第7話 ゾウ人間を捕獲せよ!
とある日の昼下がり、僕とみかんはおしゃれなカフェで談笑していた。
「ギャハハハッ!」
「ちょ、ちょっと、他にもお客さんいるから。静かに。ね?」
「おう、わりぃわりぃ。いやぁだってキヨシの幼稚園のゾウの話が面白すぎるんだもん。」
「ああ、それは良かった。でも一旦落ち着こうか。」
「あ、ゾウといえば。」
「どうしたの?」
「あのよぉ、最近○○公園の近くで夜に妖怪・ゾウ人間が出るらしいんだよ。」
「ゾウ人間?」
「おん、夜8時くらいに頭はゾウで、体は人間のバケモンが閑静な住宅街に現れて通行人を追いかけてくるんだって。」
「それは怖いね。」
「うん、だから今夜、オラとアキノーでそいつを捕獲しようってことになったんよ。」
アキノーってのは1話(みかんが夏祭りで燃えた回)で登場した
「大丈夫かい?」
「大丈夫だよ~。パクスミカーナがあるし。」
「う~ん。」
「あ、そうだ!キヨシも来いよ。」
「僕も?」
「おん、人手は多い方が捕獲しやすいし。」
「まぁ、さすがに2人だけだと心配だから僕も行くか。」
「そうこなくっちゃ!うし!8時に○○公園集合な。ちゃんと装備するんだぞ!」
「オッケー。」
夜8時00分頃…
僕は待ち合わせ場所の○○公園に来ていた。自転車に乗る時のヘルメットを被り、グレーのセーターを重ね着、百均で売ってるプラスチックのバッドも持ってきた。十分とはいえない装備だが無いよりはマシだ。
いやぁ、怖いな。緊張もしてきた。まだ2人とも来てないけど、僕1人の時にゾウ人間とやらが現れたらどうしよう。
そんなことを考えているとアキノちゃんが来た。
「やぁ。」
「こんばんは。」
僕と同じく自転車に乗る時のヘルメットを被っている。さすがにバットは持ってこなかったようだ。
「みかんちゃんはまだかな?」
「うん。少し遅れるって。」
「そっかぁ。」
「……。」
「……。」
やっぱりみかんの友達と喋る時はいつも気まずいなぁ…
「とりあえず、ベンチ座るか。」
僕がそう言うとアキノちゃんはビクッとした。僕が突然喋ったもんだから驚かせてしまったな。
「そうだね。」
僕とアキノちゃんはベンチに座った。
僕はスマホを開いてみかんにメッセージを送った。
『ベンチ座ってるよ。てかまだ?』
するど10秒もしないうちに既読がついて
『わりぃ。ちょっと待ってて。」
と返事が来た。
とりあえず僕はスマホをテキトーにいじって暇つぶしすることにした。アキノちゃんもスマホを触ってた。
き、気まずい…。
20分後…
誰かが走ってこっちに来る音が聞こえた。顔を上げると野球のキャッチャーの装備をしたみかんが走って来ているのが見えた。
僕とアキノちゃんは立ちあがった。
「はぁはぁ、わりぃわりぃ。」
みかんが小声でそう言うと僕は
「遅いよ~。」
と小声で文句を言った。
「いやぁ、すまんね。ほいでゾウ人間は出たか?」
「まだだよ。」
「おお、それは良かった。」
「委員長、なかなかの装備だね。」
アキノちゃんが笑いながらそう言った。みかんは高校時代、美化委員会の委員長をしていたから今でも高校時代の友達から【委員長】って呼ばれてるんだ。
「おう、小学生の頃、野球やってたから。」
「一応、茂みに隠れた方がいいんじゃないかい?」
「ん、そうだな。とりあえず茂みに隠れるか。」
僕たちは茂みに隠れて、ゾウ人間を待つことにした。
「うししししっ、待ってろよゾウ人間。オラがしばいてやる…」
40分後…
「来ないねぇ。」
「んん、出ねえなぁ。この野郎、早く出て来いよ。オラたちの殺気に気づいたかぁ?臆病者めぇ…」
「はぁ、もう9時だよ。」
「ぐぬぬ…」
「今日はもういいんじゃないか?」
「うぅ…」
「そうだよ委員長、明日また来よう。」
「ん~、そだな。そうするか。待ってろよ、ゾウ人間。お茶漬けにして食ってやるわ!」
「委員長、明日は遅刻しないでね。」
「わーってるわーってる。うし!解散するべ。かいさ~ん!」
