最終話
あれから半年、私の生活は一変した。
結局声を掛けられたあと、私たちに行方不明者届が出ていることがバレてしまって警察まで連れて行かれた。
何故かわからないけど、家出したのは全部
それどころか柊那に渡していたスマホを返してもらったけど、親しい人全員からブロックされていて誰とも連絡が取れなかった。
まあ
結局三人に会うかもと思うと学校にも行けなくてやめてしまったから、柊那がどうなったかもわからない。
「いってきます」
やめた後別の高校に通い始めたのはいいけど、なんかすごくつまらない。
まあ塾に行き始めてからずっと志保といたし、その後も柊那といたからいつの間にか二人が私の半身のようになっていたのかもしれない。
一人で通う学校はすごく長いし、放課後も一時間が一日のように感じる。
私しかいない部屋を見ると、ああ私の部屋って広かったんだなって思う。
柊那は今何してるんだろ。
こんなこと考えるのももう何回目かわからない。
最近は暇なときに思い浮かぶぐらいに減ったけど、帰ってきた直後はずっと考えてた。
「早く忘れないと……」
「忘れるって誰のことですか?」
「だから、柊那」
そう言ってくる人の顔を見るが、どことなく柊那や志保に似ている気がする。
けど、今まで会いに来なかったし嘘でしょ。
昨日も夜通し泣いたし多分疲れてるんだろう思う。
疲れると幻覚が見えるって聞くし。きっとそれだ。
記憶の補正が掛かってるせいか幻覚のがきれいな気がするし。
今日は早く寝なきゃ。
その幻覚は私の歩く速度にピッタリ合わせてついてきた。
「で、忘れてどうするんですか?」
「どうしようか……」
最近の幻覚とは会話までできるらしい。
まあそれだけ私が疲れてるのかもしれないけど。
「全部綺麗に忘れて、新しい恋人でも作ります?」
「あーそれもいいなー……」
「私今恋人いませんよ」
「そう」
なんで私幻覚に誘われてるんだろう。
昨日まではこんな幻覚見なかったんだけどな……。
「今フリーなんですよ」
幻覚はなぜか胸を張ってそう言ってきた。
幻覚と付き合えるわけなんかないのに。
「はいはい……」
「
「だから幻覚でしょ。今日は早く寝るって……」
私がそういうと、幻覚は不満を露わにした顔で私の頬をつねった。
「柊那ですけどっ」
「柊那? 嘘でしょ?」
私の頬をつねっていた手を取ると確かに人の体温のようなものがあった。
てことは少なくとも人? 体温がある幻覚とか聞いたことがないし。
「まだ疑うなら半年前なにがあったか話しましょうか?」
「いやいいや……」
さすがにあんまり思い出したくはない……。
家出して警察に保護されたとかいい思い出ではないし。
「で、私のこと忘れるんですか?」
「いや、忘れないけど……」
「新しい恋人でも作りますか?」
「作らないって……」
本来なら久しぶりに会えてうれしいのに、今はこちらの考えを見透かすような柊那の瞳が怖い。
なんで私さっきあんなこと言っちゃったんだろう。
「真衣はなんで最近学校来ないんですか? ずっと会えるかもって思って探してたのに」
「私やめたから。志保から聞いてない?」
「あー」
柊那は声なのかわからない音を出すと、気まずそうな顔をして言った。
「私戻ってからあの人と口聞いてないんですよね……。完全にどこ行っても空気って感じで……。まあ自分で招いたことなのでしょうがないんですけど」
「ごめん……」
「謝らないでもらっていいですか? 謝られたら自分の意思でついていった私がバカみたいじゃないですか」
「ご――」
そう言いかけると、無意識にごめんと口走りそうになってることに気づいて口を噤んだ。
気まずい沈黙が少しだけ続いたあと、柊那が口を開く。
「けど、真衣がやめたんだったら私もやめようかな」
「いや通えるんだったら、卒業までいなよ。そっちのが楽だし」
「えーけど唯一の入学理由が消えたのでもう通う理由ないんですよね」
「ん? 唯一って?」
私がそう言うと、柊那は私の方を指さしてきた。
釣られて後ろを振り返るが、なにもない。
柊那に向かって首を傾げると、彼女は言った。
「真衣と同じ高校行きたかったから今のところ選んだんですよ」
そんなこと今初めて聞いたんだけど……。
なんで私と同じところに行きたかったの?
志保と張り合って、負けないように同じ学校選んだならわかるけど。
「あーもしかして、今までずっと気が付いてませんでした。真衣のこと好きってこと?」
「いやまあ、それはうっすらとは……」
あの時もなんでついて来てくれたのかわからなかったし。
かもしれないとは思ったけど、絶対の自信はなかった。
「なら忘れないでください。大好きですよ」
彼女は弾けるような笑顔でそう言ってきたが、わからない。
今まで柊那に好かれるようなことしたことはなかったし、彼女の言い方だと大分前からみたいだけど、それならなおさらわからない。
「ありがとう。けど……、なんで?」
「私に勉強教えてくれたからですかね。私定期テストにはめっぽう強かったんですよね。それこそ親の興味をあの人から全部奪って嫌われるくらい。ただ所詮中学の定期テストで出来たところでって話で……」
柊那はそう話した後、覚悟を決めるように小さく息を吸った。
「いざ入試の勉強始めると全然だめで。今までできて当たり前って態度取ってたこともあって誰も助けてくれなくて。まあ自業自得なのはわかってるんですけど、そこで真衣に優しくされたのでまんまと……」
「まんまとって……」
そんなつもりがあって教えたわけじゃなかったんだけど。
ただ振り返ると、一度教えてから妙に懐かれていた気はする。
「けどまあさすがにそろそろ諦めますね……」
「なんで?」
「なんでって。忘れたいんでしょ、私のこと」
「いやそれは……」
さっきまで忘れたいとか、新しい恋人でも作るとか言っていた私が「私も好き」とか口にしていいんだろうか。
それはあまりに柊那を都合よく扱いすぎているような気がする。
「なにかあるなら言ってください。私はまだ真衣のこと好きですよ」
柊那は私の顔を覗き込むように言ってくる。
ちゃんと言わなきゃ。
「また一緒にいてほしい……」
それを聴くと柊那はクスクスと笑いながら言った。
「それは浮気相手って意味でいいですか?」
「違うそうじゃなくって……」
「なら告白してください。私たちの関係にちゃんとした名前を付けましょう」
柊那はそう言うと私の手をしっかりと握ってきた。
結果がわかっているといっても、告白する時はいつも緊張する。
柊那の目を見つめると私は言った。
「柊那。好きです。私と付き合ってください」
《了》
◇◇◇◇
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今後も百合作品を書いていく予定ですので、作者フォローをして待っていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いします!
【完結】浮気性の彼女の気を引くために偽物の浮気を始めたはずなのに、彼女の妹と本物の恋人になる話。 下等練入 @katourennyuu
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