部長の身勝手な呪い

春雷

第1話

 朝起きると左手がフレミングの法則の形で固まっていて、頭の中では「ちくわ」という単語が連呼されていた。

 僕はすぐに呪いだと直感した。それは、僕が高校の「呪いクラブ」に加入していて、というか加入させられていて、呪いのやり方や性質をある程度理解していたからだ。

 ちくわ、ちくわ、ちくわ、ちくわ・・・。

 それにしても、頭の中で四六時中誰かがちくわと連呼しているのは妙な気分だ。しかも囁き声だし。何でウィスパーボイスでちくわを聞かなきゃいけないんだよ。

 左手がずっとフレミングの法則を示してるのも、意味わかんないし。

 こんな妙な呪いをかけるのは、部長しかいない。

 僕は部長に電話をかけた。

 3コールで出る。「もしもし、部長?」

「・・・呪いを解いて欲しければ、俺に出資しろ」

「またお金を貸してくれって話ですか。勘弁してくださいよ。何が悲しくてバイト代を部長に流さなきゃならんのですか」

「いやー、また財布を落としてしまったんだよ、がははは」

「笑い事じゃねえですよ。財布を無くす呪いにでもかかってんじゃないですか?」

「あー、実はそうなんだよ。昔、実験で自分にかけてみてな、解けなくなったんだ。解き方がいまだに不明でな」

「じゃあもう一生財布落とし続けるんですか? もう財布持たない方がいいですよ」

「でも、財布にある程度の金を入れておかなければ、耳が三つに増える呪いがかかってるんだよ」

「どんな呪いですかそれ、知りませんよ、部長の耳が三つだろうが四つだろうが」

「まあお前はそう言うかもしれんが、俺にとっては死活問題でな。耳が三つに増えると、髪の毛が八十メートルに伸びる呪いがかかっていて、髪が八十メートル伸びると、肩にトゲが生える呪いが発動し、肩にトゲが生えると、耳が二つ千切れて蝶々になって空を飛び、何だかんだで街を破壊して、俺も死ぬ呪いが発動してしまうんだよ」

「ずっと何言ってるんすか? 何でそんなに呪いがかかってるの?」

「幼少期に、自分で色々試したんだよ。ホラ、好奇心とは、ある種の呪いだからさ」

「うるせえよ」と言い放ち、僕ははあ、とため息をつく。「・・・わかりましたよ、お金を貸さなきゃ街も滅ぶし、部長も死ぬんすね? わかりました、貸しますよ」

「おお! やったあ!」

「でも次はないっすからね。呪いを解いておいてくださいよ」

「あー、でもそれは専門業者に頼まないといかんからなあ。あ、そうだ、あと二万くらい貸してもらえれば」

 そこで僕は電話を切った。

 ちくわ、ちくわ、ちくわ、ちくわ、ちくわ、ちくわ・・・。

 はあ、とさらに深いため息をつく。そこでようやく気づく。あ、この声、部長のお母さんの声だ。

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部長の身勝手な呪い 春雷 @syunrai3333

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