第4話光が差し込む神殿の部屋で


 取り敢えず籠もるにしても買い物は必要ってことで、城内の王女が居る屋敷に一旦行くことにしたわ。いつでも神殿に居るとは言ったけどね、どうせ私の行動くらい把握してるでしょ。こっちで気を使うことなんてないわ。


 ところがよ、王城の中へ入ろうとしたら門番に止められちゃった。


「これより先は立ち入り禁止だ。通行許可証か通行が許されている者の同道が必要になる」


「あらそう。どうしようかしら」


 確かに前は王女と一緒で、出る時にも案内が居たわね。取り次いでもらいましょう。


「あなた、見ない顔ね」


 城門の内側から声をかけられる、銀色の髪が首位まで伸びているハイティーンの女性。目が大きくて綺麗な顔をしてるけど、笑顔って感じじゃないわ、別に怒ってるわけでもなさそうだけど。


「はぁ」


 そういわれても私もあなたを見たこと無いもの、なんなのかしら。城の中に居るんだからどこかのご令嬢、或いは使用人?


「……その纏っている風。あなたも盟約を持っているのね」


「も? 初めてそんなこと言われましたよ」


 確かに何か感じるわね、精霊使いに会ったことないからこういうものだって解らなかったけど、こんな感覚なのね。


「面白いわね、いいわこちらへ来なさい」


 門番に視線を向けるとこちらを見て城内へ親指を向けて許可してくれたわ。ということはあの人は使用人じゃないわけね、精霊についてちょっと興味あるわ。スタスタと先に行ってしまうものだから付いて行くのが大変、歩幅が違うのよ。


 王宮内の一室にやって来る、応接室みたいなところかしらねこれ。簡単な調度品と数人が座れるソファが対面に置かれていて、間にテーブルがあった。そのソファに腰を下ろすと「座りなさい」何故か自分のとなりを勧めて来る。まあいいけど。


 隣に座ると急に私の顔に両手を当てて自分の顔を近づけて来る。


「ちょ、何するんですか!」


 え、いきなりなんなのよ。もしかしてイカれてるんじゃないのこの人。


「いいから大人しくして」


 結構力強いのね、暴れても仕方ないから大人しくして睨んでやる。だけど全く気にせずにそのまま押さえられて動けない。


「同じ匂いがするわ」


 さ、流石にお風呂くらい入ってますよ! ……もう少し長く入ったほうがいいのかな?


「同格のスピリットロードと盟約してるわね」


 あ、そっちですか。どうしてわかったのかしら、是非とも見分け方を知りたいところよ。ようやく手を離してくれたので、少し座っている場所を離れてソファの端っこに移動する。


「唐突過ぎます、何がしたいんですか」


「悪かったわね、他意はないの。私は水の精霊トバリ、ディープウォーターロードと盟約しているわ」


 トバリなんて聞いたことないわねそんなの、水の精霊ったらアンダインとかクラーケンじゃ? 黙っていたら向こうもそのまま、それでも黙っていたらこちらを見てじっとしているだけ。これは喋らないと解決しなさそうね。


「氷の精霊フラウ、アイスロードよ」


 必要最低限の返答をすると、何とこの場で精霊を呼び出した。まったく前置きも無しでやらないでよね。とはいっても精霊は基本こちらの世界に干渉しようとしなければ勝手に影響を及ぼさないから無害。


 揺らめく水が妙齢の女性が裸の姿を形作る、次第に色がはっきりしていき意志が宿る瞳をこちらに向けて来た。


「我は水の精霊アンダイン、アンダインのトバリなり!」


 おー、そういうことね。ネームドってことか。なら確かにこっちと同格ね。これも呼ばないと終わらないだろうから。部屋に氷が混じる風が吹いて、結晶が集まると少女の姿を構築する。


「氷の精霊フラウのフラウ」


 あっちと同じで氷の下級精霊フラウが昇華して上級精霊になっているの。でも与えられた名前がフラウだってことで、すっごく面倒なことしてくれた感が半端ないわ。


「フラウか久しいな」


「トバリさん、何百年ぶりでしょうか」


「さてな」


 精霊同士って知り合いとか居るのね、正直今日一番の驚きよ。で、これでどうするのかしら。とか思っていたらトバリを消してしまった、だから唐突なんだって。


 ソファの距離を詰めてまた頬に両手を置く、それやめなさいって。呆れて抗議もしなかったら顔を近づけてきて……止まらずにそのまま唇を重ねて来た。なんで!


