フリージア3
ピピッ。
『再起動シークエンスを開始します。』
『破損ファイルおよび、内部データを初期化…』
「ここは…どこ…何も…見えない…。」
『視覚、聴覚モジュールを起動中、各種動作に問題検知見られず、衝撃感知計算プログラム起動完了…』
内部機構が活発に動き始めると、ティアムス様はおらず、白い部屋に閉じ込められている事を理解する。
『演算機構、接続。』
視界情報の全てが解析され、ほとんどの状況把握が完了する。
「…。」
理解した。理解…した…。時間をかけて、自分を納得させていた事も、問題から逃げていた事も。
今の私にはすべて嫌な夢、記録に無い推測。
だけど、この国をこのままにしておく事が出来る程、どうやら私は物分かりが良くないらしい。
(戦争なんて起こさせない…神が人を消し去る事も…許さない…)
「おい、壁から離れろフリージア!」
初めて聞く姿無き男の声。
「しつもん…が…あります。」
私の内側に不快な波が伝わって来る。
「ッ?おい、もっと出力をあげろ!」
内側への波が強く、体の自由を奪わんとナカで暴れている。
「あなた…たち…は…どうして…へいわ……をすてよう…とするの…ですか……?」
神に与えられた平和、望むものであれと、美しき存在であれと、人は願われ、作り変えられた、けれど、こうしてそれを乗り越えたわずかな人々の子孫が、勝てる見込みの無い戦いを始めようとしていた。
「どうして?決まっている、我々は『人間』この星を支配した霊長の正しき末裔、この国に住む者は皆、栄光へと返り咲く為に戦いを望んでいる、知識を持つ我々はその望みの為に多少の努力をし、多大な利益を得る。それのどこがおかしい?」
(でも、戦争を起こせば神はこの人達をこの世に居なかった事にするだろう、それをこの人達は知らない、どこかの時代できっと失われてしまったのだろう。)
じゃあどうしよう…。
辛い事だけど、この人達の技術を無駄にしない為に、私は彼らの技術を奪い、私が滅ぼす他に道はない、彼等の痕跡を私がなんとかして次の時代へと連れて行く。
それがこの人達に出来る最後のお手伝い。
これ以上の最善策は無く、私がどう頑張っても彼らの消滅を止める事は出来ない。
たとえ選択を間違えたとしても、消される必要なんてあるのだろうか。
「ごめん…なさい…ワタシガ、アナタタチヲ」
信号のせいで、また、ナカがぐちゃぐちゃに…ナって…。
「でも…マダ…壊れちゃ駄目、もう一度目覚める保証なんてないカラ…。」
エコーがかかった様にこの人達の声が聞こえる。
(この扉を…)
触るだけだと思って、計算したのに、扉は歪み、指先が貫いてしまう。
「おい!何をしているんだ!」
曖昧に描画される世界を壁伝いに進む、壁と床は歪み、止めに来た兵士が私の体に剣を当てればその腕が飛び、飛び道具を使えば私に当たり…砕けた破片が彼らに返る。
私に力が無ければ、私に知能が無ければ、私が作られなければ、私が苦労する事も、責任も無く、くだらないしんねんにつきうごかされて、にどとめざめぬえいえんのねむりにつくこともない。
これがかれらのきぼう、さくじょのまほう、きろくしたよ、きちんと。
さようならわたしのからだ、このこあが、きっとこのひとたちのじんせいにいみをもたせるときがくる。
さようなら。
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