第7話精霊たちの願い
◇
「……ス……」
遠い先で何かが囁いているような気がする。
「……アス……」
あれ、今誰かに呼ばれたような気がしたけれど。目を開けると真っ暗で、頭を動かすとうっすらと星明かりが差し込んでいた。淡い発光をしているフラウの姿が目に入る。召喚もしてないのにどうして?
「フラウ?」
「アリアス、聞いて」
こんなこと初めてよ、精霊が自分の意思で顕現することが出来るなんて知らなかったわ。呼びかけに応じて現れた事以外無かったのに驚きよ。
「なに?」
「トバリさんから伝わって来たの。もう血の盟約で繋がっているのは私達だけだって」
トバリってあの水の精霊ね。伝わって来たというのは話をしたとか、精霊なら触れ合ったとか。
「血の盟約って、アルヴィンだからって言ってたアレ?」
私が幼いころに自分の中にフラウが居ることに気づいて、それ以来ずっと一緒なのは、アルヴィンの血脈だからっていう。あの王女もそうなのかしら?
「そう。血が絶えても精霊は消えないけれど、盟約は失効するの」
「それって?」
アルヴィンという対象が消えたら、精霊は行きどころを失うのよね。盟約が失効したらどうなるのかしら。
「私達が解放されて自由を得る。そして人の世界に魔物が増えるわ。かつての魔王が降臨するの」
盟約からの解放、そして力を持った精霊が自由を得る。けれど同時に魔王が? もう何百年も前に存在していたっていう伝説の魔物、あんなのおとぎ話だって思っていたけれど。
「精霊との盟約が魔王の枷になっているってこと?」
訳が分からないことばかりね。でも今まで何の疑問も持たなかったけれど、私が盟約を持っていたのってどうして? それはそういう血脈だからだけど、アルヴィンって一体なに?
「お姉ちゃんが愛していた人たちを守ろうとして、私達精霊を一人ずつつけていたの。その人達は魔に対抗する力も持っているの。でもその存在も一人減り、二人減りして残るは二人だけ。大切な人が消えてしまえばもう人間を守る必要もないから」
それは祈りの素質、聖女の能力? 曖昧過ぎてよく解らないわね。
「フラウのお姉ちゃん?」
精霊のお姉ちゃんって、どういうこと。あーもう、わけわからないことばかりじゃない!
「私のことを育てて、自我と名前をくれた人」
「もしかしてトバリって名前も?」
自我を与えたって、あれは芽生えるもので与えることなんて出来るの? 名前についてはひねくれたのつけたなった思うけど。
「そう。トライバリ湖のトバリ。トライのすぐ傍にあった湖の精霊。もうトライもトライバリ湖も存在しないわ」
そっちは意外と命名単純だったのね。フラウは私に何を伝えようとしているの、これって夢の中?
「私はどうしたらいいの?」
「生きて命を繋いで。もし最後の一人になったら、もう一つの盟約が発効するわ」
「それって?」
「これ以上は許されていないの。私達精霊は永遠にアルヴィンの味方、そうお姉ちゃんが決めたから」
すぅっと姿が薄くなって消えて行くと、私の意識も何だか遠くなって目の前が真っ暗になって星明かりすら感じられなくなった。
「…………朝?」
ふと目が覚めると部屋の中が明るくなっていた。神殿の一室、いつもの儀式の間。頭に残っているあのやり取りは夢か幻か、妙に鮮明ね。
「フラウ、出られるかしら?」
召喚を念じると、氷の結晶が舞ってきて目の前で少女を形作る。よかったちゃんと応じてくれて。
「さっきの話の事だけど、詳しく教えて貰えるかしら」
「あれは例外規定。他には伝えられない制限があるの」
「制限って?」
「そういう盟約。嘘偽りのない全て」
それは……精霊が真実以外を用いることが無いのは知っているわ。ということは何も答えられないのも本当なのね。精霊は永遠にアルヴィンの味方というのも本当で、魔王の降臨も。
「フラウにもお姉ちゃんが居たの?」
「……答えられないです」
「魔王ってどんな存在?」
「……答えられないです」
「愛していた人たちって?」
「お姉ちゃんの友人と、その子供たち」
するとフラウのお姉ちゃんって人間だったのね。精霊達の盟主が人だった、何百年も前の遺産がアルヴィンの盟約。同じように幾つもの盟約があったけれど、最後の二人が私とあの王女。もしかしてあの運命って言葉、これを知っていて?
「ところでどうしてこうやって出てきて普通に話をしなかったのかしら?」
だってわざわざ夜中にあんな風にすることないじゃない。
「……答えられないです」
何か理由があるのね、まあいいわ。妙なことになったけれど、今までと変わらずに暮らしていればいいのよね。
「わかったわ。フラウはずっと私の味方、これからもずっと。だから頑張って生きていけってことでいいのね」
「そう。それがお姉ちゃんの願い」
フラウは微笑むとすぅっと消えて行った。うーん、お姉ちゃんか、なんで答えられないになったのやら。全然隠せてないじゃない。なーんか妙に重い気分ね、楽しい必要はないけれど平静じゃないのは良くないわ。
あの王女はどう思ってるのかしらこれを知って。もう一度話をしてみようかしら、昨日の今日で王宮に行くのもおかしくはないわよね、こんな大変化があったわけだから。
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