第9話いざ王都出立!



 断念したわ。今度ゆっくり謝罪と共にお話をします。神様は寛大なので、こんな感じでとぼけることも許してくれるはずだわ。


「ふむ。丁度良い紹介しよう、これからノルドシュタットへ向かうことになる聖女のアリアス・アルヴィンだ」


 若い男の人に軽く会釈をしたわ、そうしたら立ち上がって右手を胸の前に置いて自己紹介。正しい儀礼、これが初対面の挨拶の最上級ね。


「ゲベート王国の王子で、カール・フォン=ヴァルゲンハイム、覚えておいて貰えると嬉しいね」


 爽やか系イケメンとはこれよ、金髪で長いまつ毛、それなりに筋肉もついていて背が高い、いやらしさが無い喋りに、笑顔満点、そのうえ王子と来たら完璧ね。世の女性の多くがこれを見る為にキャアキャア騒いでるんですよ。


「初めまして、アリアス・アルヴィンです」


 私ときたら無味乾燥な反応で、最低限の名乗りしかしない。だって興味ないんですもの。


「話は聞いたよ、君が志願してくれたって。有能な聖女が祈りを捧げてくれることに感謝を」


 これは重要な会議だったわけね、どうして偶然ここでやってるのよ全く。元から高位の人しか使えない部屋なのかも知れないわね。完全に場違いなので、サクッと退室したいんですけど。


「しかし意外だったよ、リンダが君に指輪を渡したらしいね」


「リンダ?」


 ああ、あのイカれ王女ってリンダって名前だったのね、以後はそう呼びましょう。間違えてはいけないから、オプファー王女もリリアン王女って言わないとダメねこれ。王子はカール王子、いいわね覚えたわよ。もう王女違いは起こさない。


「もしかしてここにはリンダを探してきてくれたのかな、だとしたら仲良くしてやって欲しいな」


「はぁ」


 それってとても難しい気がするんですよ、何を考えてるかわからないから。でもまあ、少しは理解出来たけど。取り敢えずは言いたいことを言ったみたいでカール王子が座る。


「アリアスもこちらへ」


 リリアン王女が呼ぶから仕方がなくソファに座ったわ。来てしまったから帰れと言えないだけかも、でもいつでも帰りますよ。


「近年王都周辺は祈りのお陰で狭いながらも聖域を得ている。これを維持しつつ、北部との回廊を結ぶのが今回の目標だね」


 へぇ、リンダ王女もちゃんと祈りをしてるのね。精霊の盟約とかで触れていた、魔に対抗する力ってのが私達にあるみたいだから。


「ノルドシュタットは治安が不安定ゆえ、専門の護衛部隊を配する予定であります」


 マケンガ侯爵が二人の手足ってことになるのかしら。カール王子もリリアン王女も、領地を持っているわけじゃないから、人員も供回りの少数ですものね。でも格式は上だから立場的には指導者って、ほんとめんどうよね。


「マケンガ侯爵、宜しくお願いする。一年程で周辺はかなり魔物が弱体化する見込みだ」


「国軍からも兵を出させるよ。司令官には侯爵を任命するように父王にも上奏しておく」


「承知致しました」


 こうやって国は動いてるのね、へぇ。完全に私は要らないわよねこれ。すっごく居づらいわここ、自分のせいでしかないんだけども。ものごと決まっているのをなぞる、これが会議。


「エリザベートにも引き続き祈祷を行うように伝えて欲しい」


「そのように致します」


 誰かしらねエリザベートって。それにしても侯爵よりも王子王女の方が上なのね、侯爵がとても丁寧で素直に話を聞いてるわ。城門前でのあの態度が嘘みたい。


「護衛部隊の準備が整うのはいつ頃だろうか」


「三日頂ければ」


「そうか。アリアスも三日で移動の準備を整えておくのだ」


 今でも良いけど一応頷いておく。たーだ行くだけの人と、守るために戦う準備する人じゃかかる時間が違うわよね。リリアン王女、カール王子と相対しても全く劣らないわ、凄いわよね。それから二十分くらい色々と話をしていたけど、私の出番はないわ。


 すっと立ち上がって「私、やるべきことがあるのでこれで」お辞儀をして部屋を出る、来る時も唐突で出る時もね。部屋の外ではさっきの騎士の人が居て一礼してきたわ。私も微笑むと「リンダ王女がどこに居るか知っているかしら?」まずは聞いてみることにする。


「それでしたらきっと中庭の庭園にいらっしゃるでしょう」


「庭園ですか?」


 どこにあるかを簡単教えて貰ったので行ってみることにする。最初の廊下の角を曲がろうとしたところで「アリアス」呼び止められちゃった。足を止めて壁に背を当ててその場で待つ。やって来たのはマケンガ侯爵ね。


「忘れ物でもしたかしら」


「そうではない。ノルドシュタットへ向かうのだな」


 さっきまで知らされていなかったわけね、互いの情報を共有するのにそこそこ時間かかってるのね。そうそう顔を合わせていないだけでしょうけど。


「ええ、神殿は短い間になりますけど、とても居心地良いですよ」


「うむ。俺が軍司令官として赴任することになる、陛下からの任官待ちになるゆえ遅れて到着する見込みだがな」


「そうなんですね。でもどうして?」

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