第3話

 あれから4年経ち、俺は7歳になった。

 寿命が1000年などと言われたから成長も遅いのかと思ったが、地球の人類と同じような成長の仕方をしている。 

 

 地球についての聴取が終わってすぐに、宇宙開拓局が主導して探索が始まった。

 7000万光年以上も離れた、帝国が辺境銀河群と呼ぶ70個程の銀河が集まる所に無人の探査艦を飛ばしたようだ。

 連続ワープを行うことで1年程度で7000万光年を移動できるという無人艦は、最新鋭のステルス艦だそうで、もし辺境銀河群に帝国クラスの文明があっても見つかることなく探索が可能。帝国よりも高度な文明だった時は、そもそも勝てるわけが無いのだから諦めるというなんともドライな話だ。

 数年を帝国で過ごして教育も受けたが、地球とは比べ物にならないほどに技術が発達しており、人々の精神も成熟していた。政治は安定しており、犯罪もほぼ無い。人々は労働から解放されており、少数のエリートがAIに任せることが出来ない仕事をしている。

 そんな成熟した文明である帝国よりもさらに上の文明ならば、敵国は殲滅などという野蛮な考えにならないというのが現在の主流な考え方らしい。

 実際に帝国も、接触した他文明を滅ぼすことなく支配下に置いており、ここ1000年程は武力衝突は起きていないというのだから驚きだ。まぁ、明らかに格上である帝国に逆らおうとするわけもなく、帝国が惜しみなく技術供与を始め様々な支援を手厚く行うのだから反抗する意味もないだろう。

 喧嘩は同レベルの者同士でしか起こらないと言うが、戦争もその例に漏れずということか。

 とはいえ、帝国ほどの文明が他にあることも、このクラスの文明が互いに戦争することも想像はできないが…。

 

 最近聞いた話では、今は辺境銀河群の中でも特に大きい3つの銀河を中心に探索しているそうだ。俺が伝えた天の川銀河が推定10万光年の棒渦巻銀河だという情報と、地球の推定される科学技術からの誤差も考えて6万光年程の銀河と、10万光年程の銀河、そして辺境銀河群では最も大きい20万光年以上の銀河に絞ったらしい。

 話だけを聞くとさんかく座と天の川銀河とアンドロメダ銀河と似ているからもしかしたらすぐに地球が見つかるかもしれない。

 地球が見つかれば俺の未来はひとまず安心できそうだ。

 

 …未来については安心できそうだが、今の俺は安心できない。

 何故ならばこれから皇帝陛下に謁見するからだ。

 転生してから7年が経ち、ある程度貴族としての自覚も出てきたが、さすがに皇帝陛下への謁見は前世一般日本人だったはずの俺には難易度が高い。

 この宇宙帝国は皇帝を擁してはいるが立憲君主制であり、複数の文明が皇帝を君主としている同君連合のような形になっている。したがって皇帝や貴族はそれほどの権力を持たないが、一万数千年の長い歴史を持つ帝室は絶大な権威を持つ。

 粗相があっても死ぬことは無いだろうが、死んだ方がマシだと思えるような周囲からの視線に耐えられる自信はない。

 かといって皇族の血を引く公爵家の長男である俺が断れるわけもない。

 きっと皇帝陛下と直接お話することもほとんどないだろうし、謁見では父の後ろで大人しくしていよう。

 

 

 

 と、思っていたが、俺は今、混乱の最中にいる。

 

 (なんかめちゃくちゃ話しかけてくる…!?)

 

 皇帝陛下は始めに父と言葉をかわすとすぐに俺へ直答を許すと言い、前世のことを根掘り葉掘り聞かれた。

 聞かれたことに答えないわけにもいかないので、次から次へと来る質問になるべく丁寧に答えながら、早く終われと心の中で祈り続けた。

 その祈りが通じたのかは分からないが、一通り地球のことを話終えると皇帝陛下は少し考える素振りを見せ、すぐに感謝を伝えられた。

 

 「…ふむ、長々と聞いてすまぬな。余も報告は受けていたが、やはり本人から直接聞いてみたくてな。良い話が聞けた、感謝しよう。すぐに呼んでも良かったが、数年はこちらに慣れる時間があった方が良いと思ってな」

 「陛下の御心遣い、幸甚こうじんの至りでございます」

 「よい、それで、今日呼んだのにはもうひとつ理由がある…ユリアリア、ここへおいで」

 

 皇帝陛下がユリアリアと言う名を呼ぶと、白銀の髪に長い耳、透き通るような翠眼を持った少女が皇帝陛下の元へ来た。

 

 「紹介しよう、末娘のユリアリアだ。もうすぐ5歳になるが、お披露目の前に会わせておきたくてな」

 

 そう言って少女にも挨拶をするように促すと、幼女は天使のような美しい声で挨拶をした。

 

 「ユリアリアと申します。…以後お見知り置き下さい」

 

 皇帝陛下の末娘ということはつまり第3皇女殿下だ。なぜ今何故ここにといった疑問が出てくるが、何よりも可愛い。神話に出てくる妖精か天使でもこれほどでは無いと思える程に。

 俺が見惚れて黙っていると、父はすぐに挨拶をしていた。

 

 「お初にお目にかかります。第3皇女殿下、シュヴェート公爵 セトス・フォルフットでございます。殿下のご尊顔を拝しましたこと、恐悦至極に存じます」

 「セトスの子、アルス・フォルフットでございます。どうぞお見知り置き下さい」

 

 父に続いてすぐに俺も挨拶を行う。一通り挨拶が終わったと見るや、皇帝陛下はいきなり爆弾を投げつけてきた。

 

 「セトスよ、余はユリアリアの相手にアルスを考えておる」

 

 

 

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