶がある……だけど、 なぜか俺は縄で拘束されて猿轡をはめられているのだった。









★★★




 話し合ってもいまだしこりを残す二人を仲直りさせるティアの秘策とは……?

 

 過激なヒロイン良いよね……


 次回お楽しみに!!



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