第12話 VS魔族
「ティア行くぞ!! エレナはここ詠唱を頼む!!」
「ひ、助け……」
圧倒的な力の差に盾を持ったギャメルが悲鳴をあげるのと俺とティアが飛び出すのは同時だった。もちろん、グレーターデーモンは俺たちにすぐに気づいてその腕をこちらへと突き出した。
「ティアはプリーストの子を避難させて!! お前ら!! ここは俺に任せてさっさと逃げろ!!」
「わかりました、師匠もおきをつけて!!」
「なっ? グスタフ? お前らがなんで……」
『はは、お仲間かぁ? 群れただけで俺様に勝てると思ってんじゃねーぞ!!』
ギャメルがグダグダいっている間にも目の前のグレーターデーモンから圧倒的な殺気を感じる。
嫌な予感がした俺がエレナに感知されてないくらい最低限魔眼を発動させて魔法の軌道を見抜き、先読みして剣を置いてとグレーターデーモンの手のひらから放たれた黒い光線を火花をまき散らせながら受け流す。
「ばかな……クロノが一瞬でやられた魔法……」
「いいから逃げろって言ってんだよ!!」
驚愕の表情のギャメルを怒鳴りつける。俺はその魔法を知っていた。
『闇魔法「死線」』 凝縮された闇を光線状に放つことにより対象を抹殺する魔族の得意魔法だ。もっとも単純な魔法だが、その威力は魔力の高い魔族が使えば立派な殺人魔法と化す。
ぶっちゃけフリー〇ンに出てくるゾルトラークみたいなものである。
「師匠!! 大丈夫ですか?」
「ティアは俺を信じてそのまま進め!! うぐおおおおお!!」
心配そうにこちらを見つめているティアに微笑む。受け流している剣が悲鳴をあげる。確かに今の俺にはブランクがある……けど!!
「弟子の前でかっこ悪い所はみせられないんだよ!!」
受け流し終えた俺はそのまま流れるようにして、二発目が来る前にグレーターデーモンに斬りかかるとやつはその鋭い爪で受け止めてくる。
「どうした? 魔法じゃないと人間ごときにてこずるのかな、魔族様ぁ!!」
エレナが魔法の詠唱をしている間に気を引くためにやすい挑発をする。さっきの魔力からしてこいつはかなり強力な魔族だ……例えば俺たちがかつて戦った四天王クラスだろう。だからこそ挑発が通じるのだ。
『てめえ……その眼は……こっち側のものじゃねえか』
「俺の眼を知っているのか!?」
『いいねぇ!! さっきの雑魚とは違って楽しめそうだ!!』
その力にかつての強敵との戦いが思い出されて、ぞくりと背筋に寒気が襲ってくるが、隙をみせなまいとグレーターデーモンの爪による攻撃を紙一重にかわしては斬りつけると緑色の血が宙に舞っていく。
『はっはっはーやるじゃねえか、このアモン様に傷をつけるとはなぁ!! 名を名乗りやがれ!! 三秒だけ覚えといてやるよ』
「俺はさすらいの冒険者グスタフだ!! 三秒だけとは魔族様の頭は三歩歩くだけでわすれる鶏以下の頭みたいだなぁ!!」
『はぁぁぁぁ? 誰がチキンだって? ぶっ殺してやんよ!!」
「魔族相手にあんなに……流石です、師匠!!」
「あれが……Cランク冒険者の力なのか?」
俺の魔眼は魔力に反応する。ゆえに魔力をもとに動く魔族が相手ならば次にどんなことをするかもある程度はわかるのだ。それゆえに魔王にも優位に戦いを進めることができたのである。
「お前ら魔族は魔王がいないと生きていけないはず……なんでここにいる?」
『ああ? てめえら劣等種の王は一人しかいねえのか?』
「な……アモンは別の魔王の部下なのか……」
アモンの言葉に思わず驚きの声をあげてしまう。だって、まだ魔王がいるってことはこの世界は相も変わらずピンチなわけで……ああ、そうだ。俺がやりこんでいたのはゲームには続編が開発中であり、少しだが情報が公開されていたのだ。
その時背後から圧倒的な魔力を感じる。エレナの詠唱が終わったのだろう。考えるのはあとはだ、今はこいつを倒す。
『あいにくだなぁ!! お前の考えはバレバレだぜぇ!! その剣には俺を殺すという意思がなかった!! 本命は別ってことだろ?』
杖の先端に魔力を込めた師匠が草むらから顔を出すのとアモンがバックステップをして、距離を取るのは同時だった。
そして、俺を見てにやりと笑ってその両腕を突き出す。俺ではなく、プリーストを背負っているティアと、魔法を放とうとしている師匠に……
『はは、三択だなぁ!! 女を救うか、エルフを救うか、俺を殺すかだぁぁ!!』
「アモン!!」
挑発するようにしてにやりと笑って無防備に首をさらすアモンに俺はにらみつけながら切りかかる。普通にやっていたら俺は間に合わない。
