リアトリス1



 細い石を積み上げた石の壁。


 そこに仁王立ちで裏山を見張る人形。


「どうかなさいましたか?」


 200年ぶりの再会のはずだが、毎日会っていたかのような質問。


「何を見ている?」


「見ている訳ではありません、カミナリを待っているのです。」


 雷を待つにしては、晴天で、穏やかな風が髪を撫でる様な良い日。


 だが、リアトリスもそれは分かっている。


 ならばどのカミナリを待っていると言うのか。


 この小さな国にその名前を持つ人間が居るのか。


 裏山に生息する魔獣の名か。


「こう…ブワーっとピカピカで、ビリビリな感じの虎です。」


「ブワー?」


 感性が以前より大分劣化している、と思う。


 と思うというのは、私自身、再会した事を覚えていないし、再会したという過去の私の記録に目を通したに過ぎないからだ。


 これを修正が必要ではないと判断した可能性も十分に考えられる。


「あと…そうですね…昨日は三分前に来たのでそろそろだと思って…あっ来ました♡」


 裏山の向こうからこちらが暗く感じる程の光。


「糸剣、作成…」


 手の平を鍔に、糸の外側を極限まで鋭くし、硬化させた菱形の、向きを九十度変えれば糸一本にも見える剣を作成し、構える。


 光の道をジグザグと作り、それこそ雷のような速度で頂上から下りて来る。


 本来相手の攻撃を避ける為に作動させた魔眼ですらベゴニアに言わせれば全くお話にならないですよと言った所だ。


 当のカミナリとやらは、しっかり研いだ爪をすぱすぱ切られてげんなりしながら、最後の抵抗とばかりに放電しているが、リアトリスは放電をちゃっかり吸収しながら虎の顎を撫でている。


「かわいいですよね。♡」


(分かった。何が分かったか具体的に言うと電気を浴び過ぎて演算機能が劣化したんだな…これは愛による故障でも何でもない。)


「なぁ、リアトリス…」


「ん~!よしよしよしよし!ビリビリ可愛いねー、モコモコ~!え?なんですか?」


 ドン引きしたくなる。


「えーとな…帰るぞ。」


「あー、お疲れ様でした。ん~まっ!チュツチュツ!」


「いや、お前も帰るんだ。」


「は?はむはむ」


 虎の耳を食んでいる。


「は?じゃなくて。もうじきまずい事になりそうなんだ。」


「…」


 耳はむをやめないまま、殺すぞと言わんばかりのどちらが虎か分からなくなるような眼光。


 放電するだけのぬいぐるみと化したカミナリも諦めの目を浮べ、じっとしている。


「あいつがろくでもないモノを作り始めた。」


「…それ、私じゃないとダメです?」


(今ちょっと嬉しそうな顔したな…)


「神造妖精だとさ、性能としては…まぁ、ノイバラと…」


 ノイバラの性能を知っている分、反応が早い。


「は?ノイバラと同じだとでも?」


「ノイバラの強さは生物の思考を計算出来るから強いというか…」


「そうじゃ無いでしょう、ノイバラが無理な相手、作り始めたって事は一体じゃないんでしょう?じゃあ私じゃ…あー理解しました。全員集めてると…」


「それともう一つ理由はあったが、お前は大丈夫そうだからこれだけだな。あと無理じゃないぞ、フレーズ無しでちゃんと勝ってる、そこ間違えると拗ねるぞ。」


「で、ご主人様と話はもう、ついてる感じですか、行きたくないですねぇ、そういうのはオウレンに全部任せなさいな。」


「いつも面倒をオウレンに押し付ける…記録通りの反応どうも。それはそうと、殺すか逃がすかしてやれ、尻尾を掴んで逃がさない様にするのはやめなさい。」


「まぁわかりました、じゃあ、いきましょうか。」


「カミナリだかを離してやれよ…。」

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