02-05「冒険者の少女s」
「わああっ⁉ な、なになに⁉ ……あ、猫ちゃん♡」
「フィオ――は大丈夫っぽいか。マリー、生きてるね?」
「う、うん。あなたが庇ってくれたから。ありがとう」
押し倒す形になっていたオルディマリーの上から身を起こす。
ぱらぱらと木片を払い落としながら振り返れば、窓のあった部分は完全に崩れ落ちていた。隣接する壁の一部までなくなっている。
随分と派手にやってくれた。自分のベッドを弾き飛ばすように転がっている岩塊は、両手を広げたのと同じくらいの大きさだ。なんて馬鹿力。魔術で迎撃する余裕がなかったから、とっさに魔力をそのまま放射して勢いを殺した。それでもこの惨状だ。まともに直撃してたらと思うとぞっとする。
「フィオ、マリー。襲撃だ。武器を」
外を見遣って言ったエルンに、ふたりもはっとして動き出した。
投石の効果を観測している最中なのか、今のところ第二射が飛んでくる気配はない。荷物が無事なのを確かめてから、曲刀を後ろ腰に吊り、短弓を左腰に下げた弓袋に収める。防具を身に着けるほどの時間はなかった。兜の代わりに、カラミッカが頭に飛び乗って終わり。
「人間じゃない、よね……?」
岩塊に視線を送って、オルディマリーが訊いた。
「あァ、魔物だね。ギガント・パイトだ。取り巻きのコパイトも、かなり集まってるみたい」
さっき、投石の寸前に目が合って確認した。
人間大の猿っぽい魔物であるパイト種。その中でも異様に筋力と体格の発達した個体をギガント・パイトと呼ぶ。凶暴で、パイト種共通の習性としての人肉食を好む厄介な魔物だ。並みの戦士なら、まずひとりでは戦わない相手である。比べて、標準サイズのコパイトは脅威として数段落ちるが、それでも一般人を殺すに数秒で十分な程度には力がある。夜間の森というのも、連中の独壇場だ。
「準備できたよ」
「私も。――どう動きます?」
「こっちが不利だ。頭数も足りてない。戦えない人間を中央の礼拝堂に集めて、守りを固めるしかないね」
頷いたふたりと共に、男連中がいる棟を目指して駆け出す。
彼女たちは冒険者だ。装備から察するに、フィオーネは軽装の剣士、オルディマリーは魔術師。寝る前の会話でもそう言っていた。
それぞれ、依頼を受けて護衛している商人がいる。男の冒険者たちも事態には気が付いているだろうが、どの程度戦力になるかは分からない。エルンとしても、いち早くブルムの身柄を確保しなければ。
物音で起き出してきた施設の管理人たちに外に出ないよう告げて、反対側の棟に入った。
「マズい。森からも入ってきてる」
「わたしたち囲まれちゃってる⁉」
「とっくにね!」
状況は予想以上に悪い。
廊下を駆けるエルンたちの耳にも、コパイトの甲高い吠え声が届いている。
突然、明かり採りの天窓を突き破って一匹が侵入してきた。飛び散る硝子片の中、泥まみれのコパイトが頭上から飛び掛かってくる。曲刀を抜き払って、突き出された鋭い爪ごと腕を斬り飛ばした。両腕を失ったぐらいで魔物は怯まない。勢いのまま体当たりしてきたコパイトに押され、エルンも背中を壁に打ち付けられた。
「エルンっ!」
「大丈夫、何とかする!」
傷口から血を振りまきながら、間近でコパイトが絶叫を上げる。
こちらを咬み殺そうと顎を近付けてくるのを刀で受け止め、胴を蹴って引き離した。
狙いが逸れる。心配して近寄ってきたフィオーネだ。いきなり振り向いたコパイトに驚いて、小型の円盾を構えた。
「そのまま!」
飛び掛かろうとする前に、後ろから曲刀を振り下ろして頭部を叩き割った。
「あ、ありがとう。エルン」
「――エルン!」
返り血を盾に受けて固まったフィオーネと同時、警戒していたオルディマリーが声を上げた。
彼女が指さしたのは、廊下の奥。木製のドアを突き破って、複数のコパイトが入ってくるところだった。
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