第11話 森の奥にひそむもの


 冒険者ギルドでひと騒動ありながらも俺たちは魔力探知を行い杖を輝かして先導するエレナについていく。



「こっちの森の奥じゃ。ここで奴が特別なスキルを使った痕跡があるんじゃよ」

「特別なスキルですか? それってどんなスキルなんです?」

「ああ、やつは魔力を喰らう魔眼というスキルを持っているんじゃが……これはそれを探知する魔法なんじゃよ」

「え?」



 ティアが驚きの表情と共に俺を見つめてきたので慌てて顔を逸らす。やべええ、正体がバレたぁぁぁぁぁぁぁ。というかエレナはなんで俺しか探知できないような魔法をピンポイントにつくりだしてるの? そんなに殺したかったのか?



「なるほど……エレナさん、そのファントムって人はどんな女性が好きでしたか?」

「そうじゃのう。やつは大きい胸が好きじゃったな。クールぶりながらもよく鼻の下をのばしておったぞ。本当にむかつくやつじゃった」

「なるほど、私は問題ないですね……師匠、ちょっとふらついちゃいましたぁ」



 自分の豊かな胸を確認してからティアがよろけ、思いっきり胸を押し付けてくる。柔らかい感触に思わずにやけそうになる。

 ああ、魅了されてしまう……



「うふふ、本当だ。でも、私の可愛さよりも胸の方が効果的なのはちょっと複雑ですね」

「クエスト中だぞ、俺を魅了しようとするんじゃない!!」



 小悪魔みたいにわらいかけてくるティアをいなしながら誤魔化すようにして先に進む。

 そして、たどり着いたのはむっちゃ見覚えのある場所……そう、俺が魔眼を使ってトロルを倒したところである。



「ふむ……ここじゃ、ここじゃ。今から数日前かのう。濃厚な魔力が残っておる」

「あー、でも数日前だったらそのファントムって人はもうどこかにいってるんじゃないかな? だって、姿をかくしているってことは何かから逃げているんでしょ?」

「……そうじゃな。じゃが、ようやく得たヒントなんじゃ……無駄足でも動かずにはいられなかったんじゃよ……」



 エレナが縋りつくように悲しそうな目でつぶやくのを見て、少し胸がずきりとしたのはきっと気のせいだろう。



「じゃが、なんでいきなり魔眼をつかったのかのう……」

「そうですね……可愛い冒険者にかっこいいところを見せたかったとかありえますかね?」

「あー、あいつはそういうところがあったのう。魔眼を使うには不要なのに無駄に決めポーズや詠唱とかしておったし……」

「ぐはぁ……」



 容赦のない、黒歴史暴露に俺は思わず胸をおさえてうめき声を上げる。

 だって、コードギアスのルルーシュのポーズかっこいいじゃん。詠唱もあったほうがかっこいいじゃん。

  みんなブリーチの詠唱とか真似したでしょ!!



「師匠……大丈夫ですよ。私も十歳くらいの時にオリジナルの魔法とか考えてましたから……そんな私も可愛いってみんな言ってくれましたしセーフですよ!!」

「慰めないで……余計しんどくなるから……」



 ティアちゃんのはあれじゃん。小学生の女の子がプリ〇ュアの格好をしているのをみて、かわいいとかいう奴じゃん。

 


「主らよ……聞きたいんじゃが、トロルはこんなところに頻繁に出てくるのかの?」



 俺たちとは対照的に真剣な顔をしたエレナが険しい顔で森の奥を見つめる。やはり、何か奥にいるのだろうか?

 彼女の表情に思わず冷や汗が流れる。



「いや、普段は出てこないよ。俺もそう思ってたからギルドには調査した方がいいんじゃないかなって報告したけど……」

「なるほど、グスタフよ、いい判断じゃ……この奥にはおそらく魔族がおるぞ」

「「な!!」」



 俺とティアちゃんが驚愕の声をあげるのも無理はないだろう。魔族というのは魔物よりもはるかに強力な存在であり……俺たちが魔王が殺したことによって魔界へと帰還したはずなのだ。



「何かの間違いではないでしょうか? 魔族はBからAランクに該当する魔物ですよ。そんなのがここにいたら探索にいった冒険者さんたちは……」

「そうだよ、エレナさん。それに、魔王はあなたたちが倒したはずだ」

「ああ、わしらは確かに魔王を殺した。そして、やつら魔族は魔王からの魔力の供給がなければこの世界では生きてはいけぬ……」



 信じられないとばかりに呻き声を上げるエレナ。だが、信じられないのは俺もだ。確かにこの手で魔王は倒したはずなのだ。



「じゃが、魔族の魔力をみまちがえるほど耄碌はしておらん。ぬしらよ、依頼内容の変更を申請する。この奥に魔族がいないか調べるのじゃ。むろん断ってくれても構わん。その時はわし一人で行く!!」

