第3話
「酷すぎるね」
彼とのDMを終えた私は過度なストレスによって爆笑しながらフウカに話しかける。
何にも面白いことはないのに笑っている。我ながら不気味だ。
あれは本当に酷いやつだ。
「そうですね。浮気による痛みを知りながら浮気を行ってさやかお嬢様を傷つけるだけでなく、そのことをDMで伝える誠意のなさ。しかも浮気相手と電話しながらDMを打つという反省してないのが丸わかりの態度。どこをとっても悪い人です。救いようがありません」
「最悪な人間だね」
どうしてこんな人に依存してしまったんだろうな。
バカみたい。
あんなに心を乱されている私が嫌になる。
「とりあえず寝る。明日も学校だしね」
「そうしましょう。おやすみなさい」
部屋の電気を消してパンダのぬいぐるみを拾って寝る。
大暴れして疲れていたのだろう。
夢も見ずにぐっすりと眠ることができた。
「おはようございます、お嬢さま」
「おはよ。学校行かないとね」
「無理しなくてもいいんですよ」
いつもはさっさと準備をしろと私を急かす無機質な指が私の頭を撫でる。
冷たい手が心地よくこのまま二度寝したいと思ってしまう。
でも私はそれを振り切って立ち上がる。
「私は学校行くよ」
「どうしてですか? いつもは行きたくない、まだ寝ていたい、とうめいているのに」
「あいつのせいで休むのはなんか癪だもん」
「そうですか」
フウカは納得し切ってはいない様子。心配そうに私を見てくる。
寝てスッキリして、もう大丈夫なのに。
「私は強いんだから。この程度でへこたれたりしないよ」
歯を出してニッコリと笑って見せる。
私は強いんだから、これくらいじゃあ負けない。へこたれない。
「じゃあ準備手伝ってね」
「わかりました。くれぐれも無理しないでくださいね」
「大丈夫だって」
フウカに手伝ってもらいながら着替えて、髪をとかしてもらいながら朝食を食べ、顔を洗っている間に必要な強化書ノートを鞄に詰めてもらう。
おかげで30分で支度が終わる。
「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃいませ。お嬢様」
フウカと別れて学校へ行く。
駅まで歩いて、電車に乗って、今日の時間割を思い浮かべる。
一限は体育。悪くはない。
体を動かすことはそこまで嫌いじゃない。好きでもないけれど。
男女別で、女子は確か高跳びだった。
つまり体育館。日焼けしないし涼しいし最高じゃないか。これはヨシ。
二限は漢文か。体育の後の漢文は眠くなるぞ。マズイか。
でもあのおじいちゃん先生の授業は面白いからヨシ。
三限と四限は化学の実験。
理系科目は苦手だけど実験は楽しいから好き。ヨシ!
五、六限は家庭科か。
楽しいし先生が優しいし最高じゃないか。もちろんヨシ。
やはり今日は最高の日だ。
何も嫌なことなんてない。
私は幸せなんだ。
ちょうど最寄りの駅に着いたので電車を降りて鼻歌を歌いながら学校へと歩いていく。
ふんふふーん。きょーはいっいひっだなー。ふんふふーん。
変な調子をつけて歌っていると
ゴミはゴミ箱に捨てるべきだけど、歩いてるゴミは危ないから無視しよう。
私は鼻歌を歌いながらゴミの横を通り過ぎ、学校へ行った。
「おはよー」
教室につくとさっそく私の数少ない話せるクラスメイトで
「聞いて。育樹にフラれた」
「え? どうして?」
元カノちゃんは今日もカワボで聞いてくれる。今日も今日とて惑わされそうになる。
危なかった。
「浮気してたからだってさ。笑っちゃうよね」
「ほんと! それは酷いね」
いやあなたがそのセリフ言いますか。
別に彼氏がいながらあの
まあいいや。私には関係ない話だ。
「しかもね。相手はネットの人だっていうんだよ」
「なんと。またアイツはネットでやらかしたのか」
元カノちゃんからアイツなどという罵倒の言葉が出てきて私びっくり。
それ以上にまたやらかしたでびっくり。
「またってどういうこと?」
「アイツね。私と別れた後にネットで出会った女の人と付き合ってたらしいの」
「そうだったの」
知らなかった。
そんなホイホイネットの人と付き合うタイプの人間だったんだ。
私はもっと……硬派な人だと思ってた。
ほいほい人と付き合ったりしない人だと思ってた。
「しかもね、その人とカラオケに行って色々してたらしいよ」
元カノちゃんに耳打ちされた。
普段されたらドキッとする仕草も内容が内容なせいで驚きが勝ってしまう。
「色々って」
「色々は色々だよ。それで出禁になったとかなってないとか」
やばすぎる。
そんなチャラチャラした男だったのか。まだ高1なのに。
いや、別れた後だから中3のころの話か。もっとマズイぞ。
「全部、ほんとの話?」
「もちろん。色々の内容も想像どおりだと思うよ」
私が見ていた彼は作り物で、本当の彼はチャラついて他人の垢がたくさんついた穢らわしい男だったのか。
「……気持ち悪い」
さっきまでのアハハなテンションは消えてしまった。
皮膚の上の不快感だけが残って存在を強く主張している。
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