第3話 無銭飲食は犯罪です!

みかんにはたくさんの友人がいるけど、その中の一人に笹木野原郁海ささきのはらいくみという子がいる。


僕たちと同い年のショートカットの元気な女の子だ。塩釜しおがまに住んでいて、親はサーティートゥーというアイスクリーム屋を営んでいるんだけど、イクミちゃんも高校卒業後その家業とやらに就いて、たまにキッチンカーで宮城を回ってアイスクリームを販売しているんだ。


んで今日、そのイクミちゃんが利府にある21世紀公園という大きな公園にキッチンカーで来て、アイスクリームを販売しているらしいのでみかんと2人で行ってみることにした。


「いやぁ~、楽しみだな。」

「そうだね。」


少し歩くとキッチンカーが見えてきた。

「お、見えてきた。」

「お~い!イクミ~!」


キッチンカーの中からショートカットの女の子が手を振っているのが見えた。


少し歩いてやっとキッチンカーに着いた。

「よう、イクミ!」

「どうも!まだ夏休みなの?」

「おん。」


メニューを見る。バニラやチョコレートなど色々ある。

「何にする?」

「僕はバニラで。」

「オーケー、みかんちゃんは?」

「お~ん、ミント!」


「オーケー、それぞれ300円ね。」

僕たちは財布から小銭を出し、レジのトレーに乗っけた。

「いやぁ、あちぃな。イクミも水分補給するだよ。」

「言われなくてもやってるよ。はいミント。」

「うい~す。」

「はい、バニラ。」

「ど、どうも。」


やっぱりみかんの友達は僕の友達ではないから気まずいなぁ。

「ん、ん、ん。」

僕は咳払いをした後、カップに入ったアイスクリームをスプーンですくって口に入れた。バニラの味がする。美味しい。


「ん~、やっぱイクミんちのアイスはうめぇな!」

「でしょ?うちのお父さん、味にうるさいからね。キヨシくんもどう?」

「あ、うん、美味しいよ。」

「それは良かった!」


「しかし今日もあちぃなぁ。イクミ、ちゃんと水分取るんだど。」

「も~、分かってるって!」

「お~ん。」


キッチンカーの前でのんびりとアイスクリームを食べていたら、後ろから男の声がした。

「そこをどけぇい!」

「んぁ?」

振り返ってみるとサングラスをかけた20代くらいの金髪頭が立っていた。男はタンクトップで腕はムキムキだった。


「俺はよぉ、アイスを食いに来たんだよぉ!買ったんならそこをどけぇ!」

「なんだおめぇ?」

みかんは男を睨む。

ま、まずい。こんなマッチョマンには勝てないぞ。


イクミちゃんが仲裁に入る。

「まぁまぁ二人とも落ち着いて。」

僕はみかんの腕を引っ張った。

「と、とりあえずみかんちゃん、あそこのベンチでアイス食べようか。」

「う、うう…」


とりあえずキッチンカーから離れることにした。

「おいおい逃げるのかぁ?ダッセェな!」

男はみかんを挑発する。

みかんは顔を真っ赤にして歯ぎしりをした。

僕は小声で

「ま、まぁ、あのお兄さんもいつか天罰を受けるさ。」

とみかんに言った。


のそのそとみかんを連れて歩く。後ろから声が聞こえる。

「チョコレート!」

「チョ、チョコレートですね。300円になります。」

「300円?プギャー!!!払うわけねぇだろ!俺が誰か分からねぇのか?県議会委員の長男・さん蔵男ぐらおだぞ!」


「そ、そんなお客様、困ります。」

「うるせぇ!早くアイスをよこせぇい!聞こえなかったか!?俺は県議会議員の長男・さん蔵男ぐらおだぁ!!!」

な、なんて野郎だ。


あれ?さっきまで僕の隣で歯ぎしりしていたみかんがいない。

僕は後ろを振り返った。


「カンチョー!!!」

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」


なんと、みかんが男にカンチョーしていたのだ!


「て、てめえ!やりやがったなぁ!」

「無銭飲食は犯罪!よって私刑に処す!ギャハハハハ!」


「この野郎!俺を舐めるなぁ!」

男は振り返り、拳を突き上げる。

「遅い!」

みかんは素早く拳をかわし、男の股間を蹴り上げる。

「グアァァァァァ!」


それから前に倒れこんだ男の背後に回り、首を締める。

「う、う、いきが…」

「オラッ!300円払いなさい!」


あっけにとられていた僕とイクミちゃんが2人に近寄る。

「みかんちゃん、やりすぎだよ!」

みかんはイクミを無視して

「おい、払うのか?払わないのか?」

と言った。

「は、払う…」


みかんは男を放した。

「クェ!ハァハァ…」

みかんは右手の人差し指を立てて、誇らしげに

「成敗完了!」

と叫んだ。


3分後…


「す、すみませんでした…」

男はしょんぼりした顔でイクミちゃんに300円を渡し、アイスを受け取ると、のそのそと帰っていった。


「これにて一件落着!」

みかんはまた誇らしげな顔でそう叫んだ。

「みかんちゃん、気持ちはありがたいけどやりすぎだよ。」

「いやぁ、だって…しょうがねぇよお。アイツ、話通じなそうだったし…なぁ、キヨシ?」

「う~ん、まぁ、う~ん。」

気まずい。


「あ、てか、アイス、溶けたでしょ?新しいのあげるからカップちょうだい。」

「お、いいのか?ほいじゃあ。」

「どうも。」


僕とみかんはイクミちゃんから新しいアイスをもらい、その後イクミちゃんと他愛もない話を少しだけして、帰った。

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