第6話 応用編

紅茶とクッキーを堪能した僕とみかんは庭に出て散歩していた。

「いやぁ、びっくりしたねぇ。」

「なぁ。」

「テレビに連絡したら有名人になるかもよ?」

「いやぁ、なんか変な研究施設に入れられそうだからそれはやめといた方がいいだよ。」


パカラパカラッ

あれ?馬が走る音が聞こえるぞ?馬刺しが食いたくなってきた。

「キヨシ、見て!しゃもじ侍が馬に乗って走ってる!」

「あ、本当だ!しゃもじ侍!初めて見た!」

実は僕はしゃもじ侍を見るのはこれが初めてなんだ。


あれがしゃもじ侍かぁ。遠くてはっきりとは見えないけど、本当にしゃもじみたいな形の顔をしているなぁ。弓矢を持って走ってる。


「あれ?なんか、しゃもじ侍、こっちに向かって矢を引いてない?」

「んん?」

みかんと僕は目を細めた。


ピュンッ!

うわぁ!矢がこっちに飛んできた!

「うわぁ!」

「おお!キ、キヨシ!とりあえずタマタマばたけに逃げるぞ!」

「オ、オッケー!」


「「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

僕たちは全力でタマタマ畑に逃げた。

その間にもしゃもじ侍は僕たちに向かって何度も矢を放った。

ピュンッ!ピュンッ!ピュンッ!

死ぬかと思ったよ。


なんとかタマタマ畑にたどり着いた。

「「はぁはぁ」」

「と、とりあえず小屋に入るべ。」

「ああ。」


小屋のドアを開け、急いで入って、閉じた。

「「ふぅ。」」

ここなら安全だ。


「なんじゃお前ら!」

タマタマおじさんだ。白髪で立派なひげをたくわえた麦わら帽子のおじいさん。エプロンを着ていて、怖そうな顔をしている。でもいい人そう。


「おじさん、助けて!」

「やかましい!ワシはタマタマの実の栽培で忙しいんじゃ!出てけ!」

「それがよぉ、おじさん。あのしゃもじ侍が弓矢でオラたちを狙ってくるもんだから怖くて出られないんよ。」

「なに?しゃもじ侍が?」

「おん、なぜかオラたちのことを狙ってくるんよ。なぁキヨシ。」

「う、うん。」


「なんか悪いことしたかなぁ。おじさん助けてよぉ。」

「う~ん、ワシにはどうすることもできんよ。う~ん、しかし弓矢で狙ってくるとなると安心してタマタマの実の栽培もできんしなぁ。」

「おじさん、なんとかしてよぉ~。」

「あ~む…」


「あ、僕、いいアイデアを思い付いたよ。」

「ん?」

「僕とおじさんがおとりになって、みかんちゃんがそのすきにこっそり近づいてパクスミカーナを発動させればいいんだ。」

「おお、それは良い案だな!なぁ、おじさん!」


「う~ん、まぁ、おそらく良い案だと思うんじゃが、パクスミカーナってなんじゃ?」

「ああ、おじさんにはまだ説明してなかったな。オラね、超能力に目覚めたんよ。」

「超能力?」

「うん、両腕と両人差し指を上げて『パクスミカーナ』って叫ぶと近くにいる人間が1分くらい動けなくなるっていう超能力。」

「ほう、それでしゃもじ侍が動けなくなっている間に弓矢を奪って、縄で縛るという戦略じゃな。」

「そうそう。」


「あれ?案を出した僕が言うのもなんなんだけど、みかんちゃん、馬で走るしゃもじ侍に近づける?」

「オラ、めちゃくちゃ足早いから大丈夫!」

「おお、それは良かった。おじさんは走れる?」

「ワシは日ごろ、タマタマの実の栽培で足腰を鍛えておるから大丈夫じゃ。」

「オッケー。」

「よし、それじゃ準備するか!」


3分後…


僕とタマタマおじさんはドアの前に立った。

みかんは縄を持って、後ろで待機。僕たちが行った数十秒後に出撃する予定だ。


「それじゃあ、みんな、準備はいいか!?」

「うん!」

「うむ!」

「出撃ぃぃぃぃぃ!!!」


僕とおじさんは勢いよくドアを開けた。走ってタマタマ畑を抜ける。

まだ、しゃもじ侍が馬に乗って走ってる。


僕とおじさんはしゃもじ侍に近づく。

しゃもじ侍が僕たちの存在に気付いた!弓を引く。

僕とおじさんは逆の方向に走った。

しゃもじ侍が混乱している。


走れ!とにかく走れ!

しゃもじ侍が僕に狙いを定めた。

ピュンッ!

ひぃっ!殺す気か!


僕とおじさんはとにかく全力でしゃもじ侍のまわりを走った。

ピュッ!ピュッ!

ここでみかん登場。縄を片手にしゃもじ侍に近づく。


おっと、しゃもじ侍がみかんに狙いを定めた。これはまずい。

「おい、しゃもじ野郎!やれるもんならやってみろ!てめぇの馬食ってやるぜ!」

僕はしゃもじ侍に向かってそう叫んだ。

するとしゃもじ侍は顔を真っ赤にして再び僕に狙いを定める。


ピュンッ!ピュンッ!ピュンッ!

おや、さっきよりも矢を放つ頻度が高くなったな。でもさっきより下手になってる。


ここでやっとみかんの声が聞こえた。

「パクス・ミカーナー!!!」


するとしゃもじ侍は馬から崩れ落ちた。

僕はしゃもじ侍とみかんの方向へ走る。


「どう!?やったか!?はぁはぁ。」


あれ!?いない!?

みかんが不思議そうな顔をして立っているだけでしゃもじ侍も馬もいなかった。


僕とおじさんがみかんのもとに駆け寄る。

「はぁはぁ、しゃもじ侍はどこにいったんじゃ!」

「そ、それがよぉ、しゃもじ侍が馬から落ちて、縄で縛ろうと思ったら、気付いたら馬も侍もき消えてたんよ。」

「マジか。」


僕はあたりを見渡した。い、いないよな。

う~ん。

本当にいない。


「はぁはぁ、おえぇぇ…」

「キヨシ大丈夫!?」

「ああ、大丈夫。ちょっと走りすぎただけさ。それより本当にいないね。」

「おん。」

「もしかして幽霊ってやつ?」

「さぁな。」


「あ~む、少し探してみるかね?」

「う~ん、一応。」


その後、3人で手分けして探してみたんだけど侍と馬はいなかった。

なんだったんだろう。

とにかく次からみかん邸の庭を歩くときは警戒しないとなぁ。

僕はまたみかん邸で紅茶を飲んで、家に帰った。


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