第8話王女違い
こういうもやもやって抱えてたら長いから、はっきりとした気分にさせましょう。
「王宮に行くわ!」
善かどうかはわからないけれど早速動きましょう。身支度を整えて、肩掛けのバッグにお菓子を詰めると神殿を出るわ。これって必要とか考えたらダメよ。まず言いたいのは南の神殿から王宮って結構歩くと時間がかかるのよね。乗合馬車ってのも流石に城内を巡ってはいないから、結局自分で行くしかないわ。
「はぁ、遠い」
自慢じゃないけれど体力はないわ。だって祈りは集中力よ、どうやって無心になれるかって相反する状態に持っていく集中。自分でもどう表現していいかわからないの。
ここで文句を言っても距離が縮まることはないし、諦めて一歩一歩を踏みしめるしかないわ。神殿に帰るのも有りよりの有りとか思えるけれども。途中で一休みしてから、残りの道のりを進んだ。着いた頃には肩が落ちてたりして。この前とは違う門番ね。バルバードを持ってじっとこっちを見てるわ。
「通りたいんですけどいいかしら」
左手の指輪を見せると、腰を折って顔を近づけて確認する。寄っていた眉がぱっと上がり「許可する」道を譲ってくれたわ。おお、ちゃんと機能するのねこれ。ふと気になって「あの」すれ違い際に門番に声をかける。
「なんだ?」
右手を見せてオプファー王家の指輪を前にして「こちらでも通れますか?」ほら、六角の返したらまた止められるようじゃ困るから。うーんと唸って首を捻って「今は勘弁だ。通れないことはないが、気軽に通られても困るな」妙な受け答えをされた。
「えーと、それって?」
「そいつはオプファー王国の印章だろ。となると外交官かそれに類する者として応対する必要が生じるからな。事前に通告の上、専門の者がやって来るまで待ってもらうことになる」
おおぅ、そっか、そうよね。これは外国のものでお客さんになるから、気軽に通られても困るって話に納得よ。
「今はってのは?」
「王子と婚礼すれば晴れて王女もゲベートの妃。そうなればその印章はゲベートの妃のものと認識されるから、通行証として使えるからな」
ゲベート王家の王子の妃になる、王子妃っていうのかしらね。そうなってもオプファーの王女っていう身位は失わない、生まれ持ったそれは一生よ。
「凄く納得したわ。門番さんって詳しいですね!」
「まあな、俺達門衛は武兵の中でも紋章学や外交儀礼などを認められた者だからな。伊達で王城の前に立ってるわけじゃない」
そういわれたら確かにそうかもって思えるわ。街の出入り口に居るのとは役目の内容が違うものね。もちろん職位の卑賎じゃなくて適材適所って意味でよ。大いに感心して王宮内へ向かう、そこで気づく。あの王女ってどこに居るのよ。
この前は偶然会ってどこかの部屋に入ったけど、そこに行けば居るのかしら? えーと、確かこっちよね。勝手にうろついて怒られないか不安ね、今のところなにも言われていないけれど。
この前の部屋の前に若い男の人が立ってるわね、ちょっと話を聞いてみましょう。
「すみません、ここに王女は居ますか?」
「失礼ですがレディは?」
二十代後半位かしらね、背筋が伸びてるキリっとした人。一言で表すならば騎士かしらね。誠実そうで何か信念を抱えてそうな。
「アリアス・アルヴィンです。ちょっと探していまして」
「どのような御用でしょうか、私が伺います」
ってことは居るのかしらね、でもなあ大分プライベートな話だし、直接じゃないと。うーん。
「通しては貰えませんか? 一応これ持っているですけど」
左手の指輪を示してみる。けれども騎士は意外とすんなり「申し訳ございませんがお通し出来ません」ばっさりとやって来たわ。あらー、ほんとに門しか潜れないのかしらこれ。困ったわね、両手を口元に当ててちょっと考えちゃったわ。
「ぁ……失礼レディ、そちらのは?」
「あ、これ? もしかしてこっちなら良いんですか?」
右手の指輪を見せると、よーく観察して「ここで少々お待ちください」部屋へと入って行ったわ。確認は必要よ。ちょっとしたら出てきて「どうぞ中へ」お許しが出たみたい。扉を開けて通してくれる辺りは騎士っぽいわよね。
中に入って驚きよ、王女がいるじゃない、オプファーの方の。オーイエス、そりゃ右手のが有効よねこれは。王女違い! いやー、人生でも果たして使うことがあるのかという単語が頭に浮かんだほどですよ。
「アリアスよ、何か急用でもあったか」
心配そうにこちらを見詰めて来る王女、その向かいには若い男の人と、マケンガ侯爵が居るわ。もしかすると王子かしらあれって。どことなくあの王女と似ているような気がする。
「あのですね、実はちょっと王女違いをして」
「ん、どういうことだ?」
どういうことって、間違えましたでここに辿り着いてしまったことを説明するの難しくない? 仮にも王宮で、どうみても頂点の人たちの会議に割り込んでやって来て、間違えましたって。
「いえ、ここに導かれてしまって」
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