第6話指輪の威力

「さあ、私が聞きたい位です」


 菓子をもぐもぐしながら応じる。多分だけど、国や時代が違ったら即座に牢屋行きよねー。平気な顔でそうしてたら解決しない話だと悟ったようで終わりにしたわ。さあ行きましょうか。


「それじゃ行きます。ちょっと街でお買い物してから神殿に戻りますね」


 そう私の居場所は神殿なのよ。ホールにエスメラルダが居ないことを確認して、玄関を通るのに成功した私でしたとさ。


 門を潜る時にはもう何も言われなかったわ、出る時だからなのか指輪のお陰かはわからないけどね。それはさておき街に出てきましたよ、こっちに来てから初めてのまともな外出。だって今までのはただの移動ですもの。


 王女に装飾なんてしてないと言われちゃったし、ちょっとここ見ていこうかしら。アクセサリーショップね。こういうとこ入ったのは久しぶりよ、一つだけお願いがあるの、店員は話しかけてこないで苦手なのよねあのトークが。


 恐る恐る店内を見回す、指輪にネックレス、ウィッグとかネイル……まあ色々とあるわけよ。期せずして指輪は左右に一つずつつけることになったから、それ以外を探しましょう。


 白のブラウスだけでこれといったポイントもないから、胸元とか首元につけるようなのを何か。襟があるからぶら下げたりするのはちょっと無理ね、タイにも見えるこのリボンとかいいんじゃ?


 白黒赤はゲベートの国家色ね、このリボンとブローチをつけましょう。金メッキされていて中央に色付きのガラスがはめ込まれているもので留めて鏡を見る。こんなものよね大分印象違うと思うけれど。うん、決まりよ!


「すみません、これください」


 店の奥に居る年配の女性の店員に声をかける。上手につけられたのでほどかずに行って、これをって摘んで。


「あらまあ可愛いじゃないの、似合っているわよ」


 にこにことして褒めてくれる、組み合わせが変じゃなくて良かった。あまりこういうのの目利きに自信がないのよね、興味は何処にあるかと言えばお菓子よ。


「お父さんかお母さんは?」


「私だけです」


 さすがにそういう歳じゃないんですけど、いつからかあっさりと成長止まっちゃったからなあ。


「そうなの? お代は純金貨二枚だけれども」


 えーと、金貨二枚というと焼き菓子二百枚分ね。そういうものなのかしらね、ピンとこないわ。うーんって顔のおばあちゃんが居るわね。


「南の神殿に請求を、マケンガ侯爵宛で」


 支払いはちゃんとするわよ、払うのは私じゃないけれど。リボンとブローチくらい何もいわないでしょう?


「侯爵様宛にかい? お嬢ちゃんのお名前を聞いてもいいかい」


「アリアス・アルヴィンですけど」


 垂れ下がっている目を細めてしぶーい顔をされています。ツケで買うのも難しいものなのね、前は神殿に何でも持って来てくれたんだけど。長いこと居たからそういう積み重ねもあったのかもね。


「これにサインを」


 特別仕様の紙を差し出されて、羽ペンを渡される。渡しましたよって証明がないと請求しづらいからよね。左手で受け取ってサラサラと筆記体でサインする、私ってば左利きなのよ。懐疑的な表情だったおばあちゃんだけど、中指の銀の指輪を見て大きく目を開いたわ。


「グラオベンランツェ! ああ……これはとんだ失礼を。お嬢様はどちらからお出でで?」


 急にお嬢様に昇格したわね。この指輪ってばもしかしてアレなんじゃないかしら、通行許可証とかじゃなくてもっと面倒な何か。今度会ったらあの変な王女に返しましょう。


 どちらからってお城からとかいう意味じゃないわよね。


「オプファー王国からです、ここにはまだ来たばかりで」


 遠くから来たものよ、通りの名前すら知らない街にね。それだって近いうちに出て行っちゃうんだけど。


「どうぞご贔屓にお願いいたしますお嬢様」


 なんか頭下げられたけど、そういうのイイんで。お仕事ちゃんとしてるなら遜る必要ないと思うのよ。口に出して揉めるのも嫌だから無反応で出てきちゃった。それにしてもオプファーより色々と品ぞろえ悪い気がするわ、やっぱり貧乏な国なのかしら。


 こんな街の中でもあちこち見かけるけれども、警備兵が多いわね。魔物がたくさん出るから対応に必要ってことなんでしょうけど、王都でこれなら地方はかなりの警戒度合いになっているわきっと。


 街道は人間が確保しているんでしょうけど、道を外れたら魔物が跋扈してる。流通が滞ればこうやって品ぞろえが減って、経済が圧迫されていく。悪循環の見本ね。この流れだとまず間違いなくノルドシュタットに着くまでにひと悶着あるわ。


 移動の手筈っていうのも、キャラバンを組んだりする感じかしら。遭遇するのは魔物だけじゃないわ、治安維持に人手を割かれたら悪事を働く人を取り締まるのにも時間がかかる。一気に改善することなんてできない、王女がかかる時間の短縮を選択したのはこういう事情を統合した結果なのよね。


 軽く見物するだけで神殿に戻って来た。司祭はこちらを見ても小さく頷くだけで話しかけてこない、果たしてなんていわれているのか……有り難いんだけど、気にはなるわよ。紙袋とかを部屋の片隅にまとめて置いてしまい、床で転がって天井を見上げる。


 ガラス張りになってる箇所から今は太陽の光が差し込んで来てる、夜は月明かりが。元々そういった儀式用に使われていた場所なんでしょうね。


「こことは短い付き合いになりそう」


 傍に置いてある毛布を引っ張って包まる、クッションを枕代わりにして目を閉じた。ここでは好きな時に一人で自由にしてていいから。

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