信頼性のないダイイングメッセージ
「では、今回の事件の真相を解説していこう。オスカー、準備はいいかな?」
「ああ、もちろんだ。」
「今回の事件のポイントは、やはり、ダイイングメッセージだ。」
「【犯人はメイベリ】と書かれたダイイングメッセージだろう。」
「そう。だが、ここで質問だ。このダイイングメッセージで一番得をする人間は誰だろう?」
「損をする人間じゃなくて、得をする人間か?」
「ああ、このダイイングメッセージは得をする人間がいる。」
「誰だ? メイベリではないしなあ。」
「正解はチェルメロだよ。」
「犯人はチェルメロなのか?」
「ああ、その理由を一つずつ解説していこう。
まず、このダイイングメッセージが被害者によって書かれたものであると仮定する。すると、このダイイングメッセージを消さないのは誰か?
それは、被害者がメイベリの外出を知らないと思っていた人間だよ。なぜなら、被害者がメイベリに殺されたと勘違いできると考えていたからだ。
もし、被害者がメイベリが緊急の会議で、被害者宅にいないと分かっていたなら、まず、メイベリと書くことはないだろう。なぜなら、アリバイのある人間が犯人であるはずがないからだ。
しかし、被害者はダイイングメッセージで、メイベリを犯人に指定した。
これはなぜだか考えてみると、被害者は犯人がメイベリでないと確信した上で、ダイイングメッセージにメイベリと書いた。
そして、犯人はそれを被害者の勘違いだと思ったからだ。」
「ちょっと待て。全然訳が分からんぞ。もう少し簡単にお願いできるか?」
「ああ、すまない。じゃあ、まず、犯人をチェルメロだとしたら、どのようなことが起こったか考えてみよう。
そう考えると、チェルメロはまず、後ろの部屋から入って、被害者の背中を刺す。そして、被害者は最後の力を振り絞って、ダイイングメッセージにメイベリと書いた。チェルメロはこれを絶好の機会だととらえる。
なぜなら、チェルメロは被害者はチェルメロをメイベリだと勘違いしたと思うからだ。
チェルメロは、メイベリが緊急の会議で被害者宅を出た時に、そのことを伝えられなかった。なので、チェルメロはメイベリが家にいると思っていた。だから、チェルメロは自分が犯人から除外される絶好の機会だと考え、ダイイングメッセージを消さなかった。
しかし、後でチェルメロ重大なことに気が付く。メイベリが会議で外へ出かけていたことを知ったんだ。
チェルメロは被害者宅に会議から帰ってきたメイベリを案内したと言っているのだから、少なくともメイベリが殺害時刻である昼の間に完璧なアリバイがあることにここで気が付いたはずだ。
チェルメロはダイイングメッセージを使って、メイベリを犯人に仕立て上げようと考えていた。しかし、そのメイベリには完璧なアリバイがあるという矛盾ができてしまう。
その時、チェルメロは時限式の殺害トリックを使おうと考えた。
おそらく、チェルメロは氷を使ったトリックを思いついた。天井に、ナイフの付いた氷を仕込んでおき、それが昼頃に溶けて、被害者の背中を突き刺す。そんなトリックを考えた。
このトリックを使えば、アリバイは関係なく、被害者を殺せる。なら、真っ先にダイイングメッセージのメイベリが疑われるはずだと考えた。
だから、チェルメロはメイベリのアリバイに気が付いた後、犯行現場に戻り、執筆机と死体を濡らした。まるで、氷のトリックが再現可能であったかのようにね。
しかし、この氷のトリックには欠陥があった。
それは、水で犯行現場を濡らした時、ダイイングメッセージの血文字が固まっていたことだ。
氷のトリックを使った時に、このように血が固まることはなく、少しは水に血が滲むはずだ。チェルメロはその欠陥を見逃していた。第一、その欠陥に気が付いた所で、ダイイングメッセージを消す選択はなかったと思うがね。
それに、他にも氷のトリックが不可能であることは、物理的、心理的、時間的にも証明される。」
「それはもういい! とりあえず不可能なんだろう。」
「ああ、そうだ。メイベリが氷のトリックを使って殺すことは様々な観点から不可能だ。
そして、この時、メイベリが犯人でないこととロイドも犯人でないことが分かる。
なぜなら、ロイドはメイベリが会議に行っていることを知っていたからだ。それも、被害者と一緒に聞いている。つまり、被害者が犯人はメイベリというダイイングメッセージを残した時点で、ロイドはそれを怪しいと思う。
なぜなら、被害者はメイベリにアリバイがあることを知っているからだ。それに、男である自分と女であるメイベリを被害者が見間違うはずがないのだよ。
だから、ロイドは犯人ではない。」
「なるほど、それで、犯人はチェルメロであることは分かった。
しかし、そうだとすると、なぜ被害者は犯人はメイベリだなんてことを書いたんだ?
だって、被害者はメイベリの犯行が不可能であることは分かっていたんだろう。ならば、なぜ、そのような信頼性のないダイイングメッセージを残したんだ?」
「それは簡単だ。被害者は犯人にダイイングメッセージを消されないように、犯人を伝えたかったからだ。」
「?」
ノイマンはそのように言うと、さらに推理を続けた。
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