第2話 追放された悪役貴族と追放された女冒険者



「ティアちゃんだっけ? 元気だしなよ。冒険者なんてやってると追放何てよくあることだよ」

「うう……やっぱり私に冒険者なんてなんてむいてなかったんです……大人しく田舎で畑作業をしつつ貴族のボンボンに見初められて成り上がっていればよかったんです」

「自己肯定感高いな!!」



 思ったより元気な目の前の少女……ティアに思わずツッコミを入れる。彼女は四人パーティーで冒険者をやっていたらしいのだが、つい先ほど追放されしょぼくれていたので声をかけて話を聞いているのである。



「そりゃあ、ソリン村一の美少女と呼ばれていましたからね。冒険者になりたての時もたくさんの男の人に声をかけられましたし、酒場でもよくナンパされますもん」

「ああ、だから最初に声をかけたら虫けらを見るような目で『私はあなたが嫌いです』って言われたのか……」

「うう……だって変な仮面をかぶってますし、下手なナンパだとおもったんですよぉぉぉ。ごめんなさいぃぃ」

「うふふ、グスタフさんの怪しさはAランク冒険者並みだもの。実力はCランクですけど……」

「アイシャちゃんはそろそろAランク冒険者に謝った方がいいと思うよ」



 ちなみに冒険者ランクは見習いのEからAまである。Cランクはぞくにいう中堅だね。可もなく不可もないモブにふさわしいランクである。



「うふふ、王都から外れたここにはAランク冒険者何て滅多に来ないわよ。だから大丈夫!!」

「それって大丈夫なのかな……」



 ナンパと勘違いされて振られた俺をフォローしてくれたのがクスリとわらってウインクしているアイシャちゃんだ。

 彼女が困ったらこの人に相談するといいよと仲介してくれたから心を開いてくれたのだ。優しい……

 いや、まった。そもそも彼女に頼まれてティアちゃんに声をかけたんだから、感謝するのおかしくない?



「でも、その仮面だと警戒されちゃうのも無理はないと思うな―。付き合いも一年になるのにグスタフの素顔をみたことないもの」

「これは冒険でひどいケガを負ったから見せられないって言ったでしょ。本当の素顔は貴族令嬢や、エルフ、聖女だってきゅんと来るほどのイケメンなんだよ」

「はいはい、そうですねー。でも……その仮面のセンスはどうかと思うわよ。不気味ですもの。だから誰もパーティー組んでくれないのよ、ねえ、ティアちゃんもそう思うでしょ」

「え……その? とっても個性的で 邪教の人間とかがつけてそうで素敵だと思います?」

「それはほめてないよねぇ、てか格好いいと思うんだけどな」



 仮面に触れながらツッコミをいれる。王城を追放された俺は万が一にそなえて認識齟齬の魔法のかけられた仮面を身に着けて、名前もグスタフと変えているのだ。

 なんか悪役っぽくてかっこよくない?



「あ……」

「ん、どうした? ああ、そういうことか……」



 間の抜けた声をあげたティアの目線にはこれまで彼女とパーティーを組んでいた三人が新しい仲間を迎えているところだった。

 そりゃあ実力差があるんだ。こういうことはよくあるよ。でもさ、追放された側はたまったもんじゃないよな。

 かつての痛みを思い出して顔をしかめる。やっぱり自分が不要だと見せつけられるのはつらいよね……俺の場合は王都から逃亡した後に実家に事情を説明して少しかくまってもらえたから何とか腐らずに済んだが……



「つらいよね……だったらさ、見返してやりたいか?」

「え? でも、私は可愛いですけど、魔法も剣も中途半端なんです。スキルも魅了っていう使いにくい力ですし……」

「俺が聞いたのは見返してやりたいかどうかだよ。君の追放された理由じゃない」



 ちょっと癖の強い自虐を聞きながら彼女の目をみつめるとしばらく逡巡した後の頷いた。



「私は……力が欲しいです。立派に冒険者になるだけの力が……夢をかなえるだけの力が……」

「じゃあ、悪いけど冒険者免許に書かれたスキルを見せてもらえるかな?」

「え……?」



 ティアちゃんの表情がかたまるのは気のせいではないだろう。その人にとってスキルというのは能力をみせるだけではない。

 切り札であるスキルや、どのような戦い方をしてきたかだってわかってしまうのだから、人によっては裸をみられるよりも抵抗感があるともいえる。



「大丈夫。グスタフは信頼できるわよ」



 アイシャさんがウインクするとティアは震える手で俺の手を握る。



「わ、わかりました。私のはじめてをもらってください!!」

「言い方ぁ!! まわりに追放されて弱った女の子を持ち帰ろうとしているクズな仮面ヤロウにみられるでしょ!!」

「さすが、自己分析はAランク冒険者並みね!!」

「やかましいわ、ぼけぇ!!」



 あほな突っ込みをしている間に彼女の冒険者免許から情報が入ってくる。


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冒険者ランクD


ティア=マクレイン


スキル

ユニークスキル【魅了】


周囲に魅了を付与することができる。触れればその効果は増す。童貞にはより有効。ただし集中した状況でないと発動できない。


コモンスキル

初級剣術 LV 5 

初級魔術 LV  4 

投石術  LV3

ソリン村のマドンナ LV3


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 なるほど……ステータス的には特に目立ったところはない平均的な見習い冒険者といったところか……

