第2話

「…ふむ。話を聞く限り、地球の文明レベルは1と言ったところか…」

 「いえ閣下、宇宙開拓局の文明レベルは、惑星に統一された統治機構があることを前提としています。これは過去に接触した全ての文明が単一国家であったためです。ご子息のお話では、地球の国家は200近くもあり、国際連合なる機能しているのかも怪しい国際組織があるだけです」

 「そうか…科学技術の水準はレベル2に届くかどうかといったところだが…」

 

 地球のことについて覚えている限りのことを話した。移動手段や発電方法、兵器、政治体制、経済、宗教、人口など、ありとあらゆることを聞かれ、都度それに対して答えていた。

 地球の周辺星域のことについても聞かれたが、前世は宇宙学者でもなかった俺が大したことを言える訳もなく、天の川銀河が〜とか、太陽系が〜とか、一般常識程度のことを伝えただけだ。

 俺に質問していた役人さんが言うには、これだけの情報でも調べられるらしい。少なくとも、帝国の支配圏に該当する恒星系は無いから別の銀河だという。

 

 「…恐らく、この複数の政治体制と多数の国家、恵まれた惑星環境から戦争が多発したため、科学技術のみが発達し、国家の統合が進まなかったものと考えられます」

 「恵まれた惑星ほしであるが故に、戦争するための資源に困らなかったわけか。資源に困っていないのだから、宇宙へと目を向ける意味も薄いな。…なんとも羨ましい限りだ」

 「はい…ですが、この地球環境はあまりにも恵まれすぎています。生物が、知的生命体が文明を発展させるために必要な環境が整いすぎています。奇跡と言って良いほどに」

 

 俺への聞き取りが終わった後、役人さんとと父は地球のことについてずっと話し合っている。

 地球のことを恵まれた惑星だと言っているが、当たり前のように地球で生きていた俺からするといまひとつ実感がわかない。

 まぁ、テレビとかネットとか色々なメディアで地球が奇跡の惑星だというのは見聞きしたことはあるが、いまこの窓から見える景色と比べても、特別に恵まれているとは思えない。

 

 「父上、私から見ればこの惑星も地球も、大差ないように見えます」

 

 未だに役人と議論を続ける父にそう問いかけてみれば、父は一瞬なぜというような顔をしたが、すぐにあぁそうかと説明してくれた。

 

 「アルス、この惑星…というか、帝国に存在する居住可能な全ての惑星は、例外なく”調整”されている。生きるのに適した環境の惑星はそれなりにあるが、地球ほど”最適”な惑星は帝国の歴史上でも存在していないんだ」

 

 この場合の調整とはつまり、テラフォーミングのようなものだろう。人工的に手を入れる必要が無い地球は恵まれているということか。

 

 「まぁ、とりあえず今日はこれくらいにしておこう。かなり時間もたっているしな。アルスも疲れているだろう」

 「そうですね、ひとまず聞きたいことは聞けましたので、あとは我々の仕事です。開拓局が主導して探すことになると思いますが、遠すぎると探索打ち切りということもありえます」

 

 どうやら今日はこれでお開きらしい。…正直疲れた。既に日は傾いていて、お腹も空いた。途中で昼食をとったが、さすがに丸1日は長すぎだ。我3歳ぞ。転生してなかったら途中で嫌々モードに入っちゃうよ間違いない。

 そんなことよりも、この役人さんは探索打ち切りがありえると言っていた。

 もし見つからなかったら、俺が嘘をついていたということで記憶の強制読み取りからの記憶消去、という流れもあるのでは無いだろうか?

 

 「あの、もし地球が見つからなかったら、私はどうなるのでしょうか?」

 

 不安が顔に出ていただろうか?俺の質問に対して役人さんは笑みを浮かべながら安心してくださいと言ってくれた。

 

 「アルス様のお話では、地球人の寿命は100年程度でしたね。帝国の平均寿命は300年程度であり、皇族の方々を始め、長命種の方は1000年近い時を生きられます。アルス様は皇族の血を色濃く残す公爵家の生まれですから、同じくらいの時間があるとお考え下さい」

 

 寿命の話のどこに安心できる要素があるのかは分からないが、俺は1000年も生きるということがわかった。

 …。1000年は長すぎないだろうか?そんなに長く生きて疲れないだろうか?子供の時の記憶とか忘れそうだ。

 

 「現時点で帝国のデータベースに該当する惑星はありませんから、未だ探索が進んでいない辺境銀河群を中心に探すことになるでしょう。ここから辺境銀河群の最も近い銀河までおよそ7000万光年、遠い銀河に関しては1億光年程あります。探索には長い時間がかかりますが、我々にはそれができるだけの時間があるのです」

 

 ですからご安心ください、ということらしい。

 少なくとも俺は、すぐにどうこうされるわけでは無いようだ。

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