第10話運命のふたり


 あんな辺境に居るよりもあなたはここでやることがあるんじゃないの? 王子や王女と連絡が取れないと、きっとその後に良い影響があるとは思えないわ。


「ノルドシュタットは俺の領地だからな。他人が指揮する軍を入れる位ならば自分で行く」


「おおっ、なるほど。納得しました」


 うんうん、これ以上ない位真っすぐな理由。領地を持っていてもこうやって王都にいなきゃいけないのは、心配よね。


「途中途中で指示を出しながら行くので十日は遅れるはずだ。直下の護衛部隊をつけるから安心して行って欲しい」


 上の立場の人にはやるべきことが多いわけよね、それはわかるわ。でも。


「それもこれも誰かに言伝でもしたら良かったんじゃ? 部屋では王子と王女がまってるんですよね」


 ちょっとした疑問よ、別に誰が伝えても同じじゃないの。上司を待たせて何をやってるのよまったく。


「もしかして、私とこっそり話したくて追いかけてきてたりして」


 にやっとしてからかってやる。けれども咳ばらいをするだけで視線をそらすんだから、こっちが困るじゃない!


「あー、うむ、そうだ、あー、その首元の飾り、似合っているぞ」


 必死になって別の話題を探したのか、あの首飾りを見付けて話を逸らしてきた。丁度好いので私もそれに乗っかる。


「ありがとう。お言葉に甘えてこれ、マケンガ侯爵宛の請求出すようにってさせてもらいました。金貨二枚ですって」


 小首をかしげて装飾をじっと見る、そして口元に指をやって「純金貨二枚ではなく、金貨二枚?」そんな質問を。


「え、そういえば純金貨って言っていた気がします。違うんですか金貨と純金貨って?」


 あまり現金を扱うことないから馴染みが無いのよね、食料品や衣料品を買うだけなら銀貨の神殿請求で済んだから。ちなみに焼き菓子一枚が銀貨一枚よ、でも朝ご飯も銀貨一枚で食べられるのよね。


「金品位が高く型も大きい純金貨は、金貨の十倍の価値がある。まあそれだけの価値がある品ではあるがなそれは」


「えーーーー! これってそんなに高いものなんですか、直ぐに返してこないと!」


 王女に指輪を返すとかそういうのを全部後回しにして大パニックよ。十倍って、一年分のお菓子代越えちゃうじゃない。


「構わん。似合っていると言っているだろう、身に着けていると良い」


 そんな大したことじゃないって感じで言うけど、普通の人が働いて稼げる数か月分のお給料ですよ? 


「……でもそれは悪いです」


「俺に恥をかかせてくれるな。たかが純金貨二枚のものを返品などされては笑われてしまう。その程度も買い与えることが出来ない男なのかと」


 確かにそんなことをしたら侯爵の度量がどうだとか言われちゃうわよね。それこそ迷惑をかけるってことになるわ、でもこれをただ貰うのは気が引けるの。


「気づかずに無駄遣いをさせてごめんなさい。ちゃんと働いていつかお返しします」


「ではノルドシュタットでしっかりと祈ってもらいたい。それで充分だ、いやそれこそが俺の望みだ」


「わかりました。任せて下さい、祈りなら得意なんですよ」


 微笑を残してマケンガ侯爵は部屋に戻って行ったわ。あっちでもまた会えるってことかな、そうだ庭園にいかなきゃ。えーとこっちよね。


 廊下を二度三度曲がると、花の香りが漂ってくる。見えないけれど近づいているのが感じられたわ。トンネルのような通路を抜けると、緑色をベースにした色とりどりの庭園が目に入った。


「凄い……」


 驚いた時にはそんな言葉しか出ないのね、語彙力なさすぎよ。お花畑というよりは、果樹の類もあったり、ツタが巻き付いていたり、石があちこちに配置されていたりで庭園という単語がしっくりとくる。中に勝手に入って香りを楽しんで大きく深呼吸した。新緑の息吹が感じられるわね。


「あら、来たのね」


「あ、リンダ王女」


 無表情代表のリンダ王女が登場よ。庭園の美女ね。こちらに近寄って来ると左手の指輪をチラッと確認してから目線を合わせて来る。


「ちゃんとつけてくれてるのね」


「そうなんですけど、これお返しします。何だか身の丈に合わなさそうな効果がありそうで」


 王宮への通行許可も不要になるし、いいかなってね。じっとこっちを見詰めたままで何も言わないのやめてもらえますか?


「あの、聞いてます?」


「あなたは運命を感じないの?」


「それは……精霊の話ですよね」


 時系列変な気がするどけ、フラウが私に伝えられなかっただけで、リンダ王女のトバリが早めに教えていた可能性はあるわよね。


「血の盟約、残るはあなたと私だけ。失われたら大変なことが起こるわ」


 魔王が降臨するとか、恐ろしい何かが待っているような話ですよね。そんなこと他所で話したら、疲れてるから休みなさいって言われそう。


「そうではあるんですけど、それにしたってこの指輪、ちょっと怖い位で」


 リンダ王女は首を左右に振って違うって。


「それは私が認める代理人の証。ただそれだけよ」


 それだけ……のはずが、随分とアレなんですけどね。好意だっていうのは凄く解りますけど、どうなんでしょう。


「私、ノルドシュタットに行くことにしました。暫くここには来ることが出来ません」


 その後もきっと王都以外に行くことになるわ、事と次第によってはずっとあちこちを転々とするの。


「それはあなたの意思で?」


「そう、だと思います。強制はされていないし、そこでなら自分が求められるのかなって」


 変な表現よね、でも多分あれは私の意思なのよ、きっと。メイビー。


「私はあなたを求めてるわ。ここに居てもいいのよ」


「え、なんでそんな急に」


「それが運命。やっと見つけた仲間を危険にさらせない」


 仲間? 精霊同士がそうだから? どうにも発想についていけないわ、そのなんというか悪い人ではないのはわかったけれども。


「行くと約束したんです、だからごめんなさい。きっとそのうちまた会えますよ」


 にっこりとして好意を受け取ることにする。指輪は、それこそ今度会った時にでも返すことにしましょう。


「そうね。必ずまた会えるわ」


 何故かリンダ王女は随分とあっさりと立ち去ってしまった。固執したかと思ったら、うーんやっぱりわからない人よ。それにしても、求められて……たのかな? ちょっと嬉しいわねそういうの。


 神殿に戻って残りの時間は全て祈りに費やしましょう、せめてそうしてからここを離れる。私が出来ることなんて少ないから。

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