「エレナさんは賢者だろ!! 前衛もいないのに一人で行くって本気で言ってるのか!!」



 『大賢者』エレナの魔法の実力ならば俺が誰よりも知っている。確かに彼女ならば魔族の一人や二人簡単に魔法で葬ることはできるだろう。

 だけど、それはパーティーを組んだ場合にすぎない。魔族を倒すほどの魔法を放つには詠唱の時間を稼ぐためにだれかが彼女を守る必要があるのだ。



「わしにはかつて守れなかったものがおる……その時に決めたんじゃ。もしも、そいつがここにいたら、絶対助けに行くとな」

「その探し人がここにいるっていうのか? たった一人で魔族に戦いを挑むなんてバカでしょ」

「わからんよ。じゃがやつは近隣の人間の危険を無視するような人間ではない。だから、わしは行くのじゃよ。なーに、そやつへの罪滅ぼしという名の自己満足じゃ。おぬしらは無理に手伝わんでいいぞ」



 自虐的にほほ笑みながらも決意に満ちた目をしながらエレナが詠唱すると、かばんの中からでてきたペンと紙が紙が飛びさらさらと文字を書く。そして、鳥の形になって飛んで行った。

 おそらく冒険者ギルドに報告するのだろう。



 ああ、くそ……俺を追放したくせに……なんでこんなかっこいいことを言ってるんだよ……



 依頼をいきなり変えたのはエレナだ。だから、このまま俺たちが戻っても文句は言われないだろう。そもそも彼女が俺を探しているのは殺すためだってこともあり得るのだ。このまま魔族と討ち死にしてもらった方が助かる。

 だけど、俺の中のかつてのファントムだったころの記憶が彼女を一人にしていいのかとささやく。



「師匠……私はエレナさんについていきたいです。だって、英雄さんを見捨てるなんて可愛くないですもん。師匠もそう思うでしょう?」



 いつものように魅力的な笑みを浮かべているティアちゃんだが、その体は震えている。そりゃあそうだ。強力な力を持つ魔族とたたかうかもしれないんだ。こわいに決まっている。

 それなのについていくといったのは……きっと彼女に俺の迷いがばれたのだろう。迷っている俺にふんぎりをつけさせるために彼女はこんなことを言っているのだ。



「ティアちゃん、ありがとう」

「なんのことでしょうか? でも、できた弟子だってほめてくれ頭をなでてくれてもいいんですよ」

「はいはい、ティアちゃんは可愛くてできた弟子だよ」



 苦笑しながら頭を撫でると彼女は幸せそうにとろけた顔をする。そんな彼女に癒されながら、俺はエレナに伝える。



「大賢者様を一人で突っ込ませたら非難されちゃうよ。下手したら処刑ものだ。だから俺たちも付き合う。その代わり、礼金は弾んでくれよ」

「おお、本当か!! お前さんは本当に優しいのう。ついでにわしの頭を撫でても良いぞ」

「さすがに畏れ多すぎるって……」

「むう……」



 わざわざ帽子をとって頭を差し出すエレナに苦笑して断ると少し寂しそうな顔をされた。

 なにはともあれ、俺たちは森の奥へと向かうのだった。






 そして、しばらく進むと悲鳴のようなものが聞こえてくる。嫌な予感がした俺たちが駆けだすと、受付で会った冒険者たち……『ユグドラシルの枝』が一体の魔族と戦っているところだった。



 いや、戦っているという表現はまちがっているだろう。ただ、一方的にやられているだけだ。重騎士の青年は血まみれで倒れ、プリーストの少女は失禁した上に気絶している。

 額から血を流した魔法使いの少女が杖に体重を預けかろうじで立っており、ミスリルの鎧を身にまとっているギャメルは利き腕であろう右腕が折れているのかぶらりとさせながらも左腕で震えながら盾を構えている。



『おいおい、そっちから喧嘩を売ってきてその程度かーー? もっと俺を楽しませてくれよぉ』



 その魔族は蝙蝠のような翼を持つ人型の魔物はあざけるような笑みを浮かべていた。

 だが、そんなことはどうでもよかった。



「まじか」

「人の言葉をしゃべったじゃと……」



 魔族にもランクはある。そして一つの明確な基準があった。こちらの言語を理解のみできる魔族はBランク上位、そして、会話ができるのはAランク上位だ。  

 目の前の魔族は魔族でもただの魔族ではない。それは魔王城にいるほどの強力な魔族なのだ。かつての俺たちパーティーでも油断はできないくらいの……


 そんな相手に魔眼を使わずに勝てるだろうか? 険しい顔をしているエレナを見つめながら生唾をのむのだった。





★★★


 

 エレナの気持ちはグスタフに届くのか……お楽しみに


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