 ソファから転げ落ちてしまい銀髪をまじまじと見たわ。この人の頭はどうなってるのよ! 口をパクパクさせて何か言ってやろうと思うけど、うまいこと言葉にならない。


「これは運命」


 左手の小指につけている銀の指輪をこちらに差し出して来る、何よそれ。指輪と顔を交互に見る。


「王宮への通行証よ、使いなさい」


 ほんと脈絡ないわね。手のひらに乗っかっている指輪を手にして一瞥する、中指に嵌めてみると丁度良かった。これ以上なにも起こらないうちに、私はそそくさと部屋を出ることにした。ほんとさっきのはなに?


 さっきのほんとなんだったのかしら。でも指輪を貰えたからこれで出入り自由になったのね。左手の中指を観察してみると、刻印が入っていた。六角模様だけど意味までわからないわ。


 わからないもので悩んでも仕方ないので、王女の屋敷に行くことにする。戻ることにしたと表現するより微妙にそっちよりなのよ。玄関開けて二秒でエスメラルダだったわ、時すでに遅いけど嫌な予感しかしない。


 こちらに気づいて眼鏡に指をやって「随分と長い留守でしたね。今度出かける時にはしっかりと予定をお伝えください」ストレートに苦情を言われる。うん、知ってた。


「はぁ」


 どうせこの先戻るつもりは全然無いから興味がない生返事をすると、じーっとこっちを見詰めて来る。とてももの言いたげなのが伝わって来てるわよ、でも後悔はしません。


「アリアス、戻っていたのですね」


 ん、王女こそ居たんですね。王宮であれこれやってそうなイメージあったんですけど。


「ええ、今」


「丁度良い、話をしたいのでこちらへ来るのだ。エスメラルダ、紅茶を」


「はい、畏まりました殿下」


 背筋を伸ばして歩く姿はとてもご立派、芯が通っていて凛々しいわ。ちんまい私、こう見えて屋敷では客人扱いってことで二番目に上位にいることになっているわ。聖女って役職があるわけじゃないけれども、王女が招いた人物だからね。


 そういうわけでエスメラルダも厳しいことは言えても、丁寧に接する態度は変わらない。しっかりと自分の持つ境界線を守れるのは凄いことだと思うわよ。


 王女の部屋は仮住まいでも結構豪華になっているわ。ここで誰かを迎えることもあるから、可能な限りの手を尽くすって意味もあるの。椅子に座ると目の前に居る王女を見たわ。


「マケンガ侯爵に会いましたか」


 それは質問というより確認だった、きっと知っているのね。ということはこの先の会話もそれがらみになるわ。


「はい。退魔についてですね」


「年単位でのことにはなりますが、徐々に聖域を拡げて行きます。王都周辺だけを厳重にしていたというのを、隣接する都市まで確保するのを最初の目標とします」


 点だったものを小さな円にして、それらを繋ぎ合わせて線にしていくわけね。今日明日で出来ることじゃないわ、気長にしましょうか。


「オプファー王国では弱く小さな魔物が姿をあらわしているそうです。これは全域に届いていた祈りが潰えた結果」


 私の祈りが全域の魔物を弱らせて行動を阻害していたから、居なくなって重しが取れた魔物が元気になってきたわけね。そのくらいなら治安維持部隊でいっくらでも対処出来るから全然問題ないわ。


「聖女として祭り上げられている存在が祈りを捧げているうちは、その浸食もゆるやかになる。アリアスの力量がよく解るな」


https://kakuyomu.jp/users/miraukakka/news/16818093082779623425

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