剣で魔法を受け流して守れるのは一人だろう。ならば普通でなくなるしかない。例え正体がばれても……
俺は魔眼の力を開放すべくその瞳に力を籠める。
「魔力を喰らいて……」
「うふふ、アモン様。そんなエルフや師匠よりも可愛い私をみてください♡ よかったら私を可愛がってください♡」
その時だった。必死に震えをおさえて笑顔を浮かべたティアがプリーストを地面に放り投げ、アモンの方に谷間を強調するように胸を寄せて、猫なで声でウインクをしたのだ。
それにアモンは……
『うおおおおおお、皮鎧だというのに谷間がちらりと見えてやべえ、冒険者なのにかわいらしいギャップ!! はーー、エッチだ!! このエッチさはサキュバスクイーンかよ!?」
「うわ、きっしょ……」
高位魔族だったからか、こいつの性癖なのか、予想以上に効果的だったようで呪文を放つのもやめて鼻の下を伸ばしているアモンにティアがドンびいている。そして、その隙に魔法が解き放たれる。
「わが敵を焼き払え、メギドフレイム」
『にぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!』
魔を焼き払う神の炎がエレナの杖から解き放たれて光線となってアモンを包んで吹き飛ばしていく。
あれは四天王すらも倒した強力な魔法だ。仮に生きていたとしてもただでは済まないだろう。今はこのことを傷ついた彼らを助けて、冒険者ギルドに戻らねば……
「やったのう、ファントムよ。相変わらずの剣の冴えっぷりじゃな」
「ああ、師匠もさすがだ……な……?」
「その魔眼……やはりおまえさんだったんじゃな」
油断した瞬間に昔の名前で呼ばれてしまい、思わず昔の呼び方で返したことに気づいた時にはもう遅かった。
うるんだ瞳のエレナの手が逃がすまいと俺の服のそで強くつかんでおり、ティアに助けを求めるも彼女は頭を抱えるだけだった。
★★
「くっそ、まずい……何もできないまま一年がたってしまった。このままでは新しい魔王に殺されてしまう」
僕ことカインは机の前で頭を抱えていた。誰にも言っていないが僕は転生者であり、この世界のもとになったであろうゲームのこともよく知っている。
だが、予想外のことが二つほどあった。一つは魔族側につくはずのファントムがなぜか主人公パーティーの五人目になっていたこと。もう一つはヒロインたちがぼくではなくファントムに好意を抱いていたことだ。
特にアンリエッタたんは前世からの推しだったのだ。とてもじゃなかったが許すことはできなかった。
「だいたいなんで僕の前世の記憶が戻るのが魔王城に行く寸前なんだよ……」
すでに冒険も終盤で人間関係ができていたためどうすることもできなかった。しかも、魔王への囮にしたファントムはあっさりと魔王をたおしてきてしまったのだ。
「ファントムめ……よけいなことばっかりしやがって……」
本来ならば僕がアンリエッタたんと両想いになるはずなのに……大臣と共謀してファントムを追放することはできたが、彼女の気持ちは誰が見てもファントムのものだった。
「いや、今はそんなことはどうでもいい。このままじゃ続編の世界になってしまう。僕一人じゃ新しい魔王に殺されちゃう……」
2での前作主人公である僕の役割は魔族によって殺される哀れなかませ犬だ。それを防ぐにはともに冒険したパーティーをメンバーを集めなければいけないのだが……
アンリエッタたんは領地をちらつかせれば力を貸してくれるだろうが、エレナやセリスは行方知れずだ。
「あとは……僕が次回作のキーキャラを仲間にするしかないか……魔族すらも魅了する冒険者ティア。殺戮人形ドットーレ。裏切りの魔族アモン。……こいつらがいればなんとか守れるはず……」
続編の情報は僕が転生する前でも設定が発表されているだけだったから細かいことはわからない。だけど、メインキャラを仲間にすれば必ずや僕の力になるはずなのだ。
だが、部下に探させて入るのもも情報が少ないこともあり芳しくはない。
「いや、むしろこれはチャンスだ。僕がここで新たな魔王を倒せばアンリエッタたんもファントムなんかのことも忘れて僕に惚れてくれるだろ。だって、僕は転生者で主人公なんだから……」
ネガティブになりそうな心を必死にふるいたたせ、自作のアンリエッタたんのぬいぐるみを抱きしめる。
★★★
魅了は結構有効なようです。グスタフの正体に気づいたエレナはどうなるのか……
次回お楽しみに!!
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