誘惑幻惑効果
簡単に説明しますね。「自分のことを賢く見せたがる人ほど、難しい言葉を使いたがる。」という意味です。
新しく覚えた言葉や、難しい知識を使いたい。と私たちに思わせてくる知識の魔力のことを、知識の誘惑幻惑効果と呼びます。正しく知識を理解するよりも、覚えたての知識を使ってみたいという欲求が優先されるという効果のことです。不十分な理解のまま知識を使いたがるので、誤った理解に基づく理論などに騙されやすくなってしまうんですよね。何も知らない一般人よりも、中途半端に知識のある人の方が陰謀論やトンデモ論に引っかかりやすいということです。
知識を獲得しただけでは、賢くなったことにはなりません。きちんとその言葉の内実を説明できるようにならなければ、十分に理解できたとは言えないのですから。未知の知識という「分からないもの」に出会ってから、きちんと理解できるまでは自分の無知をしっかり自覚し続けて、まだ理解を深める必要があるのだぞという自分への圧力をかけ続けていかなければ、この知識の魔力に打ち克つことは出来ません。
冒頭の一行に戻りましょうか。
「自分のことを賢く見せたがる人ほど、難しい言葉を使いたがる。」
本当に頭がいい人は、人から頭がいいと言われることに慣れているので、賢く見られたいという欲求が既に満たされています。そして、自分が賢くなることにも慣れているので、知識が獲得できたからといって、それをひけらかすことに特別な意味を感じません。また本当に頭がいい人は、なかなか解けない謎に対して頭を使い続けなければならないシチュエーションに慣れています。だから結論を急がないことができるのです。
そして自分のことを賢く見せたがるのは、実際にはそこまで賢くないからです。賢い人の文章には、難しい言葉を使わなくても、賢さが滲み出ています。理解に易しい表現を使っていたとしても、書いてある内容自体が難しくなってしまうからです。そしてそれが皆様に理解されてしまうので、だから面白いのです。
分かりやすくて、面白くて、内容が適切。そんな文章を書ける人が、本当に頭がいい人だと思って、常日頃私は文章を書いていますし、そういう基準で読んでいます。なので、直接誰かに向けて言葉にすることはありませんが、色々と思うところがありながら作品を読ませていただいていることもしばしばです。
「僕らには情報が足りていない。だから、もっと情報を集めなければならない。その間、僕らは結論を急いではいけない。僕らは目の前にある謎を、早急に、解き明かそうと思ってはいけない。その理由はさっきから説明している通り。
分からないことは潔く分からないのだと認めてからでなければ、どんな推理もエセ演繹になってしまう。探偵に求められるべき1番の資質は、謎を謎のままとして対峙し、見つめ続けていられる忍耐強さだ。」
これは私の小説、『環は刃を当てれば切れるんだ。』の「演繹的推理入門」から引用してきた、探偵さんが探偵としての素質について語っているセリフです。これは物語を前に進めるための重要なセリフと言うだけではなく、読者の皆さんの日常生活の中でも、デマ情報やトンデモ論に引っかからないために、そして知識の誘惑幻惑効果に打ち克つために必要な心構えを示しているのです。
では、今回はここまで。
ご読了、ありがとうございました。
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