悪役転生して世界を救ったけど、ED後に裏切られて追放された俺、辺境でスローライフしようとしたのに、なぜかかつての仲間が病んだ目をしながら追いかけてきちゃった……
高野 ケイ
第1話 悪役貴族追放される
「ファントム……忌み嫌われし魔眼を持つお前は英雄にふさわしくない。金はくれてやるからどこなりと出ていくがいい」
「なっ……!?」
長年の宿敵であった魔王を殺した英雄たちが帰ってきたということで、騒がしい城下町を背後に、城の一室でこの国の大臣のヨーゼフが氷のように冷たい目で俺を見つめていた。
「魔族の力に近い魔眼を持つお前は英雄にふさわしくないのだ。化け物が化け物を殺したのではなく人間が化け物を殺したという英雄譚を民衆は求めているのだよ」
「本気で言っているのか!! 俺だってパーティーメンバーの一員として働いていたのはあなた方も知っているだろうが!! 皆をサポートし、導いて……実際に俺がこの魔眼の力で魔王を殺したんだぞ!!」
「違うだろう、魔王を殺したのは勇者カインと、聖騎士アンリエッタ、賢者エレナ、聖女セリスの四人だ。貴様はただのアドバイザーとして参加しただけに過ぎない」
皮肉気に笑う俺の言葉にヨーゼフは一切表情を動かさずに答える。この感じからしてこの国は元々俺を英雄として扱う気はなかったんだろうな……国外へ追放を命じられるのは原作通りか。
だけど……そうならないために俺はゲーム知識を使ってみんなにアドバイスをして最強へと導いて、救えなかった人々も助け、効率的に魔王を倒すことに成功したのだ。こんなことが許されていいのかよ?
それに一つ気になることがある。
「……このことはみんな知っているのか?」
「ああ、もちろんだ。これを聞くがいい」
こちらの問いかけを予想していたかのようににやりと笑うヨーゼフが自分の懐からほら貝のようなものを取り出すと何者かの声が聞こえてくる。
『ファントム……あいつは追放すべきだ。いや、むしろ殺した方がいいんじゃないか? 魔族と同じ力を持つものは人々の不安を煽るだろう。そもそも魔眼という穢らわしい力が魔王に有効だからとうるさかったから、一緒に仕方なくつれていってあげただけだしね。あんなやついなくても僕らだけでも魔王なんて倒せたさ』
それは俺の親友だと言ってくれたカインの声だった。誰にも明るく接する彼にしては珍しく侮蔑の感情すらこもっている。
『そうね……ファントムのことはもういなかったことにした方がいいと思うわ。だって、彼に表舞台は似合わないもの』
それは俺の幼馴染であり婚約者のアンリエッタの声だった。いつも気が強そうにしているが、それは貴族として舐められないための虚勢で本当は気が弱いのよと笑っていた彼女が珍しく断言している。
『そうじゃの……ファントムの力は人間が持つには特殊すぎるんじゃ……誰かが見張らねばならぬ……例えばじゃが、エルフであるワシが監視してやるとかかのう……』
それは旅の仲間で俺を弟のように可愛がってくれたエレナの声だった。エルフだということもありとっつきにくい彼女だが心を開くと面倒見がよく、俺に楽しそうに魔法を教えてくれたが、今は他人のように冷たい声で断言している。
『そうですね……ファントムさんは私たちのパーティーにふさわしくないかもしれないです。え、兄のように慕っていたですか? あはは、そんなわけないじゃないですか。私はあの人を兄だなんて一度も思ったことはありませんよ」
それはパーティーのみんなを癒していた心優しきセリスの声だった。聖女だからと教会に大切に育てられていた彼女の世間知らずっぷりには少し苦労させられたが誰にも優しい心に感心していたものだが、今の声は硬い。
ああ、くそ。まちがいなくみんなの声だ。
「これでわかったか? お前は嫌われていたんだよ。祝勝パレードも四人で出ているのがその証拠だ。アンリエッタには領地の取り潰しをやめること、エレナは宮廷魔術師として迎え配下のエルフも重用すること、セリスは国の認定聖女として認めると伝えたら皆お前の追放には賛成してくれたよ」
「ふっ……ははははは」
大臣の言葉に俺は思わず笑い声をあげてしまった。だって、あれだけ頑張ったというのに原作と似たような末路になったからだ。
主人公であるカインを筆頭としたみんなは国の重要ポジションにつき悪役貴族である俺は追放される。まさに原作通りだ。
だけど……俺はそんな運命をかえたくてがんばって……みんなのことをも信頼していたのだ。なのに……
