信頼性のあるダイイングメッセージ
「では、被害者がダイイングメッセージにメイベリの名前を書いた理由を具体的に考えてみよう。
もう犯人はチェルメロと決まっているが、被害者がダイイングメッセージにメイベリと書いた時、容疑者である三人それぞれが犯人であると仮定し、そのダイイングメッセージを消すかどうか考える。
すると、さっき説明した通り、ロイドはダイイングメッセージを消すし、メイベリが犯人であっても、もちろん消す。どちらにもリスクとなり得ると判断するからだ。
しかし、チェルメロだけがダイイングメッセージを消さない。
そして、この事実を被害者は知っていた。そうなると、被害者は犯人がチェルメロだと知っていてわざとメイベリが犯人であると書いたんだ。ダイイングメッセージを消されないためにね。
大体、被害者が残すダイイングメッセージって言うのはリスクが高いものなのだよ。なぜなら、被害者の死後に、犯人によって消されてはいけないのだからね。
よくミステリーでは、暗号化されたダイイングメッセージを残す場合が多いが、それはリスクが高い。だって、例え、自分を殺した犯人が現場から逃げ去っていくのを見たとしても、その後犯人が戻ってくるかもしれないと考えれば、ダイイングメッセージを残そうとは思わないからね。
そのダイイングメッセージが暗号で書かれていれば、犯人は何を言っているのか分からないが、とりあえず、自分を示すメッセージだと考えて、そのダイイングメッセージを消すだろう。だから、基本的にダイイングメッセージは被害者にとって、死後の口出しができない以上、無意味だ。
だが、そのダイイングメッセージが犯人にとって利益となると言う条件下では、犯人は被害者のダイイングメッセージを消したりしない。
今回の様に、犯人のチェルメロにとっては利益となり得るダイイングメッセージは消されない。なぜなら、他人に罪を擦り付けるという犯人にとって、最大の利益をみすみす手放すはずがない。
被害者はそのことを見越して、犯人をメイベリにした。完璧なアリバイのある彼女を犯人がではないと判断されれば、彼女のアリバイを知っていたロイドも犯人から除外される。
そして、メイベリと被害者の関係を知っている身内の犯行であるという条件が加われば、おのずとメイベリのアリバイを知らなかったチェルメロが犯人となる。
被害者はここまで計算づくだった。もしかしたら、死ぬ直前であるほど、人は賢くなるのかもしれない。走馬灯を見るように、今私が説明した思考回路が駆け巡り、このようなダイイングメッセージを残したのかもしれないな。
つまり、これが被害者の残したダイイングメッセージの真の意味だったと言う訳だよ。」
ノイマンはそう言って、推理を締めくくった。
「なるほど、この事件のダイイングメッセージは、信頼性のないダイイングメッセージではなく、
信頼性のあるダイイングメッセージだったと言う訳か。」
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「ええ、これが前回の課題の満点のレポートです。
満点回答者は2名でした。」
天神教授がそのように締めくくった後、私は優美の方へとガッツポーズを送った。すると、優美も笑顔でガッツポーズを送り返す。
「この解答にある通り、ダイイングメッセージは、被害者の『お前を犯人だと密告してやった! さあ、もうダイイングメッセージを消して、罪を免れようなんて考えないで、私を殺した罪を認めて、お縄に付きなさい!』という脅しであります。
しかし、それは犯人にとっては信頼性のない脅しであり、ダイイングメッセージを消してしまえば、逮捕されることはないので、被害者の脅しには効力がありません。つまり、信頼性のない脅しとなるのです。
ですが、条件を少し変えると、信用性のある脅しとなる。
例えば、今回の様に、犯人に被害者の利益が知らされていない場合です。チェルメロは今回、メイベリが会議で家にいないこととそのことを被害者とロイドが知っていることを知らされていませんでした。
このような状況下では、犯人はダイイングメッセージを消さないままで、残しておき、被害者の脅しは実現される。
つまり、信頼性のある脅しとなりうるわけです。
では、こういった情報がゲームのプレイヤーに知らされていない場合のゲーム理論について、今回は考えていきましょう。」
そのような自然な導入で、教授は講義を始めた。教授はパソコンのスライドを動かす前に、私の方を見た。そして、教授は『やるじゃないか』と言わんばかりに、ほほ笑んだ。
前回は、自分の小説の不備を指摘され、真犯人を導き出されるというミステリー作家としては最大の醜態を晒してしまったが、今回で少しは認められたようだ。
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