フリージア1

 私の自動人形がとある国の研究機関に売り払われ、事件は起きた。

 

 その日、この世界から、一つの国が消滅した。


 原因は不明とされていたが、私達は特定していた。


 フリージア、行方が分からなくなった機体。


 そのコアを、クレーターの外周で回収出来たのだ。


「再生するぞ。」


 コアの中に記録された情報を自動人形たちの前で映像化する。


 映し出されたのは、あの日見た物よりかはまだ目を隠すに至らない壮絶な記憶だった。


 その場に居た全員が何も言わず、ただ嫌悪感を示していた。


 さんざんな扱いを受け、あの国の研究機関に送られた所で、映像に乱れが入り始める。


「こ…から、制限…解…する________」


 記録に異常なまでの乱れがある。それは、他者の介入による物では無く、他ならぬフリージア自身が、この記憶を削除しようと試みたという事なのだ。


 ザザ、ザザ…壊れた記憶がこすれて鳴り、その中にフリージアの声が暗い部屋に小さく響く。


「誰かを抱きしめても__傷つけない__な弱さが欲し_どうし_わた_は、こんな___」


 触れただけで、生物を破壊する程の性能を引き出されたフリージアは、悲しんでいた。


 悲しむ。感情がもし、生まれなければ、苦痛を感じる事も無く、その拷問ともいえる実験の日々を乗り越え、いづれ私達が助け出す事も叶ったかもしれないのに。


 地下研究所を進む映像が、歪みを含みながら流れる。


 もたれ掛かった金属の壁は、柔らかい物かの様に凹み、床は氷の様に砕ける。


「だれか__タスケ_」


 究極魔法。デリートの研究室へと到達したフリージアは、悲しみを胸に、自壊を始める。

美しい世界を望み、壊され、壊し。


 初めに、大爆発を起こした。地下研究所は崩壊。空高く投げ出されたコアが、次の瞬間に紫色の球体に飲み込まれ、国一つを消し去っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る