リアトリス3
薄暗い馬車の中、四肢の交換を行っていた。
「あれ?スパナなんて必要でしたっけ。」
「必要。」
専用スペアならまだしも汎用スペアの差し込みパーツは規格が違う。
「汎用スペアしか積んでないんだよ、いちいち積み替えるより、現地で調整した方が早いし。」
「なるほどですねぇ。でも今攻撃されたら死にますよねこれ。」
「それは対策済み。」
「どんな?」
「内緒。」
「それ内緒にする意味あります?」
「一応ね。」
仮にあいつらがこれを見聞きしていた時、面倒事が増えても困る。
神造妖精相手は同時に二体が限界だというデータは取れたが、それは向こうも同じだと考えた方が良いだろう。しかも両足を犠牲にしてやっとというのが更に問題だ。
(とすると、今の量産工場の生産スピードを倍にして…いや、そもそもの基礎性能を…。両方?馬鹿か…資財も無限じゃない…両方をちょっとずつ上げてもさして意味は無い。)
「なんです…考え事ですか…顔、曇りやすいですね。」
「あぁ、資金繰り、どうしようかとな。」
「私達、お高いですし、なんだか最近、良くないうわさ、聞きますしねぇ。」
レンチに持ち変え、カリカリと小気味いい音でナットを締める。
「帰ったら話す。」
「帰ったら…ですか…それ、愛が、関係ありませんか?」
「当たり。」
他の人形に難なく当てられるのは分かる。だが今の、演算機能の劣化したリアトリスにバレるのはおかしい。
(ちょっと待てよ?いくらあの虎の放電が強くとも、演算機に劣化を及ぼすには電力吸収の上限を一秒未満で三つすべて超える電気量が無ければ、三つ搭載してある余剰電力を魔力に変換するシステムに阻まれて何の効果も無いはず。分析ミスもここまでくると大惨事、じゃあ逆に、あのふわふわ具合はなんなのか、半分の嫌な予測。)
「おい、ちょっと待て。」
「まぁまぁ、何も言ってないですよ?」
「聞きたくない、お前が大して壊れてないのは分かってる、自覚出来てるしな。」
「いや?どうでしょう?私の分析によると、私の、魔物を含む動物に対しての感情は異常です。目に入ると、いてもたっても――」
「おい!聞きたくないって!」
「ごめんなさい?フフっ、つい。でも、大切なはずです、多分ですけど、型によって対象は変わる、条件は分かりません、心当たり、一ミリも無いですから私。」
確かに良い情報だった。被愛の自覚が無い個体は今まで存在しなかったし、壊れているのは全て私が己が手で作り上げたオリジナルと呼称する物だけだった。
「まさかとは思うが、アイツらに弄られてないよな?」
「はい、弄られてます。」
「はいはい、相手は狡猾ですねー、一回スクラップにするか。」
「はい、そうしましょう。」
(折れて欲しいのは分かる、こういう時に真顔なのは逆に嘘だ。でも今回の”遊び”はもうちょっと粘らせてもらおう。)
破壊行為を行うような素振り、行為は、本当に意地を張った相手には逆効果、一度すれば最後まで貫かなくては後の行為は行う前の数段、効果が薄れ有効打にはならない。
かといってこれは遊び、相手以外の標的を作り、人質にすれば冗談では済まない。
物で吊るのも機械相手では無理。
上手い手を考えろ、意地の張り合いは結果的に私の損になる。
(これは返しの一手でミスったなー)
投了やむなしの状況。
(お、良い事思いついた。)
リアトリスの首に触れる。
「スペアとすげ替えるか。」
「キモ…降参で…。」
(うわぁ…私の負けじゃんこれ…)
「なぁ、確定勝利はずるくないか?」
「ティアムス様の勝ちじゃないですか、第一、それを私のせいにするのは違います、ティアムス様が返しの一手をミスしただけじゃないですか。」
「ぐぬぬぅ…だがキモは駄目だろ!」
「ルールも無いのにダメもなにも。傷つきました?」
「まったく…?」
「単純ですねぇ、そんなんだとティアムス様を愛しちゃう…居るのですか!?ん?ちが…」
咄嗟にリアトリスの口を押える。
(おい、この意味が分かるな?)
ジト目でわかったから手を離せと訴えかけてくる。
手をすぐに離そうとすると、なにか思いついた様な表情を見せ、私の手を口に引き当てる。
手の平を這う人形の舌。
「ッ!?何して…」
文字を書いている事に気付けた私を誰か褒めて欲しい。
『こ れ を し つ て い る の は そ の き た い た : け て : す か い え す な ら ゆ び を わ た し の ほ ほ に あ て て く た : さ い』
顔を握る様に指を動かす。
『そ の い み は も と め ま せ ん か : か え る ま て : の み ち の り は か く こ : し な さ い』
(覚悟しなさい?何を…)
『う そ の れ ん し ゆ う て : す よ』
自分の顔が引きつる感覚を鮮明に感じる。
流れる冷や汗、こいつらの教育はクローン個体に記憶を移した直後に毎度受けている、尤も受けたのは身のこなしを体に沁み込ませるための物だった、嘘の練習があんな事にはならないと、ならないで欲しいと心の底から祈る。
「おいしかった~また舐め舐めさせてくださいね?」
「お前やっぱスクラップだ。」
茶番、敵も一連の流れを見ていればそれは分かっている。
ニヤッとリアトリスが笑おうとして口角が動いたのを察知してマネする
「フッフッフ」
「アッハッハッハ」
ならば全部茶番だった事にしようという作戦。
私の読みではこれも敵は読んでいる。だが、雑に択を迫り続ければ、可能性を増やし続ければその思考に時間を使わせる事が出来る。
(ま、冗談抜きで稼げた時間、二秒ってとこだな。)
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