 一件戦闘向けではないユニークスキルだからか魔法と剣をバランスよく育てているようだ。



「どうですか……?」

「ああ、ソリン村では本当にモテてたんだね」

「うう……信じてくれてなかったんですか!? こんなにかわいいのに!?」

「ごめんごめん、それよりもなんで魅了ってスキルなのに冒険者をめざしているのかな? それこそ、貴族のボンボンでもひっかけた方が人生楽できそうだけど」



 俺の言葉にティアちゃんは一瞬迷って……しっかりとこちらの目を見て言った。



「冒険者学校の先生にも言われたから覚悟はしてます。でも、私は昔に大切な人と約束したんです。だから不利なスキルでもあきらめる理由にはなりません」



 その不安そうだけど確かに強い意志を感じる瞳にかつての仲間との思い出が浮かび胸がずきりと痛む。

 俺はこの目を知っている。自分の弱点を知ってなお夢をあきらめない強い人間の目だ。



「わかった。じゃあ、魅了スキルを活かした戦い方を教えよう。そうすれば君だけの強さを手に入れることができると思うよ」

「本当ですか……? 昔、私のあこがれの人にも言われたんです。せっかくユニークスキルがあるんだからそれを活かせって……だから私がんばれてたんです。あなたも肯定してくれるんですね……」



 なんだかんだ自分の道に迷いがあったのだろう、ティアは本当に嬉しそうにほほ笑んで……その瞳にはかすかな涙が光っているのが見える。

 ああ、そういえば……アンリエッタもこんなふうに悩んでいて、いろいろ教えたら本当に嬉しそうに笑いながらこう言ってくれたっけ。



『ファントム……私が貴族になったらあなたみたいに魔眼を持っていても迫害されない世界をつくってみせるわ。これは私にスキルの正しい使い方を教えてくれたあなたとの約束よ』



 ティアの決意に満ちた瞳とアンリエッタのかつての瞳がかぶって思い出してしまった。その約束は守られず、彼女は風の噂では英雄として人々に称えられて自分の領地を立て直し、カインと恋仲がうわさされているらしい。

 まあ、今はもう過去の話だ。



「じゃあ、明日から特訓しようか。安心してよ、こう見えても結構指導とかの経験はあるからさ」

「はい!! がんばります!!」



 満面の笑みを浮かべるティアを見て俺は思うのだ。世界を救うなど大きなことはもうしない。だけど、せっかくあるゲーム知識で悩んでいる人を助けたり、モブ冒険者として、スローライフをしているくらいがちょうどよいのだ。



★★


「まだ、みつからないの?」

「アンリエッタ様……ファントム様が行方不明になってすでに一年がたっています。すでに命を落としたか国外にいったものかと……」

「……」


 思わず涙があふれ出しそうになり、部下の言葉に押し黙ってしまう、と部下が申し訳なさそうに命令書を差し出す。



「王都からの命令書です。ここ最近は強力な魔物が現れることも多いので、もしも発見したら調査をしてほしいと……英雄としての役目を果たせと……」

「全く、人使いがあらい……カインのやつったら婚姻の申し出を断ったからって嫌がらせかしら。あいつは本当に変わったわね」



 部下の言葉にアンリエッタは一瞬眉を顰める。その瞳には嫌悪すらある。



「その……ファントム様のことは忘れて、新しい婚約者を探せばこういうこともなくなるかと思いますが……」

「わがままだってわかってる……でも、引き続き探してくれるかしら」

「わかっています。ですが、王子であるカイン様のお誘いをいつまでも断るのは難しいと思いますよ」

「わかってるって言ってるでしょう!! お願い……今は一人にさせて……」



 部下の言葉にアンリエッタは少しヒステリックに答える。その姿は戦ではみせる勇猛な聖騎士としての姿はなく、英雄譚に歌われる魔王殺しの英雄でもなく、まるで大切な肉親を失ったか弱き少女のようだった。



「私もあの時すぐに探せば変わったのかな……」



 窓の外を見つめるが答えるものはだれもいなかった。

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