第14話 良妻の努力
品希と別れたあと遅れて入室した
漆塗りの柱に、精巧なデザインの格子窓。
真っ白な壁には鳥や草花の絵が大胆に描かれている。
飴色に色づく家具はどれも歴史あるアンティーク。
(宇翔様が若い頃、世界を旅しながら買い集めたものなのよね)
養父の
(由緒正しい公主なら、気後れしないんだろうな)
改めて自覚する。
自分が高貴な生まれでないことを。
ここを淑恵の私室だと思っている志偉は、まるで初めて女の子の部屋に入ったうぶな少年のように、熱心に周囲を見回していた。
(たぶん、本当に初めてなんだろうな)
微笑ましい気持ちになる反面、じわじわと羞恥心が強まってくる。
淑恵は居たたまれなさをごまかすように、椅子を運んだ。
「志偉様、こちらへどうぞ」
「ありがとう」
遠慮のない視線に
「志偉様、動かないでくださいませ」
「う……はい」
(怯えているじゃない)
すがりつくような目と視線が絡んで、淑恵は困ったように笑った。
「子晴」
「お嬢様、お静かに」
「でもね、志偉様が……」
「志偉様の髪を切りますので、集中させてください」
助け船を出そうとしたが、あっさりと退けられる。
こうなった子晴を止められないことを誰よりもよく知る淑恵は、仕方ないと諦めようとした。
しかし、弱り切った表情で見つめられては、なかったことにできない。
淑恵はもう一度だけ声を掛けることにした。
「子晴、聞いてちょうだい」
「お嬢様」
「はい」
子晴の気迫はすさまじかった。
背中からゴゴゴゴゴと地鳴りのような効果音が聞こえてきそうだ。
地の底から響いてくるような声で呼ばれ、思わず背筋が伸びる。
「
「志偉様に見ていただいたほうがいいのでは?」
「夫に似合う服を選ぶのは妻のつとめ。今から練習しておいて損はないでしょう」
「……分かったわ」
子晴はどうあっても志偉の髪を切るようだ。
こんな時は、素直に任せるに限る。
そもそも、志偉は元がいい。
ただの小娘を公主と呼ばれるような存在に磨き上げた子晴の腕ならば、志偉を素晴らしい男性に仕上げることなど容易なはず。
(ごめんなさい、志偉様! すぐに終わると思いますから)
後ろ髪を引かれる思いで、淑恵は宇翔の部屋へ走った。
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