02-09「冒険者の少女s」
物陰に身を潜めて、広場の様子を窺う。
着地点に馬車が停まっていて助かった。荷台が衝撃をかなり吸収してくれたおかげで、こうしてエルンたちは大きな怪我もなく動けている。もちろん、魔力による身体強化をした上での降下だ。三階程度の高さならまず死んだりしないが、万全の態勢でなかったことも確かである。三人のうち誰かが
「――マリー、あと何発撃てる?」
顔を引っ込めて、エルンはふたりの傍に戻った。
ギガント・パイトはこちらの位置を見失ったのか、あるいは片腕の傷が気になるのか、今のところ追撃の構えを見せていない。その代わり、外にいたコパイトたちを集め自分の周囲を固めさせていた。護衛はわずかに三匹だが、親玉を狙うためにはそいつらが壁になる。一手こちらの攻撃を遅れさせるための配置だ。手負いでも、それだけの間に対応できるということなのだろう。間合いを取っての狙撃が決定打にならない以上、確かに効果的だ。
魔導杖を両手で抱えるようにしていたオルディマリーが、息を整えてから口を開いた。
「私はそこまで魔力を使ってなかったから、たぶん――五回か六回は大丈夫。ただ、中級は撃てて一度きりだと思う」
「中級魔術を?」
「氷系のね。
口もとを緩ませたオルディマリーに、エルンも笑みを返した。
「フィオ、まだ動けるね?」
「もちろんっ。最後まで、エルンに付いてくよ♡」
「その意気だ。……向こうも相当苦しんでる。攻めるよ。一気に近付いて、今度こそやつを仕留める」
「ええ。私たちはどうすればいい?」
「途中のコパイトたちを、何とかふたりで足止めしてくれ。まともにやり合わなくていい。一瞬でも道を作ってくれたら、あたしが親玉をやってみせる」
かすかに息を呑んでから、ふたりが頷いた。
こんなところで死ぬわけにはいかない。やるしかないのだ。フィオーネも、オルディマリーも、初めて会ったばかりの自分を信じて付いてきてくれた。だから、死なせない。誰ひとり欠けることなく、みんなでメヌエーに――。
エルンは短弓を握りしめた。
「でも、どうやって近付くの? あの投石は――」
「あァ、目隠しがいるね」
フィオーネに見せてから、残っていた煙玉を思い切り投げる。
放物線を描いて落下した直後、立て続けに撒き散らされた魔物除けの煙が正面に広がっていった。
「――行くよ」
振り返ることなく告げて、エルンは駆け出した。
背後にふたりの追ってくる気配を感じながら、広場中央に向かって斬り込む。こっちが動くのを待っていたのか、すぐに侵入を察知したコパイトたちが盛んに吠え出した。
「フィオ、マリー! 回り込むよ!」
「りょーかいっ♡」
「分かった!」
いくらか走ったところで左に折れる。
間を置かずして後ろから地面を打つ音が聞こえてきた。視界を遮られながらも、ギガント・パイトが牽制で投げ込んだのだろう。この煙幕の中で駆け回るエルンたちを直接に狙うのは不可能だが、手当たり次第に投げたものが
「――? うわっ⁉」
煙の壁を突き破って、一匹のコパイトが目の前に現れた。
新手――ではない。動揺したギガント・パイトは、とにかく居場所を探ろうと護衛たちを煙幕に突入させたのだ。投石に巻き込まれるかもしれないと分かっていてそれでも。魔物らしい戦い方だ。
遭遇は敵にとっても驚きだったようで、襲い掛かるよりも叫んで発見の報告を上げようとしていた。とっさに曲刀を抜いて斬りかかる。発射光で位置が露呈してしまうことを考えれば、弓は使えない。だが、エルンが間合い詰めるためのほんの一瞬で、すでに相手は絶叫の準備を終えている。
刃先が喉元を捉える寸前に、いきなりコパイトが視界から消えた。さすがに驚いて刀を止めたエルンの前に、見覚えのある長い耳が突き出された。
「……べ、ベネリ⁉ 生きてたのか⁉」
たった今魔物を体当たりで突き飛ばした
地面に転がったコパイトは、後ろから追いかけてきていたフィオーネが止めを刺していた。振り返って確認していたエルンの背に、ベネリが頭を寄せてくる。この道中で繰り返していた
「――なるほどね。騎射だ」
ばっ、と身を翻したエルンが背に乗る。
「あたしが引き付ける。ふたりは援護を」
言い終わらないうちに、ベネリは駆け出していた。
小柄だが、頑強で意外と足が速い。煙幕を突き破って外に出たエルンに、ギガント・パイトが大声で叫んだ。呼応して、残りのコパイト二匹も出てくる。すでに
その背中に、まったく反対方向から魔術が撃ち込まれた。連続して叩き込まれる氷弾を耐えきれず、悲鳴を上げて姿勢を崩したコパイトが倒れ込む。
護衛の全滅したと分かったギガント・パイトが、取り乱したように大声で
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