結局、明日また夜の8時に○○公園に集合することにした。
翌日…
夜の8時00分頃、僕は昨日と同じ装備で○○公園にいた。
はぁ、怖い…緊張してきた…
僕一人の時にゾウ人間が現れたらどうしよう。
僕がまたそんなことを考えながら一人で立っていると、昨日と同じ装備のアキノちゃんが来た。
「やぁ。」
「こんばんは。」
「みかんちゃんは?」
「今日も少し遅れるって。」
「そっかぁ。」
みかんは遅刻魔だ。
「……。」
「……。」
「とりあえず、ベンチに座るか。」
「うん。」
僕たちはベンチに座った。
僕はスマホを開いて、みかんにメッセージを送った。
『ベンチ座ってるよ。急いでね。』
するとやはり10秒もしないうちに既読がついて
『おけ』
と返信が来た。
今日もスマホをいじって暇つぶしした。
10分後…
誰かが走ってこっちに来る音が聞こえた。顔を上げると、昨日と同じ装備をしたみかんが走って来ているのが見えた。
僕とアキノちゃんは立ちあがった。
「はぁはぁ、わりぃわりぃ。」
みかんが小声でそう言うと僕は小声で
「昨日よりは10分早く来れたね。」
と言った。
「いやぁ、すまんね。ほいでゾウ人間は出たか?」
「まだだよ。」
「おお、それは良かった。」
「委員長、汗びっしょり。」
「ひぇひぇひぇっ。走ってきたからな。」
何が面白い。
「とりあえず茂みに隠れるか。」
「おう。」
僕たちは茂みに隠れてゾウ人間を待つことにした。
「うししししっ、今日こそしばいてやるからなゾウ人間。オラたちを舐めるなよ…」
「ところで捕獲したあとはどうするんだい?」
「あ、考えてなかった。」
「委員長~。」
「いやだって、オラは考えるより先に行動しちゃうタイプなんだから仕方ねぇよ。」
「とりあえずパクスミカーナを発動させて相手の動きを封じるとして、問題はその後だよ。警察に突き出すにしても1分しか効果がない以上、逃げられてしまうし。」
「う~ん。」
「縄は持ってきてないんだよね?」
「おん。」
「どうする?」
「う~ん、そ、そりゃあ、リンチして動けなくするしかねぇよ。」
「おいおい、そりゃまずいんじゃないか?」
「いやぁ~、だって~。」
「委員長~。」
「う~ん。」
うわぁ、どうしよう。絶対に正当防衛は成立しないだろうし、そもそもゾウ人間に勝てるかどうか分からないし。
僕たちがゾウ人間の扱い方に悩んでいると何かが歩く音が聞こえた。
「あ、おい、あれゾウ人間じゃないか?」
道路の方に目をやると頭はゾウ、体は人間、昨日の昼にみかんから聞いたあのゾウ人間が歩いていた。僕は心臓がバクバクしてきた。
「みんな、ど、そうするよ。」
「委員長、行くしか…」
「ああ、行くしかないよみかんちゃん。と、とりあえず2人で押さえつけて誰か1人が警察に電話するしかない。」
「ああ。よし、行くぞ。突撃。」
僕たちは一斉に公園を出て、ゾウ人間に向かって走った。
「待てえええい!」
ゾウ人間は僕たちに気づくと走って逃げ始めた。
「待てぇい!お茶漬けにして食ってやる!」
みかんは足が速かった。みかんはあっという間にゾウ人間に近づくと、両腕と両人差し指を上げて「パクス・ミカーナ!!!」と叫んだ。
するとゾウ人間は気絶したようにその場に倒れた。
みかんがうつ伏せに倒れたゾウ人間を仰向けにする。
少し遅れて僕とアキノちゃんも追いついた。
「よし、とりあえず僕とみかんちゃんが押さえつけるからアキノちゃんは…」
「ちょっと待って。こいつ、被ってるぞ。」
「ん?」
「ゾウの被り物を被ってる。」
よく見てみるとたしかに被っているように見える。
「ホントだ!」
みかんがゾウ人間の被り物を取ると、たれ目の可愛い女の子の顔が見えた。
「あ、ノブゾー!」
「ノブゾーちゃん!」
「こ、こんばんはゾー…」
「ノブゾー?知り合い?」
「おん、高校時代の。」
ノブゾーって男の子みたいな名前だけど。
「あの、これどうなってるゾー?」
「あ、これね、少ししたら解けるから。」
「てかどうして委員長たちがこんなところに…あとこの男の子、誰ゾー?」
