カーネーション2

 ファラソスの国王に街の修繕費用の倍を渡し、この事件を伝聞させない様に脅した後、夜の海に船をだしていた。


「お母さま…ごめんなさい…」


 甲板に設置したハンモックで夜空を見ながら波の音に風情を感じながら寝ていると、カーネーションがそばに近付いてくる。


「なぜ謝る?」


「だって…私…」


「自動人形なのに、か?」


 私の言葉にカーネーションは頷く。


「じゃあ問題、カーネーションを作ったのは誰でしょう?」


「…」


 少し意地悪な質問だったかもしれない。


「そういう事だ。人間の様に思考し、模倣し、学習する。それが私の作った自動人形。」


 後悔はしていない、すれば、自我を確立した彼女への侮辱となる。


「感情を持つ可能性が無かった訳じゃない、それがこうして現れて、そうして出た損害を私が払うのは当然の事だ。」


 月明りで、俯いたカーネーションの髪がキラキラと光る。


「もっとこっちにこい。」


 小さな歩幅で近付いて来たカーネーションの頭に手を乗せ、乱雑な手つきで撫でる。


「おかえり…」


 こうしてやるのが最適かは、正直分からない。


 自身の子供を持った事など無いし、これから先も無いだろうから、私の母にやってもらった事を模倣するしかない。


「フー…」


 口から勢いよく蒸気を吹き出し、動かなくなる。


「ありゃ」


 そのまま後ろに倒れるカーネーションをベゴニアが両手で受け止め、言う。


「やりすぎです。貴方から貰う愛への渇望だけが感情の核なのに、そんな事をしたらこうなるのは分かりきっているでしょう?」


(愛か…。)


 バーベナに対して持った感情が愛だとするなら、私の中で、それは寂しさを意味している。


「加減が分からなくてな…。」


「カーネーションを下のベッドに寝かせて来ます、ティアムス様もきちんと下で寝て下さいね?」


「ああ。」


 忠告に空返事を返して、夜空を見上げる。


 この時の私はまだ理解していなかった。


 この変化の流れが大事件に発展するという事を。

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