第9話 後期が始まった!
大学も夏休みが終わり、後期が始まった。というか始まってそれなりに時間が経った。
僕は大学では一匹狼だった。しゃべる人はいないわけではないんだけど、休みの時間も昼飯を食べる時間も移動する時間も基本は一人だ。みかんという友達はいるけど、彼女は友達が多いので学校ではなかなかしゃべる機会がない。
他に学校で仲のいい人というと
彼はキャンディーズという70年代のアイドルグループのファンで、たまにキャンディーズについて熱く語ってくれる時があるんだ。他にも鉄道が好きだったり、ミリタリー系に詳しかったり、かなり多趣味なんだ。
彼は僕と同じく一匹狼だ。今日も休み時間中、一人でイスに座って、ひとりごとを呟いていたよ。
「まず、納豆とは…何か(ネットリ)
納豆主導ではなく、シャキシャキのネギがイニシアチブを取っている。これは、いけない。ネギは納豆に対し脇役であり、千切りではなく、小口切りが望ましい。たくあんを呼んでの混合は、到底、許されない。」
「やぁ、ワタルくん。」
「キヨシさん、これはどうも。(ねっとり)」
「納豆がどうしたの?」
「いえ、なんでもないです」
「オーケー。てかこの前ワタルくんが言ってた『わな』って曲聴いてみたよ。」
ワタルくんはついさっきまでの退屈そうな態度とは打って変わって少し興奮した様子で僕に顔を近づけてきた。
「そ、それで、どうでした?」
「ああ、良かったよ。朝、電車乗ってる時も聴いてきたし。」
「そうですか。『わな』はね、ミキちゃんをメインボーカルに据えた曲、であるんだけれども、ミキちゃんてのはどちらかというと、こう、控えめね子でね…」
「よぉ、キヨシ!」
あ、この声は…
後ろを振り返るとピンク色の半袖のシャツを着た志位みかんがいた。
「やぁみかんちゃん。」
「誰だ?そいつ」
「ああ、この子は石橋ワタルくんっていう子だよ。」
「どうも。石橋、ワタルです。」
「おおよろしく!」
「それで、ええと、この子はみかんちゃんね。」
「なんの話してたんだ?」
「いやぁちょっとワタルくんが好きなアイドルの話をね。」
「キャンディーズです。」
「そう、キャンディーズ。」
「へぇ、始めて聞いた。有名なのか?」
「はい。70年代に活躍していたアイドルグループで、今はもうね、あの、解散してしまって活動はしてないんだけれども、そのね、ランちゃんはね…」
「あ、そうだ。ワタルくんのおじいちゃんの納豆屋ってたしか大学の近くだったよね?」
「はい。」
「へぇ、おじいちゃん納豆屋なんだ!」
「ちょっと帰りに3人で寄ってみない?ワタルくんいい?」
「あの、はい、私は別に大丈夫ではあるんだが、じぃじからのコンセンサス、を得ないと…」
「オッケー、とりあえずそのコンセンサスを得てもらって、みかんちゃんはいけそう?」
「おん!オラは暇だから。ワタル頼んだぞ!」
「あ、はい。あのその前にね、人の話を遮って喋る、というのはね、これ言語両断なのであって、決してね、そのような行いはね…」
「あ、ごめんワタルくん。そろそろ授業だから席戻るね。」
「頼んだぞワタル!」
僕たちは急いで自分の席に戻った。
放課後…
「いやぁ、楽しみだなぁ。」
「んね。」
「いやあのね、人様のお店に入る、ということは、しっかりしていかにゃならん、当り前のことじゃないですか?」
ガランガラン
お店の中に入った。
「いらっしゃいませぇ。」
店の奥からねっとりしたおじいさんが出てきた。
「おお、なんじゃぁ、わたるぅ。友達かぁ。」
「いやね、この子らはね、突如としてお店に行きたい、と願い出た者たちであって…」
「こんちゃ!おお、納豆がたくさんある!」
おお、本当だ。ひきわり納豆だとか、色が黒い納豆だとか、あんまり納豆は詳しくないけど色々あるなぁ。
「まぁ好きに見てくれぇ。」
「う~ん、オラ、納豆嫌いだからなぁ。」
「あの、納豆が嫌い、なのであるならばね、だからね…」
「あ、納豆クッキー!うまそう。」
「700円じゃぁ…」
「うっし、買うか。」
みかんはポケットから財布を出した。
「キヨシはなんか買うのか?」
「いや、俺は金欠だからいいや。」
数分後…
僕たちはお店を出た。
「いやぁ、お家帰ったら食べよ。」
「いやぁいろんなのが売ってたね。」
「そのね、最近は納豆を食べない、という人も多いんだけれども、しかし、健康に気を遣う、だとか、美容にお金をかける、そういう人も増えているのでしょ?納豆というのはね、健康や美容にも良い、ということをね、納豆屋の孫であるのであるからして、それは私はやっぱり訴えていきたいですよね。」
パクス・ミカーナ!!! ブンダマン @nice_guy123
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