「ああ、こいつは
「は、はじめまして。」
「はじめましてだゾー。」
へんな喋り方。
「てかノブゾーちゃん、なんでこんなことしてるの?」
「あ、そうだそうだ!ノブゾー、みんな困ってるんだぞ。」
「ごめんなさいゾー。ゾー、高校卒業してからニートやってて、それで、人生に絶望して、ストレス発散のためにこんなことしちゃったんだゾー。」
あ、一人称もゾーなのね。
「そうだったんか。でもよぉ、みんな困ってるんだぞ。なぁアキノー。」
「う、うん。」
「こんなことやっちゃダメなんだぞ。なぁキヨシ。」
「うん。」
「ごめんなさいゾー。ゾー、反省するゾー。」
「おぉ~ん。ちゃんと反省するんだぞ。あともう二度とこんなことするなだぞ。」
あ、ちょっとノブゾーさんの喋り方がうつってる
「分かったゾー。もう二度とやらないゾー。」
ぐうぅぅぅぅ
「腹減ったなぁ。とりあえず、みんなでおっちゃんのお好み焼き屋行くか!ノブゾー、もう動けるよな?」
「あ、うん、動けるゾー。」
タケオさんのお好み焼き屋に行くことになった。タケオさんは1話のみかんが夏祭りで燃える回で登場したメガネをかけたオールバックの広島弁を喋るおじさんだ。
お好み焼き屋まで歩いて行ったんだけど、話しているなかでノブゾーさんはさっきも言ったようにみかんと同じ高校出身の同学年の女の子で本名は
数十分後…
「はい、肉玉そばね!」
「あんがと、おっちゃん!」
みかんは鉄板のお好み焼きを四等分して、小皿に持った。
僕たちはみかんから小皿を受け取るとお好み焼きを食べ始めた。
美味しい。
「うんめぇなぁ!」
「ガハハハッ!当り前じゃ!」
「タケオさん、美味しいですゾー。」
「そりゃあえかった!」
「でも、まぁ、ゾウ人間はもうやってはいけんよ。」
「はい、もう二度とやりませんゾー。」
「ニートかぁ。わしゃ浪人したことがあるけぇ高校卒業後の苦しみは十分分かる。」
「え?おっちゃん、浪人したことあるんだ!」
「あるよ。あの時は辛かった…。でも、まぁ、今はこうしてお好み焼き屋をやっとるけぇどうにかなるよ。」
「なるほどですゾー。お気遣いいただきありがとうございますゾー。」
「あ、ほうじゃあ!うちで働かんか?」
「え?」
「いやあ、うちはちょうど人手が足らんし、アンタはニートじゃけぇ、ええ機会じゃのぉ思うて。」
「おお、いいじゃねぇか!働いてみなよノブゾー!」
「ええとゾー…」
「お~い
厨房から太った男性が出てきた。
「なんですか?」
「この子、うちで雇おうとおもうんじゃけど、どう思う?」
「いいんじゃないですか?まぁ店長に任せますよ。」
「う~ん。ノブゾーはどうなんじゃ?」
「あ、えっと、もしゾーでよければ、ここで働いてみたいですゾー。」
「おお、そうか!明日から来んさい!朝の8時!」
「は、8時ですかゾー?」
「そう!8時じゃ!」
「わ、分かりましたゾー。」
「おお、良かったじゃねぇかノブゾー!抜き打ちでちゃんと働いているか見に来るか!ギャハハハハッ!」
ノブゾーさんはお好み焼き屋で働くことになったようだ。
数日後…
僕とみかんはタケオさんのお好み焼き屋に来ていた。
店に入るとタケオさんが店内をモップで清掃していた。
「おお、みかんとキヨシじゃねえか!」
「うっす!」
「どうも。」
「ノブゾー、ちゃんと働いてるか?」
「おう、しっかり働いとるでぇ!お~い、ノブゾー!」
厨房からノブゾーが出てきた。
「あ、みかんちゃんときよしくんゾー。ひさしぶりゾー。」
「おお、ノブゾー!ちゃんと働いてて安心したぞ。」
「ふふ、ゾーのことなんだと思ってるゾー?」
「それで、なんか食うてくかい?」
「ああ、そだな。」
僕たちはカウンターに座ってメニュー表を見た。
いやぁ、ノブゾーさんがしっかり働いてて安心したよ。
ゾウ人間事件、これにて一件落着。
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