「わかったよ、この街から出ていけばいいんだろう? 遠慮なくこれはいただいていくぜ」
大臣の手からひったくるようにして金貨の入った革袋をうばうと俺はそのまま窓から飛び降りる。
あの場で暴れるという選択肢もあったが、もうすべてがめんどくさかった。
「だって、運命は変わらないもんな」
はるか遠くで行われているパレードではカインたちが緊張した様子で民衆に手を振っている事だろう。ゲームのエンディングと同様に……
その光景を想像して胸が痛む。
「結局悪役貴族は何をしようが転生しようが悪役貴族ということか」
そう、誰にもいっていないが、俺は転生者であり、この世界はゲームでプレイしたことがある世界と全く同じだったのだ。
そんな俺の本来の役割はアンリエッタを権力の力で自分のものにしようとするも、主人公のカインに断罪されて、それを逆恨みしたあげく魔王の手先となるも、無様に倒され唯一の自慢である魔眼をほじくり取られて国外追放される悪役貴族に転生していたのだ。
このままではまずいと色々と頑張って強くなり主人公たちとをサポートしていたわけだが……結局運命の強制力の力というやつか結果はかわらなかったようだ。
「ははは、あいつらは民衆に暖かく出迎えられて、俺はお前らみたいのに追い出されるってか? 扱いの違いがありすぎて悲しいねぇ」
「ほう……我らに気づくか」
建物のすみから黒装束のいかにも怪しい人間が数人現れる。おそらく大臣が雇った暗殺者かなにかだろう。
俺を口封じするつもりだろう。
「あーあ、これでもさ俺はお前らのことも……この国のことも好きになってきたんだぜ」
確かにゲームと同じ世界だってけど、彼らと話した言葉は本物で、俺は本気で彼らに心を許していたのだ。
だから、悲しくてつらくてつい、涙があふれてしまう。
「こいつ泣いてるのか? はは、哀れだな」
「うるせえな、黙って感傷くらい浸らせてくれよ……」
「ふん、王国最高の暗殺者である我々に殺されるのだ。むしろ誇りに思うと……」
「俺は黙れといったぞ?」
こちらをあざ笑う暗殺者相手に魔眼を解放し、俺は……皆殺しにした。
★★
「グスタフさん……グスタフさんってば、おきてくれるかしら?」
「ううん……あ、ごめん、アイシャちゃん寝てた? クエスト終わって気が抜けていたみたいだ」
「それはもうぐっすりと……ここは俺ん家だぜとばかりに気持ちよさそうに寝ていびきもかいたわよ。図々しさならばAランク冒険者並みね」
目の前で苦笑しているのは胸元を強調した冒険者ギルドの制服をきた可愛らしい少女だった。
冒険者としての一仕事を終えてギルドに併設されている酒場で一人祝杯をあげていたのだが、つい酔いすぎたようだ。
だから、あんな夢をみたのだろうか?
「は、グスタフのやつ何がクエストだよ。薬草とりとか簡単な依頼しかしてないくせによ」
「胡散臭い仮面かぶってるし、誰かとパーティーを組んだこともないんだろ。本当にCランクかも怪しいぜ」
「あんたらちょっと……」
「アイシャちゃん本当の事だから気にしてないよ」
ギルドでも人気のアイシャと仲良くしていることをやっかんだ連中から罵倒が飛んでくるが本当にどうでもいい。
真実だしね……また目立ったり、誰かとパーティーを組んだりするのはもうこりごりだ。
ちなみに仮面は魔眼を隠すためでグスタフというのは偽名である。ファントムのままだったら怪しまれるからね。
「でも、グスタフさんは余った依頼をあえて……」
「あはは、あんな戯言よりも、頼みたいことがあるんでしょ? あれかな」
自分のことの様に怒ってくれるアイシャちゃんに感謝しながら見ると見慣れない四人組の冒険者が揉めているようだ。
この街の冒険者ギルドに居ついて一年。こうして頼られることもふえてきた。
「そんな…一緒に頑張ってきたじゃないですか!」
「だから、役に立たない上にパーティーの輪を乱すからお前は追放だって言ってるんだ!!」
追放という言葉に揉めていた内の冒険者の一人である少女が涙目になるのが目に入った。
ああくそ、追放と聞くとまだ胸が痛むなぁ
「あんたがアベルに色目を使っているのはわかってるんだからね」
「そんなことしてません。それって私が可愛すぎるから追放って事ですか?」
あれ、なんか話変わってきたぞ?
そんなことを考えながらもめ事の仲裁にはいるべく彼らに近づくのだった。
★★★
新作です。面白そうだなって思ったらフォローや応